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赤の兄妹  作者: 貴神
2/3

百年ぶりの再会

ほんのりBLの漂う、赤の兄妹の続編です。


赤の兄と妹のそれぞれの気持ちが、


少しでも伝わったらなと思っています。

金の貴公子と赤毛の少女は馬車に乗ると、都の中央街へと向かった。


東部の都は年を重ねる毎に其の華やかさを増し、南部に迫る勢いで発展していた。


赤毛の少女は長年兄と共に様々な地を旅して来たが、


此れ程に栄えた街を目にしたのは久し振りだった。


馬車を下りた二人は目深に外套のフードを被ると、名所を歩き始める。


すると赤毛の少女が、ぐるぐると繁華街を見回し乍ら口笛を吹いた。


「凄いねぇ。皆、御金持ちそう!!」


金の貴公子は隣で笑う。


「確かに此の都は貴族たちの溜まり場だよ。南部ほどじゃないけど。遊戯施設も増えてるしね」


「へぇ・・・・うち等、生まれて此の方、貧乏生活だったから、目が眩しいよ。


でもって、翡翠の兄の変わりっぷりにも吃驚っ!!」


そう言う赤毛の少女に、思わず金の貴公子は耳を寄せる。


「そんなに違うの?? 何が?? どんな風に??」


気になる・・・・!!


赤毛の少女は首を傾げると、


「んんとねぇ・・・・背が高くなったなぁと」


しみじみと言う。


「そりゃあ・・・・背くらい伸びるだろう」


訊くんじゃなかったと落胆する金の貴公子。


「ええ?? だって昔は低かったよ。・・・・あれ?? 違うか。


御兄ちゃんと夏風の姉が妙に高かったのかなぁ??」


むむむ、と考える赤毛の少女。


「でもねぇ、昔は、もっとこう、可愛いイメージが在ったなぁ。って云うか、


今も凄い綺麗で吃驚したけど・・・・何て云うか、今は何処にも隙が無いって感じかなぁ。


昔は、どんな悪人にでもついて行きそうな顔してたし」


うはははは!! と笑う。


「おお・・・・そうなのか」


其れは、ちょっと見てみたかったかも知れない。


今の翡翠の貴公子は確かに綺麗だが、其の眼差しは、


やはり戦乱を生き抜いてきた強い光を放っている。


極悪人にもついて行く翡翠の貴公子がどんな姿で在ったのか、


機会が在るのならば拝んでみたいものだ。


「翡翠の兄と夏風の姉の事は、数十年前に噂で聞いてたんだ。


凄く遣り手の二人が、ゼルシェン大陸の軍隊を転々としてるって。


翡翠の兄、そんなに強いのかな??」


何故か少し不服そうに言う赤毛の少女。


だが金の貴公子は大きく頷いた。


「遣り手なんてものじゃないな。あの人、本当に何でも出来るから・・・・俺なんて、


とてもじゃないけど足下にも及ばないよ。ああ、でも」


金の貴公子は腕を組んだ。


「夏風の貴婦人も主に劣らないくらい、凄いな」


其れを聞いた赤毛の少女は目を輝かせる。


「ええ!! そうなの??」


「ああ。凄過ぎて・・・・恐い」


言い乍ら肩を落とす金の貴公子とは正反対に、赤毛の少女は嬉しそうに笑う。


「そっかぁ・・・・やっぱり夏風の姉は凄いんだね。でもって、すっごく綺麗なんだろうなぁ」


赤毛の少女は既に華やぐ街並みには興味は無いと云う様に、宙をぼんやりと眺める。


「まぁ・・・・美人は美人なんだけどね」


其の外見の美しさよりも、性格の強さが前に出てしまっているのが玉にきずである。


しかし赤毛の少女は切なげに溜め息をつく。


「あたしさぁ・・・・もし、夏風の姉が想像通りになってたら・・・・」


惚れちゃうな・・・・。


しみじみと呟いた。


どうやら此の赤毛の少女は、余程、夏風の貴婦人を好いている様である。


あの鬼女をねぇ・・・・。


二人は街頭の広間の噴水の縁に腰を掛けると、暫くぼうと道行く人を眺めた。


フードを目深に被った自分たちを、異種と気付く者は誰も居ない。


此のまま此処で暇潰しをするのか・・・・金の貴公子がそう思った時、


赤毛の少女がぼそりと呟いた。


「翡翠の兄の事さぁ・・・・好きなんでしょ??」


其の何気無い少女の呟きに、金の貴公子は思わず真っ赤になった。


其れを見た赤毛の少女が、ぎゃははは!! と笑い出す。


「もう、ばればれ!!


