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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第66話 案の定

「なあ、マディル先生の事をどう思った ? 怒らないから率直に言ってくれ」


 図書館で気になる本を片っ端からかき集めていたジョナサンが、後ろにいたガロステルへと話しかける。


「本音を言うなら、綺麗事が好きな偽善者ってやつだな。当の自分が王族という立場に居座り続けて力を利用している癖に、口だけでは民を思っているような素振りをする。第三者からしたら一番嫉妬されるタイプだぜ」

「おっと、随分ぶっこんで来た。まあ…その辺は勘弁してやってくれ。他の王族派閥が似たり寄ったりな暴君だらけなせいで、あの人が権力を行使して民を守らなきゃ今よりこの国は酷い事になっていたかもしれないんだ。権力による横暴を食い止められるのもまた権力、皮肉なもんだね」


 想像以上に辛辣だったガロステルにジョナサンは苦笑いを向け、潔白なだけでは目的を達成する事など出来はしない世知辛さを嘆いた。その間も本を集める手は決して止まらず、あっという間に彼が占領していた机が書物で埋め尽くされる。


「それはそれとして、今から何を調べんだ ?」

「創世録に関する情報全般。ルーファンに関しても分からない事だらけだらからね。複数の流派をあれだけ早い速度で学習できる才能についても、< 幻神 >を体内に宿せる彼の力と関係しているかもしれない」

「ほお…あ、ちょっと待て。サラザールが語り掛けてきた」


 少し話が面白くなりそうだと思った途端、サラザールからテレパシーによるメッセージが届く。わざわざこの手段を使うという事は緊急だろう。仕方なくガロステルはこめかみに指を当てる。


(どうした)

(つけられてる)

(このままで会話を続けろ。どの辺りにいる?)

(時計塔の近くにある路地裏。とりあえずあいつらの逃げ場を無くす)

(すぐ追いつく)


 会話を終えたガロステルは「ちょっと用事が出来た」と言ってから、騒音に気を付けつつ、急ぎ足で図書館を出て行く。一体何がしたかったんだあいつはと、再び一人残されたジョナサンは不思議で仕方が無かった。




 ――――それより少し前、サラザールは街を悠々と歩いていた。高い身長で周囲を見下ろしながら偵察をする彼女だが、内心はルーファンに対する不満も少し混じっている。せっかくの観光気分を台無しにされたのだから当然だが。故に彼からの指示を頭には入れてはいるものの、実質サボっていた。


「探りを入れろって具体的に何すりゃいいのよ。毎回毎回指示するにしても情報少なすぎて困るし……ん ?」


 ルーファンの事を絶対上司にしたくない類だと思っていた矢先、どうも違和感を抱く。周囲から浴びせられる視線の中に、どうも敵意を向けてきている者がいるような気がしてならなかった。一度立ち止まって振り返ってみるが、やはり気配の正体は分からない。再び歩きだすが、今度は立ち止まっては歩くという行為を無造作に何度も行ってみる。


 周囲に耳を澄ましていると、自分が立ち止まる際に同じく足を止め、歩き出す時にも少し遅れて歩き出す足音が幾つかある事に気付いた。一人か二人程度という人数、耳に聞こえる足音の大きさから一定の距離を保ったまま彼女の後をついてきている事が、常人を遥かに上回る聴力によって判明した。間違いなく尾行である。しかも、音にこもりが無い事から屋内や人込みの様な遮蔽物を避けて、開けた場所を歩いているという情報も掴めた。


「随分と身軽な事で」


 建物の屋根や屋上伝いにこちらを見張っていると推測したサラザールがぼやく。


 ガロステルにテレパシーで状況を報せ、そのまま路地に入り込み、やがて少々薄暗い行き止まりとなっている空き地へと赴いた。近くに転がっていた木箱を集め、丁度いい高さに積んでから腰を掛ける。そして空を仰ぎ、やがて空き地を囲むようにそびえ立っている建物の上部を観察する。


 直接対峙しようとせず、尾行などという小賢しい手段を使う連中である。まずこちらが警戒している内に姿を現すわけがない。つまりわざと尻尾を出す必要がある。幸い、日があまり当たらない故にあちこちに影が出来ている薄暗い場所であった。


 サラザールはポケットからジョナサンが以前自分にくれた名刺を取り出すと、わざとらしく周囲を警戒している素振りを見せる。そしてそれを自分が座っていた木箱の下に滑り込ませ、再び影の中へと消えていった。そうして誰もいなくなった筈の空き地だが、小さな足音が響き渡る。少し早足だった。やがて建物から三つほど、高い位置から何かが落ちるような音がする。着地をしたのだ。


「消えたぞ」

「ああ、俺も見た。どこへ行ったんだ ?」

「さあな。それよりお前ら、ひとまず木箱を調べろ。今なら誰も来ない」


 小声でそんなやり取りをする声がする。やがて魔法で姿を眩ませていたリミグロン兵が二人、小さな閃光と共に現場に現れた。そして木箱を動かして名刺を拾うが、特にこれと言った細工がされているわけでもない。暗号や伝言でも無いかと二人はまじまじと眺めていたが、やはり何も不思議な点がなかった。


「なあ」


 名刺を見ていた兵士の一人が口を開く。


「何だよ」

「いや、まさかとは思うが…これって俺達嵌められたんじゃ――」


 頭の中にあった最悪のシナリオが現実になる可能性をもう一人が口にしかけた時、二人の足元に出来ていた影から素早くサラザールが飛び出してきた。そのまま二人の首に腕を回し、凄まじい力で締め付けた後に首の骨を折って始末した。一瞬である。


「ハズレ」


 まるで誰かに聞かせるかのように、サラザールは二つの屍に向かって言い放つ。影の中に潜っていた間、彼女は確かに聞き逃していなかった。この二人が姿を現す直前の会話、その中にこの二人とは違う別の誰かの声が混じっていたのだ。一人だけ姿を隠して観察をしているに違いない。


「チッ」


 そんな彼女の後ろで舌打ちと足音が響くが、空地への唯一の出入り口だった路地を塞ぐように地面が隆起し、岩の塊が杭のように生えて来る。そして人型へと変形してガロステルが現れた。この際に生じた土煙のおかげで、魔法で姿を消していたリミグロン兵の姿が輪郭だけではあるが、くっきりと視認できるようになった。


「どこへ行く気だ、ん ?」


 首を鳴らしたガロステルがにやけながら問いかける。あっという間にサラザールも追いつき、リミグロン兵の後方で見下ろしながら様子を窺っていた。自分よりはるかにデカい体躯の二人に挟まれ、リミグロン兵は委縮しきってしまう。結局大人しく姿を現したが、その直前に籠手に備えられていた小さめのボタンを素早く押し、何事も無かったかのようにリミグロン兵は手を上げた。


「さ~て、どうしてやろうか」

「脅せばいいでしょ。こういうのは指でも噛み千切ってやれば大体言う事を聞いて――」

「それもはや脅しじゃねえよ。まあ、とにかくアレだ。痛い目見たくなかったら大人しく、その~アレだよアレ。情報寄越せってやつだ。リミグロンだろ、お前」


 物騒な会話を二人は繰り広げ、やがてリミグロン兵に圧を掛ける。


「目的は知らんが、いずれにせよ来るのが遅すぎたな」


 リミグロン兵は勝ち誇ったように振舞うが、彼らの任務に介入して欲しくない筆頭候補とも言える者達がこの国を訪れている事を知り、心の内で絶望していた。

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