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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第94話 嘆きの女神

「うわああああああああん!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 タナは泣きながらルーファンに駆け寄り、そして彼の体を揺さぶるがそんな事で元に戻るなら苦労はしない。ルーファンが仰向けに倒れ込んだ事でようやくそれに気付いたのか、慌てふためきながら周りをキョロキョロ見回す。


「あ、あの…ちょっと恥ずかしいのであっち向いてて貰えますか… ?」

「え、ええ…」


 タナに頼まれたアトゥーイが仕方なく後ろを向き、それを確認してからタナは顔を覆うベールを少しだけめくって口を露にする。瑞々しい唇を少し噛みしめ、やがて勇気を出してルーファンの口にそれを付けた。ゴポゴポと口と口の間を何か液体が行き来するような音がすると、やがて少しづつルーファンの体に生気が戻って来る。


 そして意識を取り戻したルーファンだが、まず驚いたのが見ず知らずの、顔を隠した女性が自分に口づけをしているという事実だった。


「ッ…!」

「ンッ!…プハッ…ああえっと、違うんです ! これは…その、やましい事じゃなくて、死にかけてたから ! えっと…あの… 」

「ハァ…大丈夫、落ち着いてくれ。よく分からないが助けてくれたんだな。ありがとう。よく分からないが」


 意識を取り戻したルーファンが驚いて身をよじった事に気付き、タナも慌てて唇を離してから急いで顔のベールを下げる。そしてパニックになりながら弁明をするが、完全に気が動転しているせいで何を言いたいのかよく分からなくなっていた。そんな彼女をルーファンも気持ちの整理がつかないままに宥めるしかなかった。


「気が付きましたか。無事でよかった」


 ルーファンの声に気付いたアトゥーイが振り向き、そのまま近寄って来た。


「ああ何とかな。ところで彼女は ?」

「タナです。あの…<ネプチューン>の化身で…別に卑しい女ではないです」

「大丈夫だ。事情があってやったんだろう。仕方がない事だ」


 自己紹介をしてくれたが、やはりタナは先程の件をまだ引きずってる様だった。頑張って励まそうとするがすっかり落ち込んでおり「きっと嫌われたんだ…やっぱり私って役立たずだ…」と一人で何やらブツブツ言いながらいじけている。


「化身というのは…初めて姿を見せる時は皆あの様な状態なのですか ?」


 サラザールやガロステルの様なものを想像していたせいか、思っていたのとかなり違っていたせいでアトゥーイは面食らっていた。


「いや、たぶん彼女が特殊なんだろう。まあ性格が悪いわけではなさそうだ」


 ルーファンもそうフォローするが、やがて化身の話題からサラザールの事を連想したお陰で集落に異変が起きている事を思い出した。


「そうだ、こんな事をしている場合じゃない。タナ…タナ !」

「は、はいぃ !」

「この近くにある半魚人達の集落に危険が迫っている。<ネプチューン>の力を貸して欲しい」


 ルーファンはすぐに集落に戻る必要がある事を思い出し、同時に自分とアトゥーイだけでは心許ないと感じたのか、タナに協力を持ち掛けた。


「そ、それは…王の器ならば<ネプチューン>様の力も使えるでしょうけど…でも…私は戦えないです。力も無いですし、怖がりだし、きっと足手まといになりますから…」

「前線に立つ事ばかりが役立つ方法とは限らない。困っている誰かに優しさを見せて、救いの手を差し伸べてあげる存在が必要なんだ。現に君は俺を助けてくれただろ ? きっと怪我人も出てる筈だ。助けてあげて欲しい」

「そ、そうですか ? 戦えなくてもいい… ?」


 中々その気になれないタナに対し、ルーファンはどうにか頑張ってやる気を引き出そうと彼女を励まし続ける。


「それに、他の化身達とも会ったことがある。彼らと同じ様に合体をして<ネプチューン>の力を―――」

「が、合体⁉合体って…そんな…そんな破廉恥な…」

「ああ、違う違う違う。そういう意味じゃない。ほら呪文を唱えて変身して、<幻神>の力を直接宿す方法があるだろ」

「ああ、そっちですか。良かった…」


 ルーファンの説明を前に時折良からぬ想像をする事があり、それを宥めながらルーファンは彼女を説得する。アトゥーイはさっさと終わらないものかと少し待ちあぐねていた。


「でも…私、合体する時に顔を見せないといけないのですが…その…あまり人前に見せたくないというか…きっと怖がると思うので…」

「君が優しい子だというのはもう十分知っている。顔が怖くたって構わない。中身を知っている以上、見かけで判断するような真似はしないさ」

「わ…分かりました…じゃあ、やりましょう ! 準備が出来たら私の顔のベールをめくってください。大丈夫、私ならできる…私ならできる…」


 ルーファンの優しい説得に意を決したのか、タナは自分奮起させながら立ち上がる。そしてルーファンも彼女の前に立ち、深呼吸を一度してから顔のベールをめくった。


「な、成程」

「え」


 遠目に見ていたアトゥーイは若干怯みながら彼女が嫌がっていた理由を察し、間近でタナの顔を見たルーファンは思考が停止した後に硬直した。そう、大量の目玉である。顔についていた魚の物を大きくしたかのような目が七、八個ほどタナの顔に付いており、それらが一斉にルーファンの方を見ていた。やがて顔の鼻から口の辺りまでが縦にぱっくりと裂け、そこから夥しい数の触手が現れる。彼女のスカートの仕方からも大きな触手が現れると、それらはルーファンに絡みついて骨をへし折って行った。


 口づけでもするかのように彼女はルーファンの頭を掴み、そのまま自分の顔へ引き寄せる。骨を折られ、頭を砕かれる最中にルーファンの脳裏にもようやく呪文が浮かび上がった。


「水を司りし精霊とまぐわう者《ウォスティ・ディクド・スピル・フュジィ・ソナ》」

「生の慈しみと奔流をその手に統べ《ラキ・ポゥサ・ストゥダル・ディクド・イ・ティハ》」

「不浄なる厄に裁きを下す審判とならん《ダナ・ヴィ―ル・ガブ・シンメ・ルーガ》」

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