だって、ずっと目で追ってるしさぁ、もう端から見たら直ぐ判るって!!」


「・・・・・」


金の貴公子は限り無く言葉を失った。


ずっと密かに隠し通してきたのに、そんなにも表面に出ていたのだろうか??


よりにもよって今日出逢ったばかりの少女に暴かれてしまうとは・・・・!!


果てし無く滅である。


金の貴公子は観念した様に溜め息をつくと、


「君ってさ・・・・いい性格してるよね」


恨めしそうに、ぼやいた。


先程は夏風の貴婦人に似ていると思ったが、最早、打ち消しである。


確かに夏風の貴婦人に似ては居るが・・・・正確に言うと・・・・


夏風の貴婦人を更にパワーアップさせたと云う方が的確であろう。


がははは!! と赤毛の少女に背中を叩かれて、金の貴公子は、うう・・・・と呻く。


「応援してるからさ、ま、頑張ってよ」


にぃ、と笑う赤毛の少女。


が。


赤毛の少女は空を仰ぐと、


「でもさぁ・・・・そうなると・・・・」


膝の上に頬杖を着く。


「うちの御兄ちゃんと、ライバルになっちゃうね」


夏の空に出来た積乱雲から千切れた雲が、ゆうるりと流れて行く。


其れを、ぼうと眺めていた金の貴公子だったが、


「ええっ!?」


思わず大声を上げる。


そして、ぱくぱくと金魚の様に口を動かす。


「え・・・・じゃ・・・・いや・・・・ええっ!?」


金の貴公子は、わなわなと拳を震わせると、


「もしかして・・・・此れって策略?!」


赤毛の少女を睨んだ。


赤毛の少女は白い歯を剥き出すと、


「うはっ!! ばれた??


だってさぁ、あたしの御兄ちゃん、本当、喋んない人だから、二人にしてあげた方がいいかなって」


ぎゃははは!! と又しても大声で笑う。


金の貴公子は我に返って立ち上がると、


「俺、帰る!!」


踵を返して走り出そうとする。


其れを慌てて赤毛の少女が止める。


「大丈夫だって!! そんな直ぐに、事に及ぶ様な事にはなんないからさ」


「及ばれてたまるかぁっ!!」


金の貴公子は噛み付く様に怒鳴った。


「とにかく、俺は帰る!! 見学したいなら、一人で遣ってくれよ!!」


ずんずんと歩いて行く金の貴公子の後を、赤毛の少女が追って来る。


「帰るって言ったって、帰りの馬車来るのは、まだ三刻は先だよぉ」


「五月蠅いっ!! 俺は飛んで帰る!!」


「そんなに動揺しなくたっていいって!! 翡翠の兄、強いんでしょ??」


赤毛の少女にそう言われて、金の貴公子は、やや呻く。


「いや・・・・強いけどさ・・・・そう云う問題じゃなくてさ・・・・何て云うか・・・・


こう・・・・気持ち的に・・・っ!!」


「大丈夫だって。どうせ二人で、昔話の四つや五つしてるだけだからさぁ。


今、帰ったら、迎えの馬車の人が可哀相じゃない??」


うう・・・・と金の貴公子は歯軋りした。


翡翠の貴公子の秀でた強さは知っている。


だが、しかし、あの巨体な男の事を考えると、どうにもこうにも・・・・。


いや、其の前に、そんな心配をしている自分の頭の方が、余りにどうかしてないだろうか??


