恐怖!ギロチン爪切り
「次は爪を切るんだけど、ニッパー型とハサミ型とギロチン型があるの」
「ギ、ギロチン型……ですか」
アミィちゃんはサー……っと血の気が引いた顔をした。
「ギロチンって聞いて処刑に使われるギロチンを想像したと思うけど、使うのはこれだよ」
「なんか変わった形ですね」
持ち手が二股に分かれており、片方は真っすぐに、もう片方は弧を描くような形になっている。
直線部分と弧の部分がぶつかった先端には穴が空いている。
ギロチン型の爪切りを見て「どうやって使うのだろう?」という顔をしている。
「こっちのギロチン型は伸びた爪を穴に入れてパチっと切るの。穴の部分を見てみて」
シュネが持ち手を「カシャッカシャッ」と動かす
すると穴の中で鋭い刃がギロチンのようにスライドして出てくる。
「ね、ギロチンみたいでしょ?」
「確かに……でもルーちゃんに爪より穴が小さくないですか?」
ルーちゃんの爪は大人の親指くらいの大きさで、爪切りの穴には入らない。
「そういう時はピコックタイプの爪切りを使うの」
別の爪切りを取り出してアミィちゃんに見せる。
見た目はギロチン型だが、穴の部分が半分ほどなく、横から爪を入れれる。
「これは刃の付け根にあるネジの部分を緩めることで、幅を調節できるの」
ルーちゃんの爪に合わせて幅を広げていき、しっかりとネジを締めた。
「後は動物は人と違って爪の中にも血管や神経が通っているから切る時も注意が必要でね、角を少しずつ切っていくの」
「爪に中に血管と神経……魔族の角のようですね」
アミィちゃんが自身の角を摩りながら言った。
「そうだね。だから爪切りは気を付けてやらないとだね」
「ですね」
「でも真っ黒な爪で血管が見えない子もいるからねぇ……ちなみに、ルーちゃんの爪は白く透けてるから血管が見えるよ」
こっちにおいでと手招きしてアミィちゃんに見せる。
アミィちゃんが近づいてきたのを見たルーちゃんが尻尾を振って「フーンッフーンッ」と鼻を鳴らす。
「はいはい、ちょっと落ち着いててね~。ほら、爪の付け根から薄っすら赤いのが見えるでしょ?」
「本当ですね。薄っすらとですが見えます」
「この赤い部分をバッサリいっちゃうと、予想以上に血が出るからビックリするよ」
「そ、そんなにですか……」
アミィちゃんがすぅーっと椅子に戻っていく。
「あははは……」
シュネも初めてバッサリとやってしまった時は、その出血量に血の気が引くほど慌てた記憶がある。――そこから数ヶ月の間、爪を切るのが怖くなってお姉たちにお願いしてたっけ。
「よし、それじゃ切っていこうか、爪切りも嫌がる子がいるから、切ってるところを見せないよう背中で壁を作るの」
ルーちゃんの顔と足の間に体を滑り込ませる。
「足を持ち上げる時も、関節を意識して、自然な形でやさしく持ち上げる。そして……」
そして一本ずつ丁寧に切っていく。
パチッ……パチッ……パチッ……パチッ……。
ハッハッハッハッ……。
――爪が切られていく音だけとルーちゃんの息遣いだけが室内に響いている。
「? そして?」
「申し訳ないわね」
シュネの邪魔をしないようにライア姉がそっとアミィちゃんに近づいて話しかける。
「シュネは爪を切る時いつもこんな感じに集中するのよ」
「どうしてですか?」
「トラウマ……というほどでもないけれど、失敗して爪を切り過ぎて、血がたくさん流れたのずっと反省してるのよ」
「そうなんですね……」
「それにアミィさんの前で大事な家族をケガをさせてはいけないから、今日はいつも以上に集中しているわね」
「あ……私が見学してるから……ごめんなさい……」
「見学に誘ったのは私。謝る必要はないわ。アミィさんのおかげでシュネも改めて気を引き締めることができるわ」
左側の前肢と後肢の爪を切り終えて「ふぅ……」と一息つくと、ライア姉とアミィちゃんがヒソヒソと話してるのに気付いた。――しまった……集中し過ぎてアミィちゃんを蔑ろにしてた……。
「ごめん、ライア姉、アミィちゃん。ほったらかしにした」
「いえいえ。お気になさらず」
「じゃあ右側の肢は私がやるからアミィさんへ続き説明なさいね」
「……わかった」
若干ふたりが優しい気がする。いったい何を話してたんだろうか?――気にはなったけど、どうせ失敗談だから聞かないことにした。
「アミィちゃん、こっち側から見るとライア姉が爪切ってるところが良く見えるよ」
ライア姉でも近くでお客様に見られながらの作業は緊張するのかな?
「見て、血管の手前まで切って、角を少しずつ切っているでしょ?」
「は、はい」
気を利かせてくれたのか、いつもよりゆっくりと丁寧に爪を切ってくれている。
そんなライア姉を見てシュネは懐かしさを感じた。初めてトリミングを教えてもらった時の――。
「シュネさん、どうかなさいましたか?」
「ん? なんでもないよ~」
アミィちゃんから話しかけられ懐かしさを拭い去った。
「あ、前肢に一本、高い位置に爪があるでしょ?」
「はい」
「あれは狼爪って言って、獲物を掴んだり、山道や岩場を歩いたり駆けたりする時の滑り止めの役割があるの」
「そうなんですね。今度お肉あげる時見てみます!」
そうこうしている内にライア姉が最後の一本を切り終えた。
「これで爪切りは終了ね」
「だね。それにしてもルーちゃんは大人しいね」
「そうね」
シュネとライア姉はルーちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「やっぱり暴れる子とかいるんですか?」
「う~ん……そこまで暴れる子はいないかな~」
「ペットとして飼われていると人と触れ合う機会が多いでしょ? これが野生なら私では手が付けられないわね」
「なるほど」
「よし、シュネ、シャンプーの準備をお願いするわね」
ライア姉は満足したのか、作業の続きをする。
「ん。じゃあルーちゃんおいで」
「「わふ」」
ルーちゃんをシャワー室に連れていく。
その頃レイ姉は? 第三話 植物のバケモノ
先程いた場所に植物のツタが落ちていた。
「これは! やはり森のバケモノを操っていたのは貴様だったか!」
男が森の中で見たのは植物のバケモノだった。
(危ないところだった……あのツタに足を取られたら……想像しただけで恐ろしい……)
「そのバケモノってこんな感じでしたか?」
女が取り出したのは手のひらサイズの鉢植えだった。
その鉢植えには植物で出来たバケモノが左右に蠢いていた。
「う、うわぁぁぁあああ!」
男はあまりの恐怖に叫ぶながら外に出た。
(早くこの森から脱出しなければ! 殺される!)
「え~っと……どうしましょ?」