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ビーストトリマー~よろずトリミング承り〼~  作者: 水野 ナオ
第一話 オルトロスのルーちゃん
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耳掃除はくすぐったい

 一通りブラッシングが終わったので次の行程に移る。

 道具の説明やブラッシングを教えている間にシュネが担当する場所も粗方あらかたライア姉が終わらせていた。


「次は耳掃除。まずは脱脂綿に汚れを落とすイヤーローションで軽く湿らせて、耳の汚れを取るの」

「フンスッ!」


 耳を触ろうとすると「触るな!」という感じに前足でシュネの手を払う。


「大丈夫だよ~」


 ルーちゃんの顎下あごしたから頭に向かって撫でていき、だんだんと警戒心を解いていく。

 耳に少しずつ触っていき、触られることに慣れてきたら、サッと汚れをふき取る。


「茶色い汚れが少し付いてるでしょ? この汚れを取らないと内耳炎や外耳炎になるから、耳掃除も定期的に行うといいよ」

「ブラッシングもそうでしたが、トリミングって動物が病気にならないために大事なことなんですね」

「うん、そうだね。それに定期的にお手入れすることで異変もすぐに気づくことができるしね。動物も人と一緒で清潔に保つのは大事だね」


 反対の頭に目を向けると、耳掃除が終わったのかライア姉がルーちゃんを可愛がっている。


「うんうん。お前は可愛いな~、よ~しよしよし」

「クゥ~ァ」


 ――シュネは心の中で「可愛がりたいがために説明をわたしにさせたのか?」と思った。

 しかし……ルーちゃんを愛でてるライア姉を見ると「説明を変わってくれない?」と言えず、お口にチャックをした。


「耳周りの掃除が終わったら次は耳の中の掃除をするね」


 シザーホルダーから鉗子かんしを取り出してアミィちゃんに「これを使うの」と見せる。


「ハサミ?……のような形をしていますね」

「これは鉗子と言って脱脂綿を挟んでクルっと巻いて……と」


 シュネは脱脂綿をほぐし開いて、鉗子の先に挟むと慣れた手つきで巻いていき、先端をしぼんだ綿菓子ような形にした。


「それでイヤーローションを湿らせて耳の中の汚れを取るの」


 頭が動かないように脇を締めてルーちゃんの顔を左腕と胸で固定する。


「すぐ終わるからね~」


 三回ほど耳の溝に沿って汚れを取っていく。


「はいオッケ~。よくガマンしたね~」

「わっふ!」


 ルーちゃんの顔をわしゃわしゃと撫でた後、鉗子の先に付いた黒茶色の耳垢みみあかをアミィちゃんに見せる。


「そこそこ取れたかな」

「結構汚れているんですね……」

「耳の溝は溜まりやすいからね」


 シュネは耳の中を見ながら小声で「色は大丈夫そうだ」と言いつつ耳の匂いをいだ。


「な、何をなされているので?」


 アミィちゃんがギョっとした顔で聞いてくる。――少し引かれてしまったようだ……。

 確かに、動物の耳の中を嗅ぐ人なんて普段見ることはないだろう。


「え~っと、少し耳垢が多いから匂いを嗅いで異臭が無いか調べてたの」

「そ、それでどうでしたか?」


 興味があるのか恐る恐る聞いてきた。


「大丈夫だよ。……でも前より汚れが溜まりやすくなってるみたい。家で耳周りだけでも綺麗にしてあげるといいよ」

「カンシ? でしたっけ。そちらは売ってらっしゃいますか?」

「あ~……ごめんね。鉗子は売ってないんだ」

「そうですか……」


 鉗子が買えないことに少し落胆しているようだ。――どうしたものか……。


「鉗子を譲ることはできないけれど、姉さんに頼んでルーちゃん用のイヤーローションを作ってもらうことはできるわ」


 ルーちゃんの背中からひょっこりと顔を出したライア姉が代替案だいたいあん提示ていじしてくれた。――可愛がっているかと思いきやしっかりと話を聞いているんだな。この姉は。

 そしてさり気なく商品を売り込むとは抜け目のないことで。――恐れ入ります。と心の中で合掌がっしょうした。


「ぜ、ぜひお願いします」

「では後ほど姉さんに言っておくわね」

「ありがとうございます!」


 アミィちゃんがとても嬉しそうだ。そんなアミィちゃんを見たライア姉の頬もゆるんでる。――むぅ……。


「それじゃ続き教えるね」

「あ、はい!」


 シュネはちょっとした嫉妬心を頭の片隅に追いやって作業を再開する。


「ある程度脱脂綿で汚れを取ったら少量のイヤーローションを直接耳の中に入れて、耳の根元を良く揉む」


 少しくすぐったいのか、ルーちゃんがの左前足が宙をいている。


「良く揉んだら頭をブルブルさせてっと……」


 ブルッ!……ハッハッハッハッ……。

 軽く頭を振っただけだった。


「あまりブルブルしませんね……」

「この場合は耳の中に向かって……ふっ!」


 ブルブルブル!


 耳の中に息を吹きかけると今度は勢いよく左側の頭だけを振るった。

 多頭の動物は頭を振る際に同時に振るものは少ない。恐らくだけど同時に振ると頭がぶつかるのかもしれない。

 体が一つで頭が複数。一体どんな感覚なのだろうか?

 そんな考えもすぐに過ぎ去ってシュネは作業を続ける。


「よしよし。これで鉗子でも取り切れなかった汚れが出てきたね。んで、これを拭き取ったら耳掃除終了っと」 

「はぁ~……耳掃除だけでもいくつも行程があるんですね」

「いつも流れでやってたけど、確かに分割してみるといくつもの行程があるね」


 一通り説明したかな? と頭の中で確認し、一つ忘れていたことを思い出した。


「あ……ルーちゃんは大丈夫だったけど、耳の中にたくさん毛が生えてる子とかいるの。そういう子は鉗子を使って毛を抜いてあげたりもするよ」

「耳の中の毛を抜いても大丈夫なんですか?」

「耳の状態にもよるけどね。炎症を起こしやすかったりする子はカットの方がよかったりね」

「なるほど。それも毛玉と同じで通気性を良くして病気の予防をしているのですか?」

「そうだよ。でもこの耳掃除の作業は状況によって変わるから、家で耳掃除したいってお客様には耳の周りだけをお願いしてるの」

「だから先ほど鉗子は譲れないけどイヤーローションは作ってくださると……」

「あ~……うん!」


 それだけじゃないけど……まぁいいか。


「よし! 次行こっか!」

「「わっふ!」」

 その頃レイ姉は? 第二話 足元注意


「え~っと……ひとりで来られたのかしら?」

「ぐっ!――」


(どうする? ひとりだが、仲間が外にいることにするか? だが嘘だとバレたら……)


 男は考えを巡らせるが中々答えが出ない。


(どうする! どうする! どうする!)


「そういえばバケモノがどうとか言ってましたよね?」

「! あ、あぁ!」

「バケモノ……」


 女は何やら考え事を始めた。


(なんだ? 一体どうした?)


 女の意識がこちらに向いていない内にじりじりと入ってきた扉の方へ下がっていく。


「あの……」

「――! な、なんだ!」


 もう少しで扉の取っ手に手が掛かるところで呼び止められた。


「あら?」


(ば、ばれたか!)


「足元に何か……」

「っ!」


 男は左に大きく飛び退いた。


(くっ! 何だ? 足元に何をした?)

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