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遂に来た晩さん会

第12章

 馬車を降りて、どの廊下を歩き、誰に挨拶する。


 国王陛下、サージ宰相、王宮内の重鎮、どの柱が隠れられるとか、ジュリエールによって、すべての使用人たちにきっちりと講義が行われた。


 ジュリエールの講義は素晴らしく、参加したすべての人の中に王宮内がイメージとして残った。


 「旦那様、わたくし王宮に初めて来たとは思えない程、ここを知っているように思えます」


 「実は、僕もそう思うよ。毎日、通っているが、この建物に入った事はない」


 「ジュリエール様は、本当に素晴らしい方ですね」


 「ああ、それに、なぜか君を気に入っている。不思議だ・・・・」


 「それは、わたくしが世間知らずで、教える事が沢山あるからではないでしょうか?」


 「そうかな・・?」


 (多分、彼女は、自分と同じ匂いをミオに感じているはずで、ミオを本当の世間知らずの娘とは思っていない・・・。打てば響く、そのような空気を感じていると思った。)


 二人は、腕を組み、軽い会釈をしながら晩さん会会場までの廊下を歩き、正装した使用人が、重たい扉を開けると、会場内に、『アイシン・ヴァイオレット男爵ご夫妻、ご到着〜』と紹介される。


 階段を降りると、そこからは別々の席に案内され、指定された席へと向かう。


 流石に椅子の上には小細工はなく、落ち着きながらも、ドキドキ感を漂わせて、手を握り締め、下を向いたまま、時が来るのをじっと待つ。


 国王陛下の挨拶が終わり、シャンパンで乾杯が行われ、物珍しい料理が運ばれてくる。


 ミオとアイシン男爵の席は、末席ではなく、中央の位置に用意されていた。


 アイシン男爵からは、ブーメン子爵越しに、ミオが見えるが、ミオの目の前には、リキュルが座っている。馬鹿ではないミオは、悪役令嬢のような女の子を覚えている。宝石店で会った女の子だと、直ぐにわかった。


 それは、あのジュリエールが2度、口にしたサージ宰相の娘、リキュル・・・。

 (面白い、どうでる?)


 前菜、スープなどは、問題がなく食され、メインが出された時に、会場内では、どよめきが起きた。


 それは、見た事もないグロテスクな魚だった。軽く蒸されて、目玉が飛び出ている。しかし、スープは透明で、魚を持ち上げると、青いしびれ薬がはっきりと見えた。


 ミオは、もしも自分だったら、透明なスープの中には仕込まない。きっと、ミオを田舎の庶民と思っているのか、見極める能力を判断している。さぁ、どうする・・?と、暫く、考えていると、リキュルが、初めて、ミオに話しかけた。


 「お口に合いませんか?」


 「いいえ、あそこのブルーのドレスのご婦人のコップに、青い物が見えましたので、様子を見ています」


 「!! 」


 そのテーブルのご婦人方は、一斉にその方向をみる。そして、その夫人が、しびれ始めて、大騒ぎになる。


 リキュルは、何事もないように、落ち着いて、


 「国王陛下主催の晩さん会では、緊張のあまり、失神する方も多くいると伺います」


 「ええ、そのようですね」


 その騒ぎの後、周りの地方出身者は、料理を口にすることはなく、水を飲むのも命がけの様な異様な雰囲気になって行った。


 リキュルは、特別、気にもせずに、話題を変える事にした。


 「所で、アイシン男爵夫人は、どのように男爵とお知り合いになったのですか?」


 「周りの皆さんも、ご興味がおわりでしょう?」


 ミオは、大人しく、無知でうぶを装いながら、リキュルの質問に答えた。


 「はい、ヴァイオレット家に花嫁修業に参りまして、何もできない私に気づき、泣いていると、アイシン男爵がハンカチを貸してくれました」


 周りの取り巻きは、雰囲気を読めない馬鹿で、

 「まさか、そのハンカチに刺繍をして、返したりして?」と聞いてきた。


 「はい、そうです。その後、プロポーズされました」


 天然丸出しで、夢見る乙女の様なこの庶民の娘に、まんまと騙されたアイシン男爵の株は、急降下したに違いないが、本当の事で、仕方がない。


 それから、美しいデザートが配られ、ミオが手をつけるまでは、誰も手をつけずに、どんどん氷菓子は溶けて行き、ただ、スプーンを持って、果物たちが生ごみに変身して行くのをひたすら待った。


