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赤の兄妹  作者: 貴神
1/3

(1)赤い鳥

ほんのりBLをいきつつ、赤の兄妹の登場です。


翡翠の貴公子と赤の兄妹の関係と、一人戸惑う金の貴公子の事が、


少しでも伝わったらなと思っています。

初夏も終わり、本夏も深まり始める頃。


翡翠ひすいの館は特に変わる事もなく、同じ時が流れていた。


翡翠ひすいの貴公子が日々業務に追われる一方で、きんの貴公子は殊更、


暇を持て余していた。


さて。


今日も何処ぞの貴婦人の下へ遊びに行こうか。


降り注ぐ夏の太陽の光は、自分にだけには、いつも優しい。


金の貴公子は黄金の翼で一気に雲上へ舞い上がると、太陽の真下へと身を浮かせる。


雲の上は良い。


誰も何も居ない。


さんさんと照りつける光は、此の身を焼く事なく加護してくれる。


光を加護に持つ金の貴公子にとって、雲上は季節に関係なく最高の場所だった。


誰も居ない、雲海。


そう。


誰も居ない筈の・・・・。


だが・・・・彼の目の先に、居た。


鳥ではなく、人が。


いや、正確には少女だった。


燃える様な赤い髪と赤い翼を広げた、少女。


金の貴公子は思わず目を瞠った。


何故、こんな処に少女が??


しかも・・・・翼?!


そう思ったのも束の間。


「うああああ!!」


少女が悲鳴を上げると、雲海を突き抜けて落下した。


何だ??


何なのだ??


今のは?!


困惑した金の貴公子は思わず後を追っていた。


雲間を擦り抜け、少女が落ちた谷へと向かう。


上空から、こんな深い谷間へ落ちれば・・・・普通、命は無いだろう。


だが見間違いでなければ、少女の身体からは赤い翼が・・・・??


一体何が、どうなっているのか・・・・??


金の貴公子が谷間へ降り立つと、其処に少女は居なかった。


少女の代わりに・・・・巨大な大男が居た。


真っ赤に燃え上がる髪に、赤褐色の肌の大男だ。


其の大男を前に金の貴公子は着地して、やや後ずさる。


此れは一体どう云う事だ??


先程の少女は何処だ??


確かに自分が追って来たのは、小さな赤毛の少女だった筈だ。


間違っても、こんな大男ではない。


大男と金の貴公子は暫く対峙していたが、其の張り詰めた空気を破る様に、大男の背後から、


ひょこりと少女が顔を出した。


なんと先程の少女だ。


少女は真っ赤な瞳で金の貴公子を見ると・・・・


「御兄ちゃん!! もしかしなくても此の人、同族じゃない?!」


大声で叫ぶ。


挿絵(By みてみん)


