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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第74話 眼差し

 ひとまず図書館へと向かうルーファン達だが、やはり暖かく出迎えてくれる様な状態ではなかった。襲撃が止んだ事で図書館から一部の市民や兵士達が出てきており、辺りで不安そうに狼狽えている者が大半である。そして彼らはルーファン一行を見るや否や、まるで悍ましい怪物を避けるかのように図書館へと道を開けた。


「無事で何よりだ」


 図書館の入り口近くでガロステルが呼びかける。サラザールはぼんやりと騒々しくなってきた人込みを観察していた。やがて人々の中にルーファンとは別にアトゥーイに視線を向けている者がおり、何やらヒソヒソと小言をぼやいている事に気付く。


「おい、あれはディマス族じゃないか」

「何でいるんだよ…気色悪い」

「おいよせよ。こんな時に言ってる場合か」


 声がする方へ僅かに首を動かしたアトゥーイだが、すぐに元に戻してから図書館から出て来る兵士と、彼らに車椅子を押されながら姿を現したルプトの方を見る。


「驚いた。あなた様はまさか…」


 目を丸くしたルプトに対し、アトゥーイは何か言うわけでもなく小さく頭を下げる。


「何はともあれ助力に感謝します。ルーファン殿、あなた方にも多大なご迷惑をおかけしましたな」


 そんなアトゥーイに対してルプトも深々と頭を下げ返し、ルーファンも含めてそれぞれに礼を言った。


「いえ、今この状況において必要な事をしただけです。ひとまずはこのまま警戒しておくべきでしょう」

「言わずもがなです。何より襲撃の原因と被害状況、そして彼らの手口についても調査を進めたい」


 警戒を促すルーファンにも毅然とした態度で答えていたルプトだが、そんな彼らの耳へ不意に小さな声が聞こえる。それはか細く、しかし卑屈な口調を含んだまま群衆の中から漏れ聞こえた。


「どうせそこのディマス族が呼んだんだろ」


 自身が抱いた疑念を公の面前で晒け出すという行為の難易度は高い。それをしてしまう事で他者から白い目で見られてしまい、少数派という烙印を押された後に拒絶と忌避感に囲まれる事を恐れてしまうのだ。しかし、自分と同じ意見を持つ者がいると確信した瞬間にその理屈は簡単に覆す事が出来るのである。


「言われてみれば…」

「まあ確かに”動機”はあるよな…ディマス族は」

「そういえば何でこんなタイミング良く来たんだ ?」

「ま、まだ真相が分かんないんだから憶測で物を言うのは…」

「何だよ、あそこにいるアイツの肩を持つのかお前」


 先程の言葉は、人々が口に出来ない本音を引き出すには十分だったのだろう。「他の奴らだって言っているのだから別に良いだろう」という主体性も責任感も無い薄っぺらい人間性を強調するだけの大義名分を手にしたと分かり、群衆は次々とアトゥーイの方へ疑惑の眼差しを向け始める。時折宥めようとする者もいたが、アトゥーイの仲間として疑われるのを避けるためかすぐに委縮してしまった。


「おうおうおう ! 何をボソボソと話してんださっきから !」


 そうして同調圧力によって場が支配されかけていた時、角笛の如き太ましい大声を放ちつつ誰かが群衆を搔き分けながら現れた。息を荒くしているベトイ船長である。


「こいつはウチの漁船の乗組員だ ! 無愛想で根暗で口数の少ないノッポ野郎だが侵略者呼び寄せるなんて小賢しい真似するような畜生じゃねえ ! どこの誰だ怪しいなんて言った奴は ! 俺が直々にぶちのめしてやる ! さてはてめぇか⁉」


 漁船の船員たちを引き連れていた彼は怒り心頭といった具合に猛り、眉間に皺を寄せたままギラついた目で辺りを見る。そして自分からいち早く目を逸らしたみすぼらしい男の服を掴むと、思い切り揺すぶりながら問いかけた。


「ヒィッ…ち、違います !」

「ケッ、根性のねえ野郎だ。オラァッ!!さっさと出てきやがれってんだ ! それとも何だ、好き放題侮辱はするが落とし前は付けたくないってか ! リガウェールの面汚し共め ! こうなりゃ片っ端から――」


 そして男が泣きそうな声で否定すると見下した様に突き飛ばし、拳を鳴らしてからまた辺りに怒鳴り散らす。他人の陰に隠れないと物も言えない腐りきった性根の人間相手では、そんな事をした所で名乗り出るわけないというのに。だがいずれにせよ悪い人間ではなさそうだ。ルーファンはそんな事を考えていた。


「この場はあの男に任せてもいいだろう。国務長官…あなたに少し頼みたい事がある」

「何でしょう ?」

「外に声や音が漏れず、人目に付かなそうな場所を用意していただきたい。可能でしょうか ?」

「……すぐに用意させましょう。必要なものが他にあればいつでも仰ってください」


 ベトイ船長を尻目にルーファンはルプトへと何やら物騒な要求をする。連行しているボロボロのリミグロン兵を見て、すぐにその目的が分かったルプトは少し迷いつつも彼の頼みを承諾した。




 ――――椅子に座らせられ、手足と胴体を椅子に縛り付けられた状態にいたリミグロン兵は、ようやく朦朧としていた意識が明瞭になった。松明が壁に掛けられてはいるがかなり薄暗い。天井も床も石であり、あまり手入れはされていないのか少々埃っぽかった。そんな彼の正面では光が差し込んでいる入り口を遮るようにしてルーファンとサラザールが立っており、二人で床に置いた何かを眺めていた。


「これは…」

「そっくりっていうか完全に同じ顔よね。まだ傷も無いし、今みたいに老け込んでない頃のあなたと」

「ああ……そうだな…」


 しゃがんでからルーファンがまじまじと見つめているのは、戦闘中にサラザール達の眼前で自殺した緑鎧のリミグロン兵の死体である。割と呑気な態度を保っているが、動揺自体はしているらしく彼は少し言葉に詰まっていた。


「まあどこまで知っているかは分からないが、ある程度は期待できるさ……入口に鍵をかけてくれ」


 やがて気を取り直したルーファンがそう言うと、サラザールは静かに入口へ近づく。そして外で不安そうにするフォルトと、せいぜい頑張ってくれと言わんばかりに手を振っているガロステルへ「誰も入れるな」と忠告し、僅かに錆付いた鉄の扉を閉めた。そのまま扉の隣で壁にもたれ掛かった彼女を確認した後、ルーファンはゆっくりと振り向く。


 光源の少ない部屋であるせいか彼の瞳には一切の光が反射しておらず、リミグロン兵からは白目の真ん中に虚空が広がっているかのように思える程黒く見えてしまう。人間の皮を被った何かがこちらを見つめている。そんな気がしてならなかった。

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