だが、だが、しかし、翡翠の貴公子のあの繊細な美しさは、


老若男女を問わず誘き寄てしまうのも確かだ。


「うおおおお!! 俺は、どうすればいいんだっ?!」


「だからさぁ、迎えが来るまで一緒に街を見学しようって」


蹲る金の貴公子の背中を、ばしばし叩く赤毛の少女。


結局、二人は夕暮れ時に迎えに来た馬車に乗って帰ったのだが、


事態は思わぬ展開へと転んでいたのであった。









金の貴公子と赤毛の少女が翡翠の館に戻ると、思わぬ展開が二人を待ち受けていた。


夕暮れ時に戻った二人を迎えてくれたのは、館の執事であった。


館では既に夕食の用意がされており、二人は食堂へと通された。


食堂には既に翡翠の貴公子と赤毛の青年が居た。


四人が席に着くと白ワインが注がれ、前菜が運ばれ始める。


赤毛の少女は食卓の料理に歓声を上げようとしたが、食堂の重い雰囲気に目を瞬かせる。


そして、ぼそりと、手前の金の貴公子に声を掛けた。


「あのさ・・・・いつも、こんなに重い空気の中で食べてるの??」


金の貴公子は声を潜めて答える。


「いや・・・・いつもは、こう、和気藹々と・・・・いや、


そうしてるのは俺なんだけど・・・・今日は特別だな・・・・」


言い乍ら隣の席の翡翠の貴公子を、ちらりと見る。


此れは・・・・此の顔は・・・・滅茶苦茶、怒っている。


普段から表情の乏しい翡翠の貴公子で在るが、流石に今夜は金の貴公子にも判った。


あれは、相当・・・・怒っている。


客人が来た時には、翡翠の貴公子も用意された酒に口を付けるのだが、


今日は全く飲もうとしない。


翡翠の貴公子が酒を口にするのは機嫌の良い時である事を、金の貴公子は知っていた。


自分の向いの席で黙々と食を進めているのは、赤毛の青年だ。


其の彼の顔を見れば、大体の予想は付いた。









事の次第は少し前に戻る。


赤毛の少女と金の貴公子が街の見学に出掛けてから、残された翡翠の貴公子と赤毛の青年は、


ぽつりぽつりと昔話を始めていた。


そして彼等なりに話に花を咲かせていると、話題は腕試しへと移った。


翡翠の貴公子も赤毛の青年も互いに口下手なだけに、長棒の腕試しは互いに好奇心をそそられた。


特に赤毛の青年にとっては、翡翠の貴公子の勇士は想像するに難しいものであった。


赤毛の青年の記憶の中の翡翠の少年は余りに小さく無防備だった故に、


目の前の翡翠の貴公子の力量は全く考えられなかったのだ。


しかし、そんな赤毛の青年の想像は一気に砕け散った。


百年ぶりに再会した翡翠の少年は・・・・驚く程に強くなっていた。


翡翠の貴公子の棒使いは、凄まじく切れが良かった。


相手の手薄になっている部分を瞬時に見分けて打ち込んで来るのが、


どれだけ目利きで在り腕利きなのか、長年、転々と旅をし乍ら生き抜いてきた赤毛の青年には、


明らかに見て取れた。


あの頼りない少年の姿は、もう此処には無い。


在るのは、己で生き抜く術を身に付けた真っ直ぐな瞳の翡翠の青年だ。


しかも其の姿は・・・・恐ろしく綺麗だ。


赤毛の青年は彼の長棒を跳ね返し乍ら、己の胸に沸き起こる熱い感情を感じていた。


其れは・・・・百年前に感じたものよりも一層激しい感情。


百年間、抱えて来た想いを、更に塗り替える程の強い感情。


二人は思いきり長棒をぶつけ合うと、其の反動を利用して後ろへ跳んだ。


其れで暗黙の終了を迎える。


翡翠の貴公子は長棒を下ろすと、道場の柱に寄り掛かって嬉しそうに笑った。


そんな幼馴染みを赤毛の青年は見詰めると、


「・・・・本当に変わったんだな」


ぼそりと呟く。


「そう、百年前の儘に思われても困る」


翡翠の貴公子が可笑しそうに答える。


互いに、まだ肩で息をしている。


