1回目の人生【徳の話】
そこにいたのは、【どこかで】会ったような【ブルーの瞳】をした【男】
「お化けか……?」
『いえ【幽霊】ではありません』
「じゃあ、死神か……」
『それも違います』
「じゃあ、何だよ!!!」
苛立った俺は、【大声】をあげる。
『【柳亮一】さん。私は、あなたの【未来】の話をしにきました』
「未来……?そんなものは、もう【ない】よ」
『そうですね。あなたは、もう【時期】その命を全うします』
「ほら、やっぱりそうだろ」
『ですが……』
「【続き】なんてあるわけないだろ?人は、【死んだら終わり】なんだからよ」
『あなたの【人生】には続きがあります』
「えっ……??」
そいつは、持っている分厚い参考書のようなものをパラパラと捲っている。
『2010年11月20日。道端に落ちていたゴミを拾ってゴミ箱に捨てた。2015年3月10日。困っているお婆さんに声をかけて派出所まで連れて行った。2018年5月8日。もらったおつりが多い事に気付き、もう一度店に戻り店員さんにおつりを返却した』
「ちょ、ちょ、ちょ……。何だよ、それ」
俺の言葉に彼は、パタンと分厚い本を閉じた。
『今、読み上げたのはあなだが今世でやった【徳】です』
「【徳】?何だよそれ……」
『【徳】というのは、ようするに【いい事】です。人に対して【不愉快】な思いをさせた人間は【徳】を積みきれていません』
「いい事をして、【徳】を積みきったからって何になるんだよ」
俺の言葉にそいつは、嬉しそうに笑う。
『気になりますか?私がお話している内容が?』
「別に気にならないよ」
『嘘は言わなくていいですよ。本当は、亡くなった人しか行けませんが……。連れて行ってあげます。【徳】を積み重ねる事がどういいのか……。見る方が分かりやすいと思います』
そいつは、俺の肩に触れる。
視界が【ぐるぐる】と回りだす。
そして、一瞬目の前を光が包み込んだ。
・
・
・
・
・
『つきました』
『何だ?ここ……』
『ここは、死んだ後にあなたが来る場所ですよ』
目の前に広がるのは、真っ白な空間。
どこを見回しても、真っ白。
『では、彼についていきましょう』
そいつは、俺の腕を引っ張って次の順番がくる【男】の所に行く。
真っ白なモフモフしたカウンターのようなものの前に【男】が行く。
『名前は、八野小太郎であっていますか?』
『はい。あっています』
『年齢、性別、血液型など確認のうえ。こちらにサインをお願いします』
『はい』
男は、スラスラと名前を書く。
その紙を受け取る白髪のモジャモジャ頭。
『残念ですね。勿体ない』
突然、モジャモジャ頭は溜め息を吐きながら話す。
『せっかく、八野さんのご家族から受け継いできた【徳】もあったのですが……。今のあなたの【徳】は、0(ゼロ)です』
『ぜ、ゼロ?』
『はい。2021年8月9日。ここで、信号無視の数がちょうど1000回になりました。2022年2月10日。隣人から、音楽の騒音被害を訴えられるもあなたは死ぬまで改善する事はしませんでした。2020年9月8日。同僚である相崎さんを気に入らなかったあなたは彼に対する嫌がらせをやめずにここで一年目を迎えました。まだ、聞きますか?』
モジャモジャ頭は、イライラとしながら話す。
『そんな事で、【徳】がゼロになるわけねーだろ?俺は、【募金】だって【ゴミ拾い】だって【動物を救ったり】だってしてたんだよ。【環境】の事を考えたりだって』
『だから、何ですか?』
頭悪いのか?と言いたそうな顔をしながら、モジャモジャは溜め息を吐いた。
『だからって、たいした事ないだろうがよ』
『ありますよ。例え、100人の命を救っても。たった1人の人を傷つけ続けた罪の方が【重罪】なんです。あなたが今まで生きてきた世界では【目に見える価値】ばかりにフォーカスをあててきたのかも知れません。しかし、ここでは【目に見えない価値】が大切なのです。その【目に見えない価値】を比べた結果。あなたに対しての【恨み】【憎しみ】【悲しみ】の方が上回りました。よって、あなたの【徳】はゼロになります』
『ふ、ふざけんなよ。何が【目に見えない価値】だ!人間生きてたら、恨まれる事の1つや2つあるんだよ』
『確かにあります。しかし、あなたは【改善】しなかったではないですか……。【恨まれる】【憎まれる】それは仕方ない事です。でも、【目に見えてわかる改善】をあなたは怠りました。例えば、【騒音】です。隣人は、音楽を聞くなとは言いませんでした。少しだけでも【静か】にして欲しいと言ったのです。あなたは、それに対して【静か】にする事はしませんでした。隣人が来れば、【謝っておけばいい】という気持ちで。その場を取り繕いました。隣人は、そのせいであなたの【笑い声】を聞くだけで【苛立ち】始めます。そして、一年が経ち。会社にも行けなくなりました。大好きなお家を離れなくてはいけなくなり毎日毎日泣きました。あなたは、それを知っていましたか?』
『知るわけないだろうが!!他人の事なんていちいち考えてたら、俺の方がストレスだよ』
彼は、怒りをモジャモジャにぶつけた。
『では、暗闇トンネル3000年にお進み下さい。案内人、よろしくお願いします』
『暗闇トンネルだと?ふざけんな。輪廻転生できないじゃねーーかよ』
『3000年後に出来ますから大丈夫です。ご心配なく』
『3、3000だと?ふざけんな!そんなのいつになるんだよ』
『1人、1人感じ方が違いますから……。わかりかねます。では、次の方……』
『ふざけんな。ふざけんなよ』
『振り分け人を殴りますとその場で【魂の末梢】が始まりますがよろしいですか?』
案内人の言葉に彼は腕をおろす。
『どういう事ですか?』
俺の体は、ふわりと浮き上がる。
『ここは、【徳】カウンターです。彼らの仕事は、【徳】を読み。【徳】を計算する事です。【徳】は、さっきも言ったように【いい事】をする事で貯まっていきます。しかし、誰かの【恨み】【悲しみ】【憎しみ】によって減っていくのです。しかし、それがわかるのは【死んでから……】生きている間は、【どうにかする事】しか出来ないんです』
『どうにかするって、そんな【適当な事】言わないで下さい』
『【適当?】ではありませんよ。生きているうちは、どうにかするんですよ。【向き合う事】【誠意を持つ事】【謝る事】【優しくする事】【人に迷惑をかけないようにする事】そんな当たり前だと思われる事を積み重ねていくしかないんです』
彼は、また俺に触れる。
「戻ってきたのか……」
『はい、戻りました。では、柳亮一さん。あなたの【未来の話】をしましょうか?』
「未来って……。未来なんかあるのか?さっきの人は、3000年って」
『さっきの彼とあなたは違います。だから、あなたに【未来】はありますよ。それに、私はあなたにその【未来】を渡しましたよね?覚えていませんか?』
開け放たれた窓から、温い風が吹いてくる。
「花屋さん……?でも、あそこは次の日に愛理が行ったら潰れていたって……」
俺の言葉に彼は柔らかく微笑む。
『潰れたのではありませんよ。ただ、見えなかっただけです』
俺は、彼から目が話せなくなる。




