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白髪鬼は龍に憧れて  作者: 愛のスコール
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第2話 ヤマの集落

 俺たちは集落に帰るための支度を整える。とりあえず当初の目的はリザードマンの肉を調達することだったし、森の奥地で採集した薬草も持ち帰らなければならない。


 そしてなにより、一刻も早く帰らなければならない理由もできてしまった。


 サイクロプスに襲われかけていた人間はいつの間にか意識を失っており、応急処置を施したものの依然として危険な状態にある。このまま放っておけば確実に命を落とすだろう。

 見たところ、身に付けていたであろう軽装の鎧は砕け散り、騎士がつけていそうな鉄仮面にはヒビが入っていた。スズカが応急処置を担当したが、その際俺とシオンの二人は離れていろと言われその場から追い出された……なんだったんだ一体。


 そしてそいつはいま、スズカに背負われている。なぜ俺やシオンが背負ってやらないのかというと……


「シュテン、君は本当に困った奴だな……僕は君の保護者じゃないんだからね?」


 なんせ俺はシオンにおんぶされている状態だからだ。


「仕方ないだろ?アレ使うと身体動かなくなるし」


 俺は悪びれもせずにそう答えた。

 あの後サイクロプスを上半身ごと一撃で吹き飛ばすことに成功したものの、俺は反動で自由に身体を動かすことができなくなってしまっていた。アレを使うといつもこうだ、まだ慣れないな……。

 でもやっぱり全力でぶん殴るのは爽快感がある。対人戦で軽率に使えるような代物じゃないから、リザードマンやオーク相手にぶっ放すのはよくやるけど、今までの魔物じゃ張り合いがなかった。

 もっと強い魔物相手に試しておきたいと思っていた矢先に、魔物の等級の中でも、上から二番目である上位種に属するサイクロプスと遭遇ときた。


 そんなの俺じゃなくたって使っちゃうよな?秘伝技。


「別に使わなくても彼を連れて逃げる事はできただろうに。……とは言っても君の瞬発力がなければそもそも助けが間に合わなかっただろうし、僕が文句を垂れる筋合いはないね」


 やれやれといった感じだ。おそらく相変わらずな俺に対して苦笑していることだろう。

 シオンは基本、俺が無茶な行動をするとそれを毎回律儀に注意してくるが、もうだいぶ長い付き合いだ。俺の性格をよく理解しているし、どうせ言っても直らないだろうとわかっているため、口酸っぱくして注意してくることはない。

 まぁ俺も直すつもりはないけど。


 そもそも俺が無茶をできるのはそばにシオンがいてくれるおかげでもある。本人は謙遜しているが、シオンは強い。それに頭も良いし冷静で、ここぞというときの判断にも長けている――このことを、本人にはあまり言ったことはないが。


「いやいや、シオンが正しいでしょ。しょっぱな全力使い果たして倒しきれなかったらどうするつもりだったのさ!ねぇテン兄、聞いてる?」


 そしてスズカは相変わらずやかましい。


「わかってるわかってる。俺はお前みたいな可愛くて強くて家庭的な妹を持って幸せだよ」


「聞いてないじゃん!もう怒った、私怒ったからね!?」


 手厚く褒めてやったのにスズカは何故かぷんすこぷんすこ怒っている。その勢いのまま角でも生えてくるんじゃないだろうか……。

 ていうか重傷者が背中にいるんだから静かにしてやれよと思う。




 ――なんやかんやで集落までたどり着く。そこは100人足らずの鬼たちによって構成されており、『ヤマの集落』と呼ばれる俺たちの故郷だ。


 シオンとはここで一旦別れ、大量の荷物を預け後を任せる。雑用みたいな扱いですまんと思ってる、後で礼はするからな……


 そろそろ身体も自由に動くようになってきた俺は、スズカと一緒にこの集落の長であるヤマ爺の元へと向かった。


 ちなみにヤマという名前は襲名制であり、集落の長となる者へこの名前が引き継がれていくのだ。


 ヤマ爺はこの集落一番の年長者で、今年でもう180になる。鬼の寿命は200年と言われているため、鬼族の中でもかなり長生きしている方だろう。

 それ故に多くの知識と生きる術を持ち合わせており、病気や怪我の治療に関しては一番信用できる存在だと思う。


 ヤマ爺は人間の容態を確認すると、すぐさま治療にとりかかった。相手に触れ、自らの闘気を分け与えることで回復力と免疫力を促進させる……これを『活闘術』という。

 ただ分け与えるだけでなく、闘気の緻密なコントロールによって滞りなく絶妙な配分で傷口を塞いでいるらしい。相当な練度と集中力を必要とする技であり、俺は一生習得できる気がしない。


 しかも、通常鬼と人間では闘気の量に大きな差があり、鬼の持つ闘気は人間の約20倍程度だと言われている。

 誤ってその身に余る程の闘気を注入してしまうと、傷が癒えるどころか、逆に悪影響を及ぼす事になる可能性だってあるのだ。


 スズカはヤマ爺を手伝っている。ヤマ爺ほどではないがスズカも活闘術が使えるから、こう見えて俺の妹は意外と優秀だ。


「これでもう、しばらくは大丈夫じゃろう」


 ヤマ爺はそう言うと、汗を拭い息を吐いた。


「流石だなヤマ爺!それにスズカもお疲れ様」


 俺はそう声を掛ける。どうやらもう心配はいらないみたいだ。スズカはもっと褒めてと言わんばかりの顔をしている。


「お前さんにもやってやろう。――どうせもう、ヘトヘトじゃろ?」


 ヤマ爺はニヤリと笑い、俺の方を見ながらそう言った。


 どうやら全てお見通しのようだ。その言葉に甘えさせてもらうか。

 部屋を移し、うつ伏せになってヤマ爺の施術を受けながら、俺は今日の出来事を思い出す。


 サイクロプスには通じたが、まだまだ俺の力では龍に通用するとは思えない。これ以上力を付けるにしても、いつも通り集落のやつらと修行を行うだけではもはや得られるものはあまりないように思う。


 やっぱりなにか大きな変化が必要だな……。大陸を冒険するのは楽しそうだ。そんで絶世の美女なんかと出会ってそのまま結婚しちゃったりしてな!


 ていうかそもそも龍を倒せるぐらい強くなったとしても、肝心の龍を見つけないと喧嘩もできない。ここは居心地いい場所だけどそろそろ……。


 ぼんやりとこれからのことを考えながら、俺は深い眠りに落ちた。

 

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