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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第88話 あなたとは違う

「街で私を見た王国の人々を覚えていますか ?」

「ああ。あまり君の事は好きでは無さそうだったが…」

「半魚人達への偏見や迫害が減ったと言っても、結局それは建前だけという事です。最初は皆我々に同情的でした。友好の懸け橋を築きたいと言っていた直後にその代表者が殺されたとあれば猶更…まあ仮にざまあみろと思っていても言えないでしょう。そんな事をすれば村八分になる未来が待っている」


 アトゥーイの話を聞いていたルーファンは、彼と最初に会った際の周囲の反応を思い返す。確かにウォーラン族や一部の人間以外は皆彼に冷たかった。何ならここぞとばかりにリミグロン襲撃に関わっているとあらぬ言いがかりを付けてさえいた。


「同情的だったのは結局ウォーラン族による軍隊が設立され、国の防衛に我々が関与するようになるまででしたよ。それ以降、街の陰や外に漏れ聞こえない様な屋内では口々にウォーラン族とディマス族への罵倒で溢れています。”ディマス族が勝手に出しゃばり、くたばったお陰でウォーラン族がさらにつけあがった”と…まあ傍から見れば間違いでもないでしょう。私の夫と息子が死んだことに託けて、差別の是正を盾にして軍部の中で強い権力を持つようになった。王族も彼らがいなくては国の防衛もままならないと分かり、自分達の護衛をする事と引き換えに庶民達よりも優遇する。当の被害者については誰一人として目もくれない」


 アトゥーイは表情を変えないが、その声色は明確に憤っていた。


「この墓を作ってからどうなったと思いますか ? 人間はおろかウォーラン族の者達の誰一人として、ここに来て祈る者はいなかった。供え物を寄越せとは言わない。家族を失った私を憐れんで守れとも言わない。ただただ罪の無い死者が安らかに眠れるよう目を閉じて祈って欲しかった…なのに、人々の口から出るのはいつもうわべだけの博愛論か私への恨み言だらけです」


 拳を握りしめて震えるアトゥーイをルーファンは責める気にならなかった。歴史はいつもそうである。泣いて消え去る羽目になるのは弱者であり、救われる…もしくは私腹を肥やせるのは常に”己を弱者と偽れる乞食”と”弱者を救う英雄としての自分に酔いしれる権力者”の二つだけである。本当に救われるべき者達は偶像として酷使された後に捨てられるだけなのだ。


「…アトゥーイ、君はまだ報復をしたいと思っているか ?」


 それは自分自身と彼を比較してしまった結果ふと問い掛けてしまった疑問であった。


「実行犯たちは私自身の手で殺すか、破滅させました…それだけでいいのです。もう何もいらない。ただただ…当てもなく生きていたい。あなたのようにはなれません。元凶の全てを滅ぼさんとするあなたのようには」


 不満こそあれど、アトゥーイはもう関わりたくなかった。下手に騒げばまた目を付けられ、因縁に巻き込まれて争う羽目になる。疲労感以外に何も残らない事をしたくなかったのだ。そんなアトゥーイが冷ややかな目でこちらを見ているせいか、なぜか馬鹿にされてる様な気がしてならない。


「俺の事が嫌いか」

「いいえ、心配なのです。あなたはリミグロンを滅ぼした先に何を目指しているのですか ? 一体いつになれば…あなたの復讐は終わるのですか ?」

「奴らを滅ぼせば分かる。俺はそう信じてる」

「イカれている。そこまで固執し続けるというのですか。 既に彼らから恐れられ、人々から崇め奉られているこの状況下でもまだ闘争に身を置きたいと ?」

「もっと単純な考えだ。売られた喧嘩を買った…それだけだよ。名誉も何もいらない」


 ルーファンは自分の進む道への覚悟を語ってから話を切り上げる。そして一度体勢を変えて跪くと、両手を組んで目を閉じた。暫しの間だけ沈黙した後、ゆっくりと目を開けると再び立ち上がって首を鳴らす。


「あんな話をされたから仕方なく祈っただけなんだろう…なんて思っているか ?」


 立ち去る直前、ルーファンは振り向いてアトゥーイに問いかける。


「思っていると言ったら ?」

「綺麗ごとに聞こえるかもしれないが、その考えが変わるまで…いや、そうでなくても祈り続けてやる……祠に向かう準備をしよう。先に待ってる」


 ルーファンはそう言って背を向けると、一度息を吐いてから歩き出す。柄にもない事を言ったせいか、少し恥ずかしさがあった


「ルーファン」


 その矢先に今度はアトゥーイが呼びかける。


「お節介かもしれませんが油断をしない方がいい。皆が皆、あなたに善意や誠意を持って近づいているわけじゃない。自分に利益が無いと分かるや否や全てを反故にして裏切ってくる…そんな事が平然と起こり得る時代です」

「今更だよ。覚悟の上だ」


 彼の返事は決して虚勢ではない。そう思わせる力強い視線と佇まいをアトゥーイはルーファンから感じ取っていた。

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