表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

ある日ガチャポンの森で、クマ……のような男に出会った 4




 きっかけは、小学校の時の夏休みの工作。

 お菓子の空箱の内側に青い紙を貼って、よくお弁当などに入っているお魚の形をした醤油入れの容器に色を塗ったものを釣り糸にくっつけ、それを箱の上部からぶら下げたりして、ミニチュア水族館を作った。

 そのアイデアを担任の先生に褒められ、クラスの中でぼっち気味だった私だけど、その時ばかりはクラスの注目をにわかに集めた。


 あの時、自分が作った物を褒められて嬉しかった気持ちは、今も胸に強く残っている。


 それから、当時ネットゲームにハマっていた兄にお願いして、パソコンでミニチュア雑貨作りのサイトを時々見せてもらっていたら、ある日、用紙にコピーしてくれて、道具とかも100均で揃えられるものが多かった事もあり、参考にしながら独学で作るようになった。


 小熊さんに褒められたことで、そんな子どもの頃の記憶がふとよみがえった。


「森野。実は、散らばった荷物を拾い上げる時に少しノートの中身が目に入ってしまったんだが……。それは君が描いたものか?」


 熱心に眺めていた手作りのミニチュアから、視線を私に移した小熊さんにそう声をかけられて、またもやビクッと体をすくませてしまった……。

 ノートには、私がこれまで作ってきたミニチュア雑貨の作り方をはじめ、こういうのが作れたら良いなという、自分で考えたミニチュア雑貨や家具のデザイン画をいくつも書いてあった。

 私にとっては大切な物で拾ってくれた事への感謝の気持ちは大きいが、日記と同じくらい見られたら恥ずかしくなるようなものだったので、どぎまぎしていると……。


「今回のお詫びと言っては何だが、俺が壊してしまった事もあるし、もし良かったらこの森野が描いたミニチュア家具のデザインの中から、どれか作らせてもらえないだろうか」


 小熊さんの突然の申し出に、さっきまでどぎまぎしていたのも一瞬忘れて、弾かれたように顔を上げた。

 けれど、迷惑をかけたのは私の方だし、壊れたミニチュア家具も何だかんだで300円で手に入れたもので、そのお詫びにミニチュア家具を作ってもらうなんて、あまりにも申し訳ない気がして、すぐに顔をふせた。


「ミニチュア家具作りは全くの素人だが、木材の扱いは多少馴れているつもりだ。試しに作らせてもらえないだろうか?」


 密かに憧れていた木製のミニチュア家具、正直、喉から手が出るほど欲しいけれど、でもやっぱりそれはさすがに図々し過ぎるような気がして……ぐるぐると思い悩んでいると、今度は狐坂さんから声をかけられた。


「それじゃあ、交換条件というのはどう? 小熊が作ったミニチュア家具に咲ちゃんのミニチュア雑貨を飾ったものを、撮影させてくれないかな」


 その提案に、私は思わず首を傾げた。それに一体、何の意図があるのか不思議に思っていると、狐坂さんがニッコリ笑った。


「いや〜、このご時世なかなか個人事業も大変で。もっと多くの人に小熊木工店を知ってもらいたくて、何か、こう、新しい視点からの広報を色々と考えてたんだけど、ミニチュア家具をSNSに載せてみるのも、面白そうかなって。もしかしたら、新たな客層からの反応があるかもしれないし」


 ギョッとするような狐坂さんの提案に、そんな責任重大な広報に自分の作った物を載せるなんてとんでもない……。もし不評だったら思うとゾッとして、私は首をぶんぶんと横に振った。


「そ、そんな……っ! わ、わた……わた、私なんかの、素人が作ったものを……そ、そそそ、そんな、広報の、撮影なんて……」


 そんな私の必死な抵抗も、狐坂さんはニッコリしながらやんわりとさえぎる。


「そんな難しく考えなくても大丈夫。広報のことはひとまず横に置いて、まずは自分たちが何か面白いと思った事をやってみたいんだ。そういう『楽しいこと』っていうのは、きっと見てくれる人にも伝わるものだと思うから」


「で、で、ででで、でも……ほとんど100均の道具で、作ったような物だし、ぜ、全然……ちゃんとしたやつじゃないので……」


「100均の道具で作れるのか、すごいな」


 あわてふためく私をよそに、関心を示す小熊さん。


「森野は、自分は素人だと言ったが、それを言えば俺の方こそミニチュアに関しては全くの素人だ。俺より経験のある森野に協力してもらえると助かる」


 二人に何と言われようと、断固拒否るつもりの私だったが……。


「ちなみに、森野は作って欲しいとしたら、どれがいい?」


 小熊さんのその一言を聞いた途端、心がぐらりと揺れた。


 ――なん……だと……!?


 そんな、急にどれがいいかなんて聞かれても……と、戸惑いながらも念願の木製ミニチュア家具への憧れに、うずうずとした気持ちが込み上げてくる。


 もし、本当に作ってもらえるとしたら……。この猫脚テーブルとかシルエット型のチェアとか、このカントリーハウスのような食器棚やカウンターテーブルも欲しいし、それこそガチャポンで狙っていたアンティーク家具も……と、気がつけば自分のノートのページを次々とめくっていた。


 そんな私の様子に、小熊さんがふっと笑ったような気配がした。


「撮影の方は別に断っても構わない。俺は、このノートをみて森野が描いたものを作ってみたいと純粋に思っただけだ」


 ストレートな彼の言葉に、思わず胸にグッときた。

 しばらくぐるぐると葛藤していたけれど、やがて、小さく震える人差し指で、おそるおそるノートに描かれたイメージデザイン画のひとつに指をさすと、小熊さんがまた小さく微笑んだ。


「わかった、作ってみよう」


 その言葉を聞いた途端、もしこれが出来上がったら自分が今まで作ってきたミニチュア雑貨の中から、あれを飾ってみたい、これも飾ってみたいと、次から次へと想像が膨らんで、思わず口もとが緩んでしまっていた。


 しかし、その時、ふと横から視線を感じておそるおそる振り向くと、狐坂さんがニッコリと微笑みながらも、その眼がキラリと鋭く光ったような気がした。




少しでも楽しんでもらえたらと思います。

声をかけてくださると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインの心の変化、良かったです。 そして、クマさんの導き方、さりげない熱意がかっこよかったです。 何が動きだしたようでとても楽しみです。 [一言] 最後の狐坂さんの微笑みが気になります。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