赤毛の青年は暫く長棒を握り締めていたが、ずっと抑えてきた衝動を遂に止められなくなった。


赤毛の青年は長棒を捨てると、翡翠の貴公子に近付き、囲む様に柱に両手を着いた。


驚く翡翠の瞳に、赤毛の青年は自分の身体中の血液が激しく滾るのを感じていた。


思えば目の前の翡翠の同族と共に過ごした時間は、百年前のたったの十四日間だ・・・・。


なのに此の熱い感情は何なのか・・・・。


過去の記憶は美化されていく。


其の美化されてきた百年を打ち消すかの様に、


目の前の翡翠の同族は想像を遥かに超えて美しく強くなっていた・・・・。


なんと・・・・気高い同族となったのだろう・・・・。


更に自分は・・・・此の翡翠の貴公子が・・・・本当は何で在るのか・・・・


百年前に知ってしまったのだ・・・・。


沸き起こる此の感情を抑えろと云う方が無理なのかも知れない・・・・。


赤毛の青年の唇が動いた。


そして・・・・


「・・・・ずっと・・・・好きだった。あの頃から、ずっと・・・・」


赤毛の青年は重く静かに己の胸中を打ち明けた。


翡翠の貴公子は驚愕の表情で赤毛の青年を見上げたが、


其の愛情を示そうと唇を迫らせてきた彼の腹部を、容赦なく思いきり膝で蹴り上げていた。


そして其の一撃に呻く赤毛の青年の頬を、翡翠の貴公子は間髪を置かずに拳で殴り付けた。


「痛っ・・・!!」


不意を突かれた赤毛の青年は苦痛に顔を歪めると、口許と腹部を抑える。


翡翠の貴公子は歯軋りをすると、


「御前には幻滅した」


怒りを露わに呟いて、広間を出て行った。









夕食を済ませた赤毛の青年と赤毛の少女は、用意された客室に案内された。


メイドが部屋を出て行くと・・・・途端に、赤毛の少女がゲラゲラと笑い出した。


「御兄ちゃん!! 其の顔、すっごいダサいよっ!!」


「・・・・・」


静かに椅子に腰を掛けている赤毛の青年の口許には、青痣が出来ていた。


「痣つくるなんて、何十年ぶり??」


うわっ・・・ダサ過ぎ!!


赤毛の少女は大笑いを続ける。


「少しはさ、よけるとか出来なかったの??」


依然として腹を抱えて笑い続ける妹に、赤毛の青年は、ぼそりと答えた。


「速過ぎて・・・・よけられなかった」


其の答に一層、笑い出す赤毛の少女。


確かに、210センチを遥かに越えた大男が顔に大痣をつくっている様は、実に情けない。


其の上、こんなにがっしりと筋肉がついており、見るからに無敵そうで在るのに・・・・。


赤毛の少女は笑いが止まらなかった。


そんな妹に、赤毛の青年は不服そうに見て黙り込む。


すると先程まで笑い飛ばしていた赤毛の少女は、兄の肩をそっと抱いた。


「うち等・・・・此処に来るべきじゃなかったのかな」


大好きな兄に頬擦りをする。


「あたしもさぁ・・・・夏風の姉に逢ったら・・・・多分・・・・間違いなく、


好きになっちゃう・・・・」


妹の初めての告白に、赤毛の青年は視線を妹に向ける。


「過去は美化される・・・・でも判るんだよね。


夏風の姉は、きっと、あたしの想像を遥かに超えてる・・・・」


兄妹して馬鹿だよね。


小さく赤毛の妹が言う。


自分たちは届かない恋をする為に・・・・此処へ来たのだろうか??


「これから・・・・どうしようか??」


そう呟く妹の手は、ただただ優しく・・・・玉砕した兄の赤毛を撫でるのだった。

この御話は、まだ続きます。


赤の兄妹が、これから、どうするのか、楽しんで貰えたら嬉しいです。


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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