 その後、お茶が配られたが、カップに口をつけずに、ミオの周りの女性たちも、飲んだ振りをして、時間が過ぎるのをひたら待っていた。


 この勝負は、絶対にミオの勝ち、その後、アイシン男爵が迎えに来て、ダンスフロアーに各々が移動して行った。


 「大丈夫でしたか?」


 「はい、大丈夫でした。しかし、しびれ薬を飲まされたご婦人は、お気の毒です」


 「ええ、本当です」


 「少し、テラスに出て、深呼吸して、体を整えましょう」


 「はい、」


 男爵は、優しくミオの手を引き、会場の外に出ようとした時に、呼び止められた。


 直上のカレンジン軍長だ。

 「アイシン男爵、美しい奥方だね」


 「カレンジン軍長、ありがとうございます。私の妻のミオです。社交界に出た事がありませんので、皆さんにご迷惑になると思い、外に出ようと思っています」


 カレンジン軍長の奥方は、サージ宰相の遠縁にあたり、リキュルの息がかかった人間だと、二人は認識している。


 「まぁ、それは大変でしょう。でも、折角なので、ダンスフロアーを、楽しんだ方が良くてよ。わたくし達が、お二人をエスコートしましょう」


 予想通りに、フロア中央まで、強引に連れて行かれ、音楽もアップテンポへ変化して、ステップは、難しく、スピードは高速回転になった。


 この時ばかりは、前世のミオに感謝した。彼女と父親は、本当にダンスが好きで、毎晩のように、食後にダンスを楽しみ、笑いあっていた。


 ジュリエールも賞賛する程に、ダンスだけは完璧に踊れていた。


 誘いだしたカレンジン夫人の足はおぼつかないが、彼女の体重すべてを支えているカレンジン軍長によって、どうにか踊らされていた。


 その時、ミオの髪のあたりに何かが通ったように感じられ、折角、フィージアが朝から頑張って纏めた髪は、無残にも崩れて行った。


 「旦那様・・・」

 「大丈夫だ。このまま、あちらの席にはけよう」


 その席は、窓の近くにあり、いつの間にか夜になっていたガラスに、ミオの惨状が映し出された。


 涙目で、アイシン男爵を見ると、男爵はミオの髪をまとめ始めた。


 「大丈夫だよ。僕もフィージアと一緒に、練習したから、彼女ほど上手には結えないが、上手く纏める自信はある」


 「でも、旦那様から頂いた髪飾りが・・・」


 「大丈夫だ。とっさにこの椅子目掛けて蹴って置いた。ほら、見つかった。纏まらない所は、君のドレスと同じ生地で出来た僕のポケットチーフを使っていいかな?」


 ミオは、窓に映っている髪型に満足して、男爵のそのアイデアも、いいアイデアだとも思って、「お願いします」と答えた。


 麗しの男爵が、愛する奥方の髪をどんどん仕上げていく姿に、周りの女性たちは骨抜きになり、

 「羨ましいですわ・・・」


 「本当に、日頃から、奥様の髪を結ってさしあげているのかしら?我が家ではありえません」


 その場の貴族たちは、ミオの髪が整え終えた時には、拍手が起きるほどに、二人を暖かく周りは見守った。


 それから、二人の周りには沢山の人達が集まり、ミオの髪型をみたり、世間話をしたりして、最後のお茶会へと部屋を移して行った。


 流石に、少し喉が渇いた時に、ジュリエール達はやって来て、ミオ考案の水筒に入れた冷たいお茶を、コップに注ぎ、渡してくれた。


 「ありがとうございます」


 「大丈夫ですか?髪型が変わっていますが?」


 ジュリエールの後ろにいるフィージアは、今にも泣きそうな顔でミオを見ていた。


 アイシン男爵が、

 「髪をやられました。命を狙う事は出来なので、髪を狙われたようです」


 「フィージア、すまないね。折角、朝から頑張ったのに」


 フィージアは、今まで、あまり口を聞いたことがなかったが、

 「奥様が、ご無事で良かったです。心配で・・・、私、本当に、心配しましていました」


 「うん、ここでしばらく休んで、時間が過ぎるのを待って、帰ろう」


 アイシン男爵の「帰ろう」と言う言葉で、安心したヴァイオレット一行だったが、


 リキュルの取り巻きの令嬢が、近づいて来て、


 「ヴァイオレット夫人は、社交界デビューもまだだとお聞きしましたので、このサロンで、何か、皆様に何かご披露して頂けませんか?さぁ~~、今宵、社交界デビューをしましょう」


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