よく見ると少女の背には、燃え上がる火の様な翼が閉じて在った。


先程の雲の上で見た少女の姿を金の貴公子は思い出すと、言葉を失う。


確かに目の前の少女は同族としての要素を十分持っていたが、まさかこんな処で出逢うとは、


予想もしていなかった。


兄と呼ばれた長身の赤毛の男は警戒の眼差しを金の貴公子に向けていたが、


兄と同様の赤褐色の肌の少女は、赤い瞳を輝かせて前へ出て来た。


「御宅、同族だよね?? あたし達、ゼルシェン大陸の東部を治めてる、


夏風なつかぜの貴婦人と翡翠の貴公子に逢いに来たんだけど」


少女の其の言葉に、金の貴公子は目を丸くした。


「ええっ?! ええっと・・・・」


夏風の貴婦人とは・・・・やはり、あの夏風の貴婦人の事だろう。


一族一の鬼女。


そして翡翠の貴公子とは・・・・あの寡黙な自分のあるじの事だろう。


金の貴公子は暫し物凄い速さで、普段使わない脳を回転させると、


「案内するよ」


大男と小柄な少女の案内を買って出た。









此の日、翡翠の貴公子は、相も変わらずデスクワークに追われていた。


だが昼下がり、言い表せられぬ不思議な空気が彼の部屋に舞い込んで来た。


「・・・・・」


不思議な香りがする・・・・。


翡翠の貴公子は顔を上げると、窓辺へ向かう。


静かに空を見上げる。


浮かぶ雲は、ゆうるりと流れている。


其れ以外に変わりゆくものはない・・・・。


そう思ったが、翡翠の貴公子は或る一点を見詰めた。


遥か空高くに、一羽の鳥が見える。


其の黒い影は時折、光の加減で真っ赤な閃光を放っている様に見えた。


例え此れだけ離れていようとも、判る。


其の鳥が、なんと大きいのか。


翡翠の貴公子は其の赤い影を見上げ乍ら、暫し動かなかった。


遥か遠くの記憶を、翡翠の貴公子は思い出していた。


潮風が鼻を突く様に蘇ってくる。


翡翠の貴公子は窓辺から離れると、部屋を出た。


そして執事呼ぶと、


「客が二人来る」


そう、静かに告げた。









金の貴公子は思わぬ場所で同族と出逢っていた。


燃える様な赤い髪と赤褐色の肌の巨大な男と、其れとは正反対に、


愛らしい赤い髪と赤褐色の肌の小柄な少女に。


翡翠の館に棲み付いてからと云うもの、様々な同族と交流する様になったが、


やはり異種同士にとって、同族との新たな出逢いは貴重で在った。


三人は翼で谷を上がると、館近くの森から歩いて行く事にした。


同族の中での決まりでは、人前で神力を使わない、翼を見せないと云うのが鉄則である。


こっそりバルコニーから入る事も可能だったが、流石に客人を連れて其れは不味いだろうと、


金の貴公子も思った。


最も金の貴公子は、愛人の前では翼をしばしば露わにしていたのだが。


三人が館に向かって森を歩き始めると、赤毛の少女が突然、感動の声を上げた。


「御宅ってさ、もしかしなくても主神しゅしんなの??」


燃える様な真っ赤な大きな瞳で見上げてくる。


先程まで金の貴公子の額に出ていた金色の紋を、少女は見逃していなかったらしい。


主神とは支配する其の属性の中で、最も其の属性の精霊たちに愛されている者の事である。


金の貴公子は得意気に前髪を掻き揚げると、鼻を鳴らした。


「そそ。そうなの。凄いっしょ??」


赤毛の少女は大きく頷いた。


「主神って、本当に居たんだね!! うわあっ!! 感動!!


御兄ちゃん、やっぱり居る所には居るんだねぇ!!」


そう言い乍ら、少女は長身の兄を見上げる。


其の赤毛の男を横目に見ながら、其の大きさに金の貴公子は内心驚いていた。


でかい・・・・。


なんて、でかいんだ・・・・。


金の貴公子も長身の方で在るが、赤毛の青年の背の高さは、ずば抜けていた。


軽く210センチは在るに違いない・・・・。


腰には此れ又、一回り大きな剣を提げている。


鍛え上げた筋肉を見ても、歯が立ちそうにない相手だ。


顔立ちは整った精悍なものだったが、酷く寡黙な様子に伺える。


しかも先程から、うんともすんとも言わない。


まるで・・・・岩男の様だ。


そんな赤毛の男とは正反対に、赤毛の少女は非常によく喋っていた。


歳は十四、五歳と云ったところだろうか??


150センチ代と実に小柄で在る。


赤毛の少女は真っ赤な瞳をくりくりさせると、


「でもさ、主神って、もっと凄いものだと思ってたなぁ。


案外、普通の同族と変わらないんだねぇ!!」


ぎゃははは!! と大口を開けて笑う。


其の少女の様子に、金の貴公子は内心首を傾げた。


何だろう??


此の少女は??


何かが引っ掛かる・・・・。


そう頭の傍らで思い乍ら、金の貴公子は話題を切り替えた。


「翡翠の貴公子も主神だよ。同族には俺以外に三人、主神が居るんだ」


「ええ!! そうなの?? そうなんだぁ・・・・早く逢いたいねぇ!! 御兄ちゃん!!」


赤毛の少女は満面に笑うと、長身の兄を肘で小突く。


其の光景を見ながら、金の貴公子は又しても首を傾げていた。


何だろう・・・・??


此の少女・・・・誰かに似ている。


此の・・・・大口を開けて笑い飛ばす様は・・・・其処まで考えて、金の貴公子は口を覆った。


判った!!


誰かに似ていると思えば・・・・此の少女・・・・夏風の貴婦人に似ているのだっ!!


容姿は、ともかく、此の笑い方、此の態度。


似ている・・・・夏風の貴婦人に嫌なほど似ている・・・・。


ううむ・・・・。


こんなに愛らしい顔をしているのに・・・・。


何故だか勿体ない気がしてしまう、金の貴公子である。


そんな彼の意気消沈など知る筈もなく、赤毛の少女はべらべらと話す。


「翡翠のにい、どんな風になってるのかなぁ??」


三人が森を抜けて橋を渡ると、館が見えてくる。


「翡翠の貴公子を知ってるの??」


金の貴公子が訊ねると、赤毛の少女は大きく頷いた。


「知ってるよ!! 幼馴染み・・・・かな?? そんなに長くは一緒に居なかったけど」


「へぇ・・・・そうなんだ」


幼馴染みねぇ。


夏風の貴婦人の他に、そんな相手が主に居たのか。


其処まで考えて、金の貴公子は、ぎょっとした。


「幼馴染みって・・・・主と同じ歳!?」


驚く金の貴公子に、赤毛の少女は目を丸くする。


「ええ?? そうだよ。大体、同じくらいじゃないかな?? あたしは十歳くらい下だけど」


金の貴公子は開いた口が閉まらなかった。


翡翠の貴公子と同じと云う事は、此の大柄な男はともかく、


此の少女も百歳は越えていると云う事か?!


幾ら異種が歳をとらないと云っても、こんなに童顔な同族が居るとは!!


