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王宮内の困惑。

第14章

 「奥様、この女性は・・・?」

 「この子のお母さんのようです」


 トハルト家令が、

 「しかし、ヴァイオレット家は、女性の労働者を雇っていません」

 「そうなの?」


 すると、その女性が、

 「主人の代わりに来ました。私は女ですが、男以上に力があり、植物にも詳しいです。夫以上に働きます。お願いです。・・働かせて下さい。薬代が必要で、夫の熱が下がりません。お願いします」


 誰も、答えず、その場の人々は、ミオの言葉を待っている。

 「同じ労働なら、同一賃金でいいのではないでしょうか?困っているようですし、そのまま働かせてあげて下さい」


 「ーーーしかし、この子はどうしますか?」


 「彼は、私の側で大人しく出来るのなら、このままでいいです。・・休憩時間が来たら、様子を見に来て下さい」


 母親は、涙を流し、ミオにお礼を言い、自分の持ち場に戻って行った。持ち場の人間も、彼女の事情を理解して、仕事に参加させていたようで、大きな混乱は起きなかった。


 トハルトは、ミオに誠心誠意頭を下げた。

 

 「奥様、申し訳ありません。労働者たちの身元は調べていましたが、代わりや、子供を連れて来るとは思っても見ませんでした」


 「ーーートハルト家令、旦那様は貴族ですが、わたくしは、自分も貴族になったつもりはありません。庶民は、庶民で助け合わなくては、生きて行けません。それでいいのではないでしょうか?」


 「この後、この子の分の昼食も用意して下さい。ーーダルマルは、びっくりする程、食べます」


 ダルマルは、本当に大人しくて、ミオが歌えば、ダルマルも歌い、絵を描けば、真似して絵を描く、小さい体で、色々な事を吸収しているのが、手に取るように分かった。


 仕事が終わり、その母親が迎えに来て、病状を聞き、コメネルが調剤した薬と果物を与え、

 「明日も、ご主人が来れない場合は、ダルマルを連れて現場に入る事を許可します」と伝えた。


 それから毎日、ダルマルはやって来て、ミオと遊び、食事を取り、お菓子を食べる。


 この世界のミオは、今までこんなに小さい子供と接した事がなく、ヴァイオレット邸のすべての使用人は、ダルマルの事を、子育ての練習台としてみる様にもなって行った。


 アイシン男爵は、ミオが楽しく毎日を過ごしていれば、それですべて善しと、考えている。


 しかし、アイシン男爵の方には、難題もあり、それをどうにかするべきかと考えていた。


 「ミオ、君が用意して僕に持たせた水筒だが、王宮で人気が出て鍛冶屋が大儲けしたらしい・・・」



 アイシン男爵は、最近は、事務仕事の研修に入っているが、勉強熱心の為に、昼食も取らない事が多く、食堂などには出向く事はしていなかった。そのことを聞いたミオは、


 「昼食を召し上がっていないのですか?」


 「ああ、読む文章が多くて、移動時間も、惜しいと感じ、食べていない」


 「それでは、朝、サンドイッチのような軽食をお持ちになるとよろしいでしょう。あの水筒も一緒にトナカリに持参させて、お昼をお取りください」


 「ーーーミオは最近、キチンと、食べているのか?」


 「はい、わたくしはダルマルと一緒に食べています。ダルマルの母親が作って持たせている干し肉と言う物を、この前、初めて食べました」


 「うん、どうだった?」


 「・・・美味しかったです」


 「ほう?」


 「今度、私も食べてみたいな」



 ダルマルの母親は、力持ちで、料理上手なのだろう、ミオがダルマルに持たせる薬草や果物を肉に漬け込み、乾燥させ、ダルマルの昼食に持たせていた。しかし、それでは食いしん坊のダルマルは、足りないので、ミオと一緒に、昼食も食べる。ダルマルのお蔭で、病気の夫も回復したが、母親も、そのまま、ダルマルを連れての出勤は許された。


 アイシン男爵もミオも、お弁当と水筒を持って出勤することが、王宮では大きな騒動を生む事になるとは、その時は、考えていなかった。まして・・・その干し肉がバズるとは、誰も思ってもいない。



