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ビーストトリマー~よろずトリミング承り〼~  作者: 水野 ナオ
プロローグ
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プロローグ

 トリバーレン王国の首都ラブラから西の山脈を越えると森があり、その森深くの湖畔にひっそり佇む一軒のお店イチキシマ。

 ここは八十年ほど前、とある夫婦が開業したお店である。

 何故こんな絶境ぜっきょうの地にきょを構えているのかというと、様々な動物を扱うためだ。

 巨大な動物や炎や氷をまとった動物、臭味しゅうみ激しい動物など多岐たきに富んでいる。

 予期せぬ被害が出る可能性を危惧きぐすると、人里離れた場所がよいのだ。

 様々な動物を扱うと言うが、動物園でもペットショップでもない。

 お手入れをする場所、ここはトリミングサロンである。

 トリミングサロンとは簡単に言えば動物の美容室だ。

 そして現在は三代目――ムナカタ三姉妹に引き継がれている。




「今日ご予約お客様はどちらのどの子かしら~?」


 研究室から暖かいコーヒーを片手に出てきて、おっとりとした口調で予定を聞いてきたのは長女のレイ・ムナカタだ。

 少し頼りない部分もあるが、薬学と錬金術は一流で、イチキシマで扱っている物の大半は彼女の自作だ。

 よわい二十六歳になるが、身だしなみには無頓着むとんちゃくで、人前に出る時以外はよれた白衣に野暮ったい髪型だが……昨日の夜に試作したシャンプーのおかげだろうか、今日は背中の中腹まで伸ばした金茶色の髪の毛がとてもあでやかだ。

 

「えっ……と」


 予約票を確認しようと受付の棚に手を伸ばすのは三女のシュネ・ムナカタだ。

 シュネは姉妹の中で唯一、獣使いの才能を持っている。

 彼女がいなければイチキシマは閉店の危機を迎えていただろう。

 まだ十四歳と若く、獣使いとしては未熟ながらもトリマーとしてはとても優秀である。

 黒茶色に光るロングヘアーを、『トリミングの邪魔になるから』とばっさりとカットしたときには、姉たちがショックを受けたほどだ。


「アンドラスさんの所のルーちゃんよ」


 後方から飛んできた凛とした声にシュネが振り向くと、右端を中指で押し上げた眼鏡の下から厳しい眼差しが飛んでくる。先日二十歳(はたち)を迎えたばかりの次女ライア・ムナカタである。

 彼女は魔法が得意だ。

 レイが作成した道具に刻印魔法こくいんまほうほどこしていて、風量や水量をトリミングする動物に合わせて調整したり、不具合がないかをチェックしている。

 厳しい所もあるけど真面目で頼りになる。動物や可愛い物が好き過ぎてダメダメになることもしばしば……。


「二人とも前日に確認くらいしなさい」


 ライア姉はそう言うと、黒曜石のように輝く髪をひるがえし、トリミング室へ向かっていった。

 ふたりは「は~い」と声を合わせて返事をし、その背中を見送る。

 ライア姉の軽いお説教を聞いた後、シュネはルーちゃん用のシャンプーを取りに研究室へ向かった。


「ルーちゃんは~……オルトロスだったかな」


 オルトロスは【双頭そうとうの魔犬】と呼ばれ、頭が二つある。トリミング中に両方の頭に気を遣うのは難しい。

 なので多頭の動物はふたりもしくは三人でトリミングすることが多い。


「うわぁ……また散らかってるよ……」


 シュネが研究室に入ろうとするも、足の踏み場もない。

 研究室には薬草やら試作品のシャンプーやらが所狭ところせましと置いてある。

 レイ姉(いわ)く「どこに何があるかはわかっているから大丈夫」らしい。

 何が大丈夫なのだろうか……少しは片付けて欲しい――そう思うも、結局はまた散らかるので、もう誰も何も言わなくなった。

 シャンプーを棚から探すが見つからない。

 いくらずぼらであっても消耗品を切らすことはないから別の所に置いたのだろう。机周りは危険な物もあるからレイ姉に聞くしかない。


「レイ姉、ルーちゃん……オルトロス用のシャンプーどこ~?」

「研究室に作り置きがあるはずよ~?」

「いや……ごちゃごちゃしてどこにあるか分からないんだってば」


 ちょっと皮肉を交えてを言うが「待っててね~」と意に介さず、シュネと入れ替わりで研究室に入っていく。

 そしてものの数秒でシャンプー片手に出てくる。――さすがだ。

 

「はい。どうぞ~」 

「どうぞ~じゃないよ。完成品は棚に置いておいてよね!」


 左手を軽く上げて「わかったわ~」と明らかな空返事からへんじで玄関の掃除に行ってしまった。

 

「はぁ……」


シュネが軽くため息を付きながらトリミング室へ向かう。


「シュネ、ルーちゃん用のセッティングにしておいたわ」

「ありがと。ライア姉」

「どういたしまして。何か手伝うことはあるかしら?」

「そうだなぁ……」


 少し考えるが今は特にない。


「トリミングの時に手伝いお願いね」

「わかったわ。じゃあ姉さんの様子見てくるわね」

「いってらしゃ~い」


 ライア姉はシザーホルダーを肩に掛けて、レイ姉のいる受付へ向かった。


「おっと、道具の確認しなきゃ」


 シュネはシザーホルダーの中身を確認する。


「ハサミが~……六本っと。コームは三本、ブラシに爪切りっと」


 トリミング道具が壊れていないかを確認しつつ、シザーホルダーに仕舞っていく。


「よしっと、お姉たちの準備も終わったかな?」


 見落としがないか確認しながら、姉たちがいる受付へ向かっていく。

 どうやらあちらも準備を終わらせた様子だ。


「お待たせ~準備オッケーだよ」

「私も問題ないわ」

「それじゃあ、お店開けるわねぇ」


 レイ姉が玄関のリースフックに掛かっているオープンプレートをひっくり返した。


「それじゃ今日も張り切っていきましょ~」

「「「おー!」」」

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