どう見たって、十四、五歳くらいにしか見えない。


言葉を失くしている金の貴公子に、赤毛の少女はげらげら笑う。


「何?? 惚れた?? 可愛いでしょ、あたし。


御子様体型好きには、もってこいだと思うんだけどなぁ。でも此れで結構、胸は在るんだよぉ」


えっへんと胸を張ってみせる。


「あはははは・・・・面白いんだね、君」


金の貴公子は顔を引き攣らせる。


ナンパ性の彼も、流石に此の少女には手を出す気は起きなかった。


そして先程から一言も喋らない背高の男と小柄な少女を見比べて、


此の二人・・・・本当に兄妹なのか?? と疑問でならない。


三人が漸く翡翠の館の門に辿り着くと、既に執事が迎えに来て居た。


「御待ち申し上げておりました」


深々と目を伏せる執事。


赤毛の少女は執事と館を交互に見ると、


「おお!! 凄い!! 執事だっ!! 家、大きいっ!!」


感動に打ち震えた様に拳を握り締める。


案内する執事の後をついて行き乍ら、赤毛の少女は飛び跳ねる。


「御兄ちゃん!! 感動だね!! 生きてきて百年!!


まさか、こんな凄い家に招待して貰える日が来るだなんて!!」


実にリアクションの大きな娘である。


いや・・・・れっきとした成人女性か。


隣の大男は相変わらず無言だが。


執事が正面玄関の大扉を開けると、驚く事に翡翠の貴公子が出迎えてくれていた。


一瞬、翡翠の貴公子と赤毛の兄妹の間の時間が止まる・・・・。


互いに互いを見詰め合う。


百年ぶりの再会だった。


三人は瞬きすら忘れたかの様に暫し言葉を失くしていたが・・・・


其の沈黙を赤毛の少女が破った。


「おおおお!! 本当に翡翠のにい?! うわ・・・・全然、変わってる!!」


わはは!! と笑い乍ら前へ出て来た赤毛の少女を、


翡翠の貴公子は暫くきょとんとした顔で見下ろしていたが、微笑すると、


「久し振りだな」


と静かに言った。


そして長身の赤毛の兄にも笑い掛け、


「奥へ案内しよう」


翡翠の貴公子はサロンへと向かう。


サロンには直ぐに茶と軽食の用意がされた。


赤毛の少女は勧められた椅子に着くと、其の豪華な空間と旨い紅茶と菓子の匂いに、


更に感動に打ち震えている。


翡翠の貴公子と金の貴公子も席に着いたが、赤毛の青年は慣れていないのか椅子には座らず、


壁に寄り掛かる。


しかし乍ら何となく居場所をなくしていたのは、金の貴公子であった。


翡翠の貴公子が静かに笑っている。


こう云う事は・・・・非常に珍しかった。


今迄、翡翠の貴公子が此の様に笑い掛ける相手は、夏風の貴婦人の他に居なかったのに・・・・。


此の二年間、翡翠の館で暮らして、翡翠の貴公子が自分に笑い掛けてくれたのは、


実に二度在ったかどうかだ。


だが此の三人の間には自分の知らない絆が在るのだと、金の貴公子は思った。


そう思うと、何だか途端に寂しさを感じる、金の貴公子。


だが金の貴公子の愁いにも関わらず、会話を進めているのは赤毛の少女だった。


「翡翠の兄って、やっぱ、髪、黒くなかったんだね!! 髪の色が違うだけでも別人だよ!!」


其れに対して翡翠の貴公子は可笑しそうに頷く。


其の様子を少し離れた所から赤毛の青年が眺めている。


「って事は、夏風のねえも別人に見えるのかな??」


どうやら赤毛の少女は夏風の貴婦人に再会する事を、殊更楽しみにしている様だ。


すると翡翠の貴公子が答えた。


「彼女には先程、連絡した。今、遠出をしているが、今日中には返事が来るだろう」


「そうなんだ!! ふふぅ~~!! 早く逢いたいなぁ~~!!」


満面の笑みで笑う赤毛の少女。


暫くの間、赤毛の少女と翡翠の貴公子が会話をしていたが、突然、赤毛の少女が席を立ち上がった。


どうしたのかと、男三人が少女に視線を移す。


すると、


「あたしさ、此処の都、見て来たいんだけど、金の貴公子と行って来ていい??」


金の貴公子を指差す。


金の貴公子は思わず吃驚して「俺??」と自分を指したが、翡翠の貴公子は快く頷いた。


「此の東部の都まで馬車を出させよう」


翡翠の貴公子は執事に馬車を出す様に言うと、何故か金の貴公子の名を呼んだ。


其の儘、じっと金の貴公子を見詰めてくる。


翡翠の貴公子が何を言いたいのか・・・・金の貴公子にも痛いほど判った。


金の貴公子は両手を上げると、


「はいはい。何もしません。彼女には指一本触れません」


赤毛の少女に何もしないと誓う。


と云うか、俺はロリコンじゃない!! と内心唸る金の貴公子。


其の遣り取りを見た赤毛の少女は、わはは!! と笑うと、


「あたし、来る者拒まずだから、いつでもいいよん」


にぃ、と笑った。

この御話は、まだ続きます。


金の貴公子と赤の貴公子の主への想い等、楽しんで貰えたら嬉しいです。


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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