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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
2章:砂上の安寧

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第36話 おもてなし

 サラザールやジョナサンと同様に岩で出来た手枷を付けられ、ルーファンは獣人達に連れられて地下を進んでいく。黒毛の獣人が一歩、また一歩と歩く度に砂が真っ二つに割れ、大きな抜け道が姿を現す。そして自分達が通り過ぎた傍から再び崩れ落ち、後戻りが出来ないように砂で埋め尽くされていった。


「成程、普段はこうして地中を移動しているのか」


 ルーファンは感心した様に呟く。


「障壁を抜ける間だけだ。この辺りには我々の先祖が遥か昔から多くの地下道を作っている。普段は砂によって覆い隠されているが…」


 彼女はそこまで言ってから、白い模様の刻まれた腕を指し示す。特殊な塗料を使っているのか、妙に光沢があった。

 

「<大地>の流派を使い、砂を操ればこうして道を見つける事が出来る」

「後をつけられたりしないのか ?」

「問題ない。どの地下道を使うかは、特定の時期に必ず変えるようになっているんでな…まあ、入口を見つけた所で素人にはどうしようも出来んが」


 ルーファンが引き続き質問をすると、彼女はこれといって嫌がる素振りも見せずに教えてくれた。素人にはどうしようも出来ないと言い切っている辺り、この程度ならば口外しても問題ないと判断したのだろう。


「っブハァ~…‼」


 そんな話をしている時、ジョナサンが大きく息を吐いた。手には他の獣人から渡されたらしい水筒を握っており、口から零れてしまった水滴が垂れている。


「飲み過ぎると体に悪いよ。大丈夫 ?」

「いやいや…もうまともに水を飲んでなかったもんだから…はぁ~、幾らでも行ける」


 獣人の一人から流石に心配をされるが、ジョナサンは気にも留めず水をがぶ飲みしていた。そんな彼を獣人達はクスクスと笑って見守る。その仕草のあどけなさといい、彼女たちは見た目に反してまだ若いのだろう。


「あのがぶ飲みしている口でさっきまで何を飲んでたか…伝えておくべき ?」

「やめておけ。誰も幸せにならない」


 いたずら心が湧いたらしいサラザールが小声で話しかけるが、ジョナサンの名誉や獣人達の心持を考えたルーファンが差し押さえる。そんな事をしている内に、一行は古びた石で作られた階段の前へと辿り着いた。やがて頭上の砂が静かに震え出し、生き物のように蠢きながら左右に割れていく。そして再び地上へと戻ったルーファンは青々とした空の下、目の前に巨大な門が佇んでいる事に気づく。当然、辺り一帯は岩の柵で覆われており、簡単には侵入できなさそうだった。後方のかなり離れた地点では、自分達が先程まで悪戦苦闘していたらしい砂嵐が吹き荒れている。無事に越えたのだと少しだけ安堵する事が出来た。


「戻ったぞ !」


 門の前で黒毛の獣人が見張りに大声で伝えると、門の上に立っていた見張りの獣人が飛び降り、少し音を立てながら地面に着地する。そのままルーファンや他の者達の顔を確認した後、合図を出すかのように拳を高く付き上げた。すると門を閉ざしていた二枚の岩盤は、辺りを震わせるような震動と共に動き出し、迎え入れるかのように大きく開けっぴろげになる。


 中に入って行ったルーファンは、辺りを見回して景観を眺めた。自分達が移動していた砂漠と同様、相変わらず砂にまみれている上にうだる様な暑さである。だがオアシスが点在しているらしく、所々に木々が生えていた。遠くの方には剣山のように尖っている山脈がそびえ立ち、その麓から軒を連ねるようにして断崖絶壁や小さな岩山がひしめいていた。それらの全てに不規則な形で小窓らしい穴が空いており、こちらを見つめる人影が時折確認できる。


「あれが人間 ?」

「駐屯地の奴らか ?」

「いや、どうやら関係ないらしい…」


 先へ進むにつれて物珍しさに住民らしき者達が集まり始める。例外なく獣人ばかりであり、手枷に繋がれたままのルーファン達を物珍しそうに見物していた。特に事情を知らなそうな子供達を除き、笑顔を浮かべている者がいないのもあって歓迎するつもりはないという雰囲気だけは分かる。


 もう一つ気になったのは、子供や老人が多い点である。特に働き手として見物人に混じっていても良い筈の若者が明らかに少ない。


「着いたぞ」


 やがて黒毛の獣人がルーファンに伝えると、一同は薄暗い洞窟の前へ連れて来られる。あまり良い予感はしなかった。


「私はこれから酋長へ報告に向かう。暫くはここで寛いでいてくれ。本来は営倉として使っているんだが、外の熱に喘ぐよりはマシだろう」

「オイ待ってくれ。武器は――」

「悪いが完全に信用したわけではない。ひとまずはこちらで保管させてもらう…安心しろ。粗末にはせん」


 武器を取り上げられた事が不服だったルーファンだが、事情を話されたうえで獣人達によって中へ入れられた。狭そうにしつつ三人が入るや否や、岩によって入り口は完全に閉ざされる。こちらが魔法を使ってくる事を危惧していない辺り、確かに敵対をするつもりは無いのだろう。


「成程…外よりはいいな。マシってだけだが」


 ジョナサンは内装を眺めつつ皮肉交じりに言った。かなり使い込まれたむしろが敷かれている以外には特に何も無い。壁に空いた小窓代わりの穴から日が差し込んでいるくらいである。そうして不満げに辺りを行ったり来たりしている彼を余所に、想像していたよりは悪くないと思ったらしいサラザールは迷わず筵の上で横になる。あっという間に彼女一人で寝床として使えそうな場所を占領してしまった。


「おいおい、陣取りは反則だぞ」

「へぇ、か弱い女の子を叩き出して自分が筵の上で寝たいって ?」

「か弱いの定義が崩れるような事を言うのはやめてくれ。その点で言うなら、僕がこの三人の中で一番脆弱だろ。大体君、女の子なんて見た目じゃ──」

「二度とペンを握れなくしてやろうか ?」


 サラザールとジョナサンが揉めている間、ルーファンは小窓に近づいて外を眺める。時折子供や老人が近づいて来るものの、自分と目が合うや否や慌ててどこかへ行ってしまう。通りかかるのは年寄りと子供…そして若い女性のみである。やはり若い男の割合がどう見ても少ない。自分達を追跡していた者達も全員が女性だった。なぜだろうか。


「ルーファン ! 君はどう思う ?」


 この場所で何が起きているのかについて、一人で黙々と考えたかったにも拘らずジョナサンが呼びかけて来た。まだ揉めていたらしい。


「後で頼めば良いだろ…何でそんな事に拘るんだ」

「それだと何だか負けた感じがして嫌だから」

「右に同じ」


 二人をの間に入ったルーファンだが、単なる意地の張り合いである事が分かると口論を続ける二人をほったらかし、再び小窓の近くへ向かって行った。

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