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怨嗟の誓約  作者: シノヤン
3章:忘れられし犠牲

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第101話 待機

 船着き場から一隻の小舟が港を出港していた。手漕ぎ用のオールを動かし、ルーファンは黙々とアリフの街から距離を空ける。ルプトには「土壇場で小舟を使って逃げ出した」と伝えてくれるように頼んでおいた。


「お、王の器よ…本当に上手く行くとお思いですか ?」


 小舟から見える街並みが小さくなった頃、向かいに座っていたタナが質問をした。恐らく手持無沙汰で何をしていいのか分からなかったのだろう。


「不安か ?」


 少し息を切らしながらルーファンは彼女を見る。その間もオールを漕ぐ手は止めなかった。


「ええ…確かに実際に海に出ていれば、「あなた様が逃亡を図っている」という情報が本当だったと敵も考えるでしょう。し、しかし…そうだとしてもこのようなちっぽけな小舟では…」


 タナの心配は尤もである。こんなちっぽけな小舟で姿をひけらかし、わざと敵に見つかろうとするなど自殺行為にも程がある。それにここまであからさま過ぎては却って警戒されてしまうのではないだろうか。


「それでいいんだ。すんなり信じてもらう必要は無い」

「え ?」

「こんなあからさまな状態で、こちらにだけ全ての戦力を向けるなどという事はしないだろう。リミグロンはきっと疑う。わざわざ顔を隠す事もせずにそれもこんな装備で海に出るという事はいくらなんでもおかしい…そう考えるさ。小舟にいる方は影武者で、街にまだ残っているんじゃないかと疑ってくる可能性だってある」

「そ、そうなれば街の方に戦力が向くことになってしまいますが…」

「彼らの規模がどれ程の物かは分からないが、上手く行けばある程度は分散させることが出来る。俺達を攻撃する集団と街への侵攻を行う集団としてだ。<ネプチューン>の力があるとはいえ使い慣れていない以上、全ての敵を相手取るのはリスクが大きい。そして街に残っている戦力を考えてみても、そちらに残って戦うというのも心許ない。だからこそ<ネプチューン>にとっての土俵である海に出ておく必要があった。こちらに来た敵を殲滅し、その上で海から街にいる兵士達へ援護を行う」


 少し休憩を挟んでからルーファンは自分の意図を伝える。やがて少し荒れだしている海を眺めた。小舟にぶつかる波の音が心細さをさらに際立たせてくる。


「何より、大人数で俺達と来たとしても間違いなく無事じゃ済まない。アリフには少しでも多くの人手が必要な状態だ。俺達二人だけで囮になるしかなかった」


 どう足掻いてもリスクのつきまとう戦いだというのは重々承知だった。せめて犠牲を少なくしなければならないと努力はしたものの、我流で…それも一人で戦う事にルーファンは慣れ過ぎていた。故にこのような規模の大きい戦況を把握し、動きを読むという事が苦手だった。


「お優しいのですね」


 唐突にタナが呟く。


「え ?」

「あ、いえ…じ、自分の身を案じなければならない状況なのに、周りへの影響や被害の事についても考えを巡らせている事にお、驚いたので…」

「責任があるからだ。俺一人が勝手に始めた戦いのせいで混乱が引き起こされている。この国も例外じゃない。それならせめて共同戦線を築くことに尽力をするのが筋だろう。その点で言えばまだ不十分だ。結局、こうやって周りを危険に晒す様な手段しか取れていない」

「せ、責任を取るというのは、人の持つ情を感じ取れるからこそ出来るものだと思いますよ。す、全てを投げ出して逃げる事だって出来るのに、それをしようとすらしない。そ、それが優しさの証明ではないでしょうか…」


 自分の身勝手さに負い目を感じていたルーファンに対し、タナはたどたどしく彼の行いを肯定してくる。褒めた所で何か礼が出来るわけでもないというのに、どうしてそこまで必死になるのかルーファンにはよく分からなかった。化身として器である自分が道を踏み外さない様に必死なのか、それとも正真正銘の善意からそうしているのは分からない。だが悪い気はしなかった。


「君も同じくらい優しいんだな。恐らくお人好しさでは俺を上回っている」

「ええっ ? そ、それ褒めてます… ?」

「ああ。褒めてるよ」


 逆におだてられ返されたタナが狼狽える姿を暫し見つめた後、ルーファンは空を見た。後方の空にサラザールが翼をはためかせて飛んでおり、こちらの出方を待っている。合図代わりに彼女へ向かって手を上げると、間もなくアリフへと飛んで戻って行った。


「ここからが本番だ。サラザールが軍と国務長官に準備が出来たことを報告すれば、そこからリミグロンへと連絡を取って偽の情報を流してくれる。そうすれば奴らもすぐに現れるだろう…水と生命を司る<ネプチューン>の力。その真価を見せてもらうぞ、いいな ?」

「は、はい ! が、頑張ります…」


 作戦が動き出した事をルーファンが告げる。タナも覚悟を決めたのか、どもりながらも彼に応えた。

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