 アイシン男爵は、事務仕事の研修に入ったが、軍部の訓練を行っている地方貴族たちもいる。基本、訓練、休憩、訓練、食事等でその日一日を終え、帰路に着くが、今は夏で、倒れる若者が続出している。ーーー熱中症だ。


 この前の晩さん会以来、軍部が用意した水を誰も飲まなくなった。


 地方貴族たちは、王宮内での飲食に、細心の注意を払う事となったのだ。


 彼らに嫌がらせを行う中心人物は、軍部最高峰のカレンジン軍長だと認定され、その噂は、今では王都だけではなく、地方にまで届いている。


 「軍長! また、倒れました」

 「水を飲ませろ! 」

 「飲みません! 」


 そんな中、アイシン男爵は、水筒を持参して、今では、お弁当も持参していると噂になり、噂は、どんどん大きくなり、その為、結局、街の鍛冶屋が、儲かっている。


 王宮の上層部でも、この話題で持ち切りだ。

 「国王陛下、あの男爵夫人に、薬を盛った犯人を探し出し、彼らの前で罰しましょう」


 国王やサージ宰相は、サージ宰相の娘のリキュルの仕業だと知っているので、言葉を濁す。

 「しかし、犯人を特定しても、あの場所で起こった事実は消えないだろう」


 「アイシン男爵に食堂で昼食を取るように命令しますか?」

 「それは、薬混入の事実を認めて、これからは、安全だと言っている事になる」


 「アイシン男爵に、もう一度、軍部の研修に参加してもらい、軍部の用意した水を飲んでもらいましょうか?」


 「それも、バレバレだ」


 「それでは、軍事訓練を行うのはどうでしょうか?王宮貴族全員で郊外に訓練に出かけ、チーム分けをし、競い合い、親交を深める。チームで競い合うので、各自、身軽で参加するでしょう。食事や水等は、ベースキャンプに用意しておく、どうでしょうか?」


 「ああ、それは名案だ。王宮だけの訓練では心もとない、郊外での大規模訓練となれば、国民たちの目もそっちに向かうだろう」


 「はい。それでは準備に取り掛かります」


 会議が終了して、国王陛下はサージ宰相に釘をさす。


 「今度、リキュルが何かしでかしたら、庇う事は出来ない。カレンジン軍長にも公平に訓練を行う事を約束させろ。いいな! 」


 「はい、私もそのつもりです。しかし、今度の合同訓練には、皇子達も参加させるおつもりですか?」


 「ああ、そうするつもりだ。彼らがどう動くかは、私にも予想不可能だが、いい経験になる」



 夏の日差しは強く、ミオは外には出なくなった。日焼けは女性には天敵だ。


 その為、ダルマルは、屋敷に入るなり、ジュリエール指導の下、フィージアに入浴させられて、キレイな服に着替えさせられ、ミオと一緒に屋敷内で過ごす事が出来るようになった。


 「トハルト、夏は暑いわ、ダルマルのご両親たち労働者たちには、秋までお休みしてもらいましょう」


 その話を聞いて、トハルト家令は、一瞬、躊躇ったが、ミオの言葉はこのヴァイオレット邸では、絶対で、

 「はい、そのようにします」と答えた。


 そうすると、ダルマルが、

 「僕は、僕も秋まで来れないの?」

 「ええ、暑すぎて、少しお休みしましょう」


 昼休みにそのことを労働者たちに告げると、夕方、終わりに全員が庭に座り込み、ミオに面会を求めた。


 「奥様、私たちは、どんなに暑くても働けます。お願いします。やっと生活が人並みになって来て、毎日、お屋敷に働きに行く事だけが生きがいです。この仕事が、秋まで無くなると、この夏は、どうしたらいいのかわかりません」


 トハルト達使用人自身も、貧しい出身者が多く、だから、王都でも、生活が厳しい労働者を雇う事にしていた。その事は、アイシン男爵には、当然、話したが、ミオには話していない。


 ミオは、考えて、トハルトに聞く。

 「涼しい場所に作る小屋の方は、どうなっていますか?」


 「まだ手つかずです。初めに、池を形にしたいと考えていました」


 「それでは、小屋の方を先にお願いします。秋の終わりには、大雨が降ります。小屋の場所が涼しい場所でしたら、皆さんも働けます」


 「それと、ダルマルのお母さんは、あの干し肉を屋敷の厨房で沢山作ってもらえますか?」


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