一回目の人生と花束
「綺麗ね。青い薔薇って何か神秘的だよね。赤とかピンクとか白も好きだけど。青い薔薇もいいね」
「そうだな。綺麗だよな」
「これって、亮ちゃんが選んだの?」
「選んだっていうか、おまかせにしてもらったんだよ。要望は、伝えて……」
「素敵だねーー。この青い薔薇だけ何でこんなに入ってるのかな?」
「12本だって……。店員さんが好きな花みたいだよ」
「そうなんだね。何て花言葉かな?」
愛理がスマホで調べようとする。
「【奇跡】とか【夢叶う】って花言葉らしいよ」
「凄いねーー。【奇跡】【夢叶う】かーー。素敵な花言葉。絶対に枯らさないようにしないと……」
「そんなの無理だよ、愛理。枯らさないようにするなんて」
俺の言葉に愛理は、「大丈夫だから」って笑った。
愛理の笑顔を見れるのは、後【何回】だろうか?
もう、俺は愛理を泣かせたくない。
泣かせてはいけない……。
だから、絶対。
俺は、愛理に【癌】だって伝えちゃいけない。
俺は、何事もなく過ごす事を誓った。
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余命といわれた【3ヶ月】はあっという間に過ぎ。
俺達は、記念日であるクリスマスイブを迎えられた。
それからの日々は、駆け抜けるように過ぎていき。
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【奇跡】は、起きた!!
俺は、暑い暑い真夏を再び経験する事になった病室のベッドで……。
「亮ちゃん、どうして言ってくれなかったの?末期癌だって知ってたら……」
「知ってたら何だよ!愛理がどうにか出来たか?代わってくれたのか?」
この頃の俺は、目の前に迫ってきている【死】に苛立ちを覚え初めていた。
【明日】かも【明後日】かも……。
毎日、毎日【死】に怯え。
まるで、【犯罪者】にでもなったようだった。
昔、テレビで見た事がある。
【死刑囚】のようだった。
俺の【病室】にいつ【死神】が現れるかビクビクと怯えながら過ごす。
そのせいで、愛理に【苛立ち】をぶつけてばかりだった。
「ごめん。言いすぎた」
それでも、愛理が【病室】を出るまでには、必ず謝った。
だって、これが【最期】の別れだったら悲しすぎるだろ?
「ううん。大丈夫だよ。亮ちゃんが一番辛いんだから……」
悲しい瞳をしながらも、優しく笑ってくれる愛理に俺は何でこんな酷い事をしているんだと思う。
「じゃあ、また明日。仕事終わったら来るね」
「うん。気をつけて帰ってくれ」
ひとりぼっちになった【家】に帰る寂しさを俺は知らない。
愛理の後ろ姿は、いつも寂しさを纏っていた。
「柳さん、体調大丈夫ですか?」
「はい。変わらないです」
「それは、よかったです」
愛理が帰った後、いつも【看護師】さんが晩御飯を持ってきてくれる。
俺には、晩御飯を取りに行く【体力】は、残っていないから……。
「少しでも、体力つけなきゃ駄目ですよ。柳さんみたいに入院されていた山田さんはしっかり食べて一時退院出来たんですからね」
「そうですか……」
【看護師】さんは、いつも【気休め】を言ってくれる。
でも、俺にはわかる。
俺の【体】は、もう何をやっても【答えてくれない】事を……。
だから、【未来】の話は必要ない。
「しっかり食べてくださいね」
「わかりました」
看護師さんがいなくなると俺は、【食事】に向き合う。
米が【おかゆ】である事以外、何ら変わりない。
この頃の俺は、見えない【誰か】に向かって毎日話しかけていた。
「【未来】を考えろって昔よく言われたんだけどさ……。【一人】の時は考えなかった【未来】を愛理と一緒になってからよく考えるようになったんだ。【美味しいものを食べよう】っていう【小さな未来】から……。結婚して、子供が産まれて、おじいちゃんとおばあちゃんになってっていう【大きな未来】まで……。【未来】が見れるって【幸せ】な事だったんだな……。俺、【病気】になるまで知らなかったんだ。死ぬって、体からだんだん衰えていくものだと思ってた。だけど、【違う】んだな。最初に死ぬのは、【心】なんだな。【未来】が見れない【心】」
俺は、スプーンを持って味のしない【おかゆ】を一口食べる。
「【未来】が見れないって、こんなに辛いんだな。今の俺は、生きてるだけで【精一杯】だよ。【今】しか見れないのってこんなに【辛い】んだな。【昔】は、そうだったはずなのに……。【愛理】がいない【昔】を俺は【忘れた】んだな」
涙がおかゆにポタリと吸い込まれていく。
夜の【個室】は、よけいに寂しさを募らせる。
入院した最初の頃は、愛理と一緒に毎日【晩御飯】を食べていた。
だけど、しだいに……。
愛理の食べてるものの【匂い】がするだけで【苛立ち】を押さえきれなくなった。
【食べたい】のに【食べられない】苛立ち。
暫くしてから愛理は、【おかゆ】を買ってきて食べるようになった。
だけど、俺は……。
その愛理の優しさが【許せなかった】
【馬鹿にされてる】って感じたんだ。
それからは、愛理に苛立ちをぶつけるようになった。
「【未来】が見れるって【幸せ】だな。【心】が【死ぬ】だけで。もう、どこにも【行き場】がない」
『【死ぬ】のが怖いですか?』
俺は、その【声】に顔を上げた。




