ある日ガチャポンの森で、クマ……のような男に出会った 3
小熊さんの親切に心の中で繰り返し感謝をしつつ、鞄の中身を確認していくことにした。
まず一番大切にしているノートの無事にホッと胸を撫で下ろす。次は、スマホと残高182円のお財布。そして最後に取り出した小さな缶の箱はフタが開いていて、中身が鞄の底に散らばってしまっていた。
それを、ひとつひとつ拾い上げて、壊れていないか確認しながら缶の箱に仕舞っていく。
「それは、ミニチュアか?」
私が指でつまんでチェックしていたミニチュアのグラスやボトル瓶などに、小熊さんがふと声をかけてきた。
「っ……」
話しかけられてつい条件反射でビクッと体をすくませると、再び視線が泳ぎ始める。しばらくおどおどしていたけれど、そんな私を小熊さんは静観してくれていて、そんな彼にやがて小さくコクンとうなずくと……。
「そういうのが好きなのか?」
「っ……!」
すかさず聞き返されたことに、驚いてまたもやビクッとしつつも、しばらくして無言のまま再度うなづいた。
「そう言えば、俺が壊してしまったのも……ミニチュアだったな。そうか、あそこのカプセルトイでこういうのを集めてたんだな」
――ヒェッ……! 何か会話が……続いてる!?
コミュ症の自分にとって、たったそれだけの事にでもひどく驚いてしまう……。
「……」
「わ、悪い。嫌な事を思い出させたな」
小熊さんは至って普通に話しかけてくれているのに、まともな受け答えが出来ず内心オロオロしながら黙りこくったままになっていると、また彼に謝られた。
相手に気を遣わせてばかりで申し訳ない気持ちでいっぱいになると、私はありったけの勇気を振り絞っておそるおそる口を開いた。
「あ、あの……こ、この、ミニチュア雑貨は、わ、私が作った、ものです。ガチャポンは……そ、それを飾るミニチュア家具が、欲しくて……。ま、まだ、家具とかを作るのは、自分には難しくて……それで……」
私の唯一の趣味は、ミニチュア雑貨作りだった。
本やネットの情報を参考に独学でコツコツと作り続け、出来上がるたびにそれを誰に見せるわけでもなく、ひとりで眺めては楽しんでいた。
そんな自分の作った物がだんだん増えていくにつれて、今度はそれを飾るミニチュア家具が欲しくなったのだ。ただ、自分でそれを作るのはまだ難しくて、家具の方はガチャポンで集めていたのだ。
たどたどしく私がそう話すと、小熊さんは少し驚いたように目を見開いた。
「これは森野の手作りか。もっとよく見せてもらっていいか?」
彼の言葉にまたもやギョッとする。これまで家族にもそんなに見せた事がなく、それをさっき会ったばかりの人にまじまじと眺められるのは恥ずかしくて、しばらく迷っていたけれど、やがて私が小さくうなずくと、小熊さんはミニチュア雑貨をひとつ手に取り、真剣な眼差しでそれを眺め始めた。
「た、ただの……しゅ、趣味で、作ってるだけなので……。へ、へへ、下手クソ……ですけど……」
あまりにも熱心に観察しているもんだから、何だかいたたまれない気持ちが込み上げてきて、つい言い訳じみたことをもごもごと口にする。
けれど……。
「そうか? 俺はかなり良く出来ていると思う」
そんな私に、小熊さんはそう言ってくれた。
お世辞を真に受けちゃいけないと思いながらも、小熊さんの真っ直ぐな言葉に思わず心臓がトクンと跳ねると、じわじわと顔が熱くなっていくのがわかる。
初めて自分が作った物を家族以外の誰かに褒められて、素直に嬉しくなってしまったのだ。
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