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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第57話 底知れぬ懸念

「”今年限りで女王陛下は正式に政界を引退。以降王族による政治への介入は行われず、儀礼や迎賓としての役割に留まる”か…これで名実ともに共和国ってわけだ」


 とあるコーヒーハウスにて、ジョナサンが新聞に目を通しながらにやけていた。流石は俺の設立した会社、相変わらず良い報せをどこよりも早く届けてくれる。そんな期待通りの仕事ぶりに満足する一方で、時代の変化を感じさせる出来事を前に探偵気取りで考察をし始める。そんな彼を前に、慣れないコーヒーを嗜みながらその妙な味わいに慄いているルーファンが座っていた。


「不味…そういえば、王族がいるのに共和国というのもおかしな話だな」

「まあね。ってのもホント最近なんだよ。スアリウスが共和制に移行し出したのは。だから仕事の引継ぎも必要だったし、女王陛下も出来る限りは現役でいたいって事で暫くは議会が提案をして、女王が最終的な決定を下すっていうやり方をしていた。でもそれも今年限り。時代の変化ってやつだな。このご時世じゃ、特定の個人に権力を握らせるってのはリスクがデカい。だけど問題は山積み。国内もそうだがリミグロンが最近またあちこちで暴れてるらしい。何が原因だろうねえ」


 ルーファンが話しながらカップの飲みかけを押し付け、ジョナサンが渋々受け取りながらそれを飲む。そして二人でスアリウスの経緯と今後の情勢について語り合っていた。片や軽装とはいえ鞘に収めた剣や弓を傍らに置いている物騒な若者、片や洒落た外套や眼鏡を身に着けた冴えない男という何とも不思議な集いである。だが、間もなく見慣れた人物たちが店に入って来た。


「あ、いた」


 そして辺りを見回した後に二人を見つけたサラザールが呟く。一緒にいたガロステルが遠慮気味に手を上げ、フォルトに至っては元気そうに手を振って二人の席に近づいていった。良くも悪くも全員の見た目の癖が強い故か、時折好奇の目が五人に向くが今更である。


「包帯を巻いたんだな」

「ああ。あんなのチラつかせて街歩いていたら腕をもぎ取られちまうだろ ?」


 ガロステルも結晶で出来た両腕を包帯で隠している事にルーファンが気付くと、彼も理由を話してから腕を見せつける。こんなガタイのいい男から身ぐるみを剝いでしまおうとする命知らずがいるとは思えないが。


「買い物は終わったかい ?」

「うん ! あ、これ領収書」


 ジョナサンも別行動の収穫はあったのかどうかを尋ねると、フォルト達が紙を寄越してきた。満足したのなら良かったと微笑ましそうにしていたジョナサンだったが、領収書とやらに目を向けると顔が少しだけ強張った。一度手元から距離を離して凝視した後、何かの間違いではないかと言わんばかりに眼鏡を外してから顔を近づけて領収の内容に目を通す。


「大丈夫 ?」

「ああうん、問題ない…うん」


 流石に様子がおかしいと思ったらしいサラザールが心配するが、ジョナサンはすぐに気を取り直して領収書を懐にしまった。リガウェールに向かう際の移動手段や物資にはあまり期待が出来なさそうだと内心落ち込んでいたが。


「ジョナサン、次はリガウェールに向かう必要があると言っていたな。何か情報はあるか ?」

「とりあえず通行手形はある。向こうの方から直々に来て欲しいってお便り付きでね。古い知り合いだよ。だが気を付けないといけないのは道中…リゴト砂漠やパージットに比べて魔法の障壁の性質が違う。凄まじい量の雨が毎日途切れることなく降り続けて、危険な生物もわんさか。そこを抜ければリガウェール王国だが、<聖地>はそこからさらに離れた海域まで行く必要がある上に、そこにもまた別の障壁がある。国の位置が海沿いで良かった。関係者に頼んで船を出せないか聞くことが出来るかも」


 ジョナサンは地図を取り出してから国の位置や障壁がどの辺りからあるのかを指で示す。


「街道は避けて進むべきだな。恐らく広い上に隠れる場所も少ない…他に注意すべきことは ?」


 道中の襲撃を考えての事か、ルーファンは移動するルートを考え始める。ついでに他の情報を欲しがったものの、途端にジョナサンは頭を掻いて溜息をつく。


「あ~、それなんだが…リガウェールは少し文化や風習が特殊でね。まあ色々複雑な部分があって細かい事は着いてから教えるよ。まあ多少の事に関しては、手形がある以上悪いようにはされないだろう。もう一度聞くが皆黒い服は持ってるよな ? とりあえずはそれがあればいい」


 そもそも黒色の物が多いルーファンやサラザールは勿論の事、先程の買い物で調達をしたガロステルとフォルトも頷く。少なくともあまりいい予感はしなかった。




 ――――シーエンティナ帝国宰相、ユーゴ・シムトスは暗く細長い廊下を一人で歩いていた。壁に刻まれた模様が冷たく発光し、それが照明代わりとなっていた廊下の先には巨大な広間が待ち構えている。広間の中央に設けられた道を歩くユーゴの両側には、深紅色の鎧をまとった衛兵たちが列を成しており、不気味に立ったまま彼女を見送っている。その先にある玉座も含めて、妙な圧迫感と仰々しさが感じられた。


「報告をしろ」


 やがてユーゴが立ち止まると、玉座に座っていた男が言った。煌びやかな白銀の鎧を纏い、リミグロン兵の物と酷似している兜で顔を完全に隠している。そしてその声は変声機によって身元を判別できない様に変えられていた。部外者がこの場にいれば、よほどの馬鹿でもない限りはリミグロンと帝国の関係性に気付いてしまうだろう。


「諸国は我々を警戒していますが、証拠が無い以上は不毛だとして静観をする方針だとしています。そして例の”鴉”についてですが…」

「何かあったか ?」

「賛否は分かれていますが、一部を除いて否定的な意見を持っている者が少数派になりつつあるというのが現状です。世論も味方し始めているというのも政治家たちに追い打ちをかけているのでしょう」

「分かった。残る保有国への侵攻を急げ。諜報班の報せが事実なら、ヤツは既に大地と闇、二つの<幻神>の力を宿している。これ以上はマズい」

「分かりました。直ちに軍部へ皇帝陛下直々の命としてお伝えします」


 状況を聞いたその皇帝はすぐに命令を下す。宰相は何を言うわけでもなく応じ、一礼をしてからその場を去ろうとした。


「宰相。いや…母上」

「…この場では、”皇帝陛下”と”シーエンティナ帝国宰相”という立場で接しなさいと言った筈です」


 ユーゴは呼び止められると、すぐに彼の行いを窘める。


「言葉だけではあるが、”鴉”の容姿について少しばかり情報を聞いた。その上で質問だが…私に何か隠していないか ?」


 だが皇帝はそれを無視して質問をした。彼女は暫し沈黙をしたが、眉一つ動かす事なく冷静な佇まいを保っている。


「この帝国とあなたに仕える身として、そして親として嘘をつく理由などありません」


 そして一度振り返ってからユーゴは皇帝に言い残すと、そそくさと立ち去ってしまった。皇帝は特に反応をするわけでなく、玉座に座ったまま肘をついている。そこには一切の感情的な動きは見られないが、決して何も思っていないわけでは無い。


「どこまで隠し通せるかな。私にもあいつ(・・・)にも」


 たった一言、それだけが皇帝の口から洩れた。

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