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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第68話 内乱

 リミグロン兵による暴動が発生するより十分程前、ホーレン家の邸宅ではジモエ・ホーレンがせわしなく動いて掃除や食事の準備を行う召使…もとい奴隷を見てほくそ笑んでいた。


 赤い絨毯を敷き詰められた書斎から車椅子で食堂に運ばれる彼女と会う際には、必ず廊下の端に立ってお辞儀をしなければならない。それらを行う奴隷たちは、皆がみすぼらしい服を着せられた色白な美青年と美少女ばかりであった。自分にはない美貌を持つ者がへりくだり、そして屈辱的な姿をさせられている。そんな姿には愉快さがあり、それを見る事が彼女はたまらなく好きだった。


 そして護衛に車椅子を押されて食堂へ向かった彼女だが、そこにはいつも用意されている筈の食事は無い。とても一人では食べきる事の出来ない果物、菓子、肉、魚…おおよそ庶民が思いつくであろう品々を腹に入るだけ入れて後は奴隷の見てる目の前でゴミとして捨てる。彼らに惨めさと屈辱を植え付ける行いをするための物品が、皿一枚分はおろか欠片すら用意されていない。


「どういう事なのか説明をして頂戴」


 ジモエは青筋を立てて護衛を問い詰めるが、彼から帰って来たのは沈黙。そして今にも死にそうな薄汚い害虫を見つめるかのような蔑みに満ちた視線だった。間もなく護衛は車椅子から離れ、ジモエの呼びかけに応じる事なく食堂を出て行く。


 静寂に包まれたジモエは、なぜ自分がこんな場所に放置されたのか分かっておらず、こんな恨まれるような事をした記憶は無いぞと己の無知さと傲慢さを一切自覚する事なく悶え、震えだす。だがすぐに彼女は理解させられた。これから自分に何が起こるのかを。


 テーブルの向かい側に人がいたのだ。はっきりではないが、朧げに人型になっているそれはガラス細工のように透き通っており、やがて小さな稲妻と共に姿を現した。緑色の鎧のリミグロン兵、そしてその片手には魔法によって熱せられたサーベルを握っている。


「あ…あ…待って――」


 テーブルを乗り越えて自分の近くへと寄って来たそのリミグロン兵に対し、芋虫のように無様に藻掻いて命乞いをするが遅かった。何一つ喋らず、掛け声を出す事も無くその兵士は彼女を切り伏せる。目を見開き、口を間抜けに開けたまま絶命したジモエを暫く眺めていたが、やがて廊下の方から響いた物音に反応した首を向けた。奴隷たちが襲われているらしい。やがて先程ジモエを置いて行った護衛の兵士が、出血をしている首筋を抑えながら姿を現す。


「クソッ…どういう事だ⁉俺は見逃してくれると言っただろう⁉」

「”我々は”手を出さない。約束をしたのはそれだけだ…門よ開け(ゲフォレ・オペル)


 護衛の兵士は緑色のリミグロン兵に怒鳴るが、彼は機械的な声で反論をしてきた。そこからリミグロン兵は魔法を使い、自身の背後に現れた光の壁の中へと入っていく。その後を護衛も追おうとするが光の壁はすぐに消失してしまった。間もなくジモエの護衛は直後に胸部を光の弾によって貫かれ、力なくその場に崩れ落ちる。


「ん ? …おいどういう事だ⁉」


 ちょこまかと逃げ回っていた護衛を背後から撃ち殺したのはリミグロン兵であったが、緑色の鎧を付けている者とは違う一般兵であった。そのまま食堂に侵入するが、車椅子に座ったまま斬り殺されているジモエ・ホーレンを見て驚愕する。騒ぎを聞きつけた他の仲間達も間もなく現れた。


「この車椅子に座ってる死体…」

「ああ間違いない。ジモエ・ホーレンだ。死んでる…」

「しかも死因は間違いなく外傷。殺されたんだ」

「チッ、どうすんだよ…目的は拉致だろ ? これじゃ人質にするも糞もねえ」


 全員でジモエ・ホーレンに近づいてから状況を調べ始める。彼女が死んでいる事は完全に想定外であり、原因の追究をしようにもこれと言った手掛かりは無かった。


「俺が撃ち殺す直前、この護衛が誰かに怒鳴ってるような声を聞いた。そいつがやったのかもしれん」


 護衛を追いかけて始末したリミグロン兵が口を開く。


「だとしたらマズいんじゃないか ? このババアの死体に付いてる傷…俺達の武器だぜ。しかも火傷に近い痕跡がある…魔法による強化を行った上でやったんだ」

「つまり ?」

「俺達リミグロンの中にこれをやった奴がいる。明確な任務違反だ」

「もう一つ可能性があるぜ…”計画を知った上で俺たちの邪魔をしてる”って線だ…つまり裏切り者がいる」


 リミグロン兵達は混乱をしていた各々の気持ちを落ち着けるために情報を整理する。他の王家の下へ向かっている別動隊たちも同じような光景に出くわしているのだろうか。どちらにせよ確かめる必要があるだろう。そう結論付けた後に周囲を警戒しながらホーレン家の邸宅を後にした。




 ――――そこから少し経過した街では、あちこちでリミグロンによる殺戮が繰り広げられていた。とは言ってもこの街における彼らの目的は暴動や略奪ではない。王家に関わる者の拉致、そして彼らを人質にした交渉をリガウェール王国政府と行う事にあった。


「何、殺されてた⁉」


 蹂躙をしつつ街を練り歩く隊列では、先頭で隊長らしき男が通信を行っていた部下のリミグロン兵に聞きただす。しかし何度聞いても答えは同じだった。


「ええ。ホーレン家だけではありません。ダノエ家、トゥエシリオ家、イシーカ家…マディル家に関しては国務長官であるルプト・マディルを除きますが、いずれも主要な王族達が殺されていたと報告があります。現場に着いた頃には既に手遅れだったと」

「ならルプト・マディルは⁉この際奴一人だけでもいい !」

「図書館に立て籠もって民間人を匿っているらしく、兵士達を向かわせていますが…どうも妨害にあっているそうで。褐色の大柄な男、そして獣人の若い女の二人によってこちらにも人的被害が出始めています」

「…報告にあった”鴉”の協力者か。余計な真似をしおって… !」


 なるべく開けた場所の方がこちらにとっても有利という事もあってか、状況の報告を聞きながら部隊は街の広場へと訪れた。既にもぬけの殻となっており、街のいたるところで煙が上がっている。混乱に乗じた火事場泥棒か、愉快犯か、調子に乗って暴走し始めた自分達の同志か。なんにせよこの国で被害が拡大するのは好都合である。


「この部隊以外の戦力をルプト・マディルの方へ差し向けろ。ついでに図書館も焼き払ってしまえ」


 そこから指示を出して部隊は再び活動を再開するが、そんな彼らの姿を崖の上から双眼鏡で観察する者がいた。緑色の鎧を纏った兵士である。


「荒れてるわね、街」


 だが彼が双眼鏡から目を離した瞬間、背後から女の声が聞こえる。腰に備えてる鞘からいつでもサーベルを抜刀できるように手を伸ばしつつ、ゆっくり振り向くと首を鳴らしているサラザールがいた。


「暇してるんでしょ、私と遊ばない ?」


 リミグロン兵を”遊び”に誘ったサラザールだが、彼女は相手の返事を待たずにいきなり殴り掛かった。

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