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世界の鼓動を担う都市  作者: しみしみ
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2話 でち!

 あーーーったまにきた。

 契約書にサインして、直々にポストへ契約書を入れたら、だ。

 部屋の奥からドアもあけずに、


「とりあえず今日は中央部屋の本棚整理しといてー」


 だと。

 は?

 おいおい、俺を誰だと思ってんだよ!?

 最年少で国家魔術師試験に合格、ゴールドランクの現役国家魔術師ですけど!?

 だがそれを口にする勇気はないへなちょこなので、言われた通り整頓にかかる。

 まずは床に散らばった本や紙を積み、道を確保する。

 次に逆さになっていたりはみでている本をちゃんと本棚に収納して、空いたスペースにそれっぽい本や紙を突っ込む。

 これをひたすら繰り返せば、とりあえずは綺麗になるだろう。

 そうして作業すること半日。

 ふと一冊の本が目に付く。

 随分とホコリを被っていたが、払うと中央に小さく丸い赤い石がはめ込まれているのがわかる。

 まさか、と思いページをめくると、そのまさかだった。

 賢者の記録書……!!??

 あぁ、賢者の記録書を知らないであろう一般庶民にもわかるよう、一応説明しよう。

 遥か昔、古代文明を築きあげたとされる一人の魔術師の記録で、皆はその魔術師を賢者と呼ぶのだ。

 それで、賢者の記録書と呼ばれている。

 本当は本にタイトルなんてついていないのだが。

 そしてなにが凄いって、古代文字を使って書かれているのだ。

 古代文字は魔力を利用した文字で、ただ文字を情報として扱うのではなく、文字を物質として扱えるというもはや変態の域の代物だ。

 そしてさらにそれを最大限活用するために、記録書の表紙には賢者の石と呼ばれる魔力の凝縮体が埋め込まれている。

 全部で5巻あるとされるが、その1つがここに……!!


「ストップでち!」


 幼い少女のような声がして、とっさに開いた賢者の記録書を閉じる。

 しかし、声は後ろからしたのに振り返っても誰もいな……いた。

 小っこいのが、いた。

 俺の身長から推測するに、130cmほどしかない少女が腕を組んでこれまた偉そうに突っ立っているのだ。


「それは大事な大事な書物なのでち! はやくあちしに返すのでち!」


 妙な語尾が幼さを最大限に引き出している。

 だぼだぼのローブを着た、ツインテールの少女は手を差し出す。

 返せ、ということか。

 だが、見つけたのは俺だ。

 埋もれていたのを、発掘したのだから返す気はない。

 その旨を伝えようと口を開くと、


「むん! それはあちしの本なんでち!」


 と喚いたかと思ったら、体が勝手に動き、少女に本を渡してしまった。

 本が少女の手に渡って数秒、ようやく我に返る。


「えっ、いや、おい! それは俺が見つけた本だ!」


「見つけてくれたのは感謝でち! でもあちしの本でち!」


「このガキ……」


「あーっ、あちしを子供扱いしたなぁ!!」


 頬を膨らませて、これでもかと怒りをアピールする少女。

 なーんにも怖くないけど。


「珍しいな、ニッチが部屋から出るなんて」


 忘れもしない。

 この声はあのクソ金髪だ。

 とうとう部屋からでてきたな、クソ金髪。

 せいぜい今のうちにその地位を味わうんだな。

 なんてったって俺が!

 この俺がその地位をいただくんだからな。


「こいつ誰でち? あちしの本を勝手に読んだでち!」


「今日からこのギルドにはいった下っ端だよ、そう怒るな」


「あぁ、この前言ってたひとでちね」


「本、なくしてたんでしょ、見つかってよかったね」


「よかったでち! じゃあニッチは部屋にこもるでち!」


「たまにでておいでな」


 タタタと走り去るでちでち少女。

 それを目で追った。

 なくしてた?

 賢者の記録書を?

 どんな価値観してんだよ、背も小さいから脳みそも小さいのか。

 そういうことにしておく。

 そして俺がマスターになったらあの本は俺のものにする。

 これはもう決定事項だ。


「フェリム、自己紹介を忘れていた、私はここのギルドマスターのミラだ」


 はいはいそうですか。

 そんなこと興味もないが、一応覚えておいてやろう。


「お、本棚掃除したのか、半ば冗談だったのだが」


 冗談なら最初からそうと言ってくれれば。


「さてはお前、ギルドの仕組みを知らないな?」


 図星だ。


「ギルドには掲示板がある、うちのギルドだと二階にあるな」


「なるほど、その掲示板に依頼が張り出されると」


「その通りだ、好きに張り紙を持ってって依頼をこなしてくれ、それと」


 すると金髪はまた紙切れを見せてきた。


「ここにあるノルマを少しでも達成できなかったらギルドから出て行ってもらう、まあサボらなければそう難しいノルマじゃない」


 なるほど、ノルマか。

 そんなものの500倍は働いてやろう、この天才がな。

 もちろん心で思うだけにとどめるが。


「じゃあ、あとは勝手によろしく、部屋は左廊下の突き当りを右に曲がったとこにあるからな」


 こくりと俺が頷くと、金髪はまた右奥の部屋へ戻っていった。

 とりあえず依頼もきになるが、まずは部屋だな。

 言われた通り部屋の場所へ行く。

 すると、ドアにぶら下がった表札に《天才(笑)の部屋》と書かれていた。

 はいもう許しません次あったらぼこぼこのけちょけちょのぶちぶちにしてやるあの金髪。

 怒りを一旦鎮めて、部屋のドアを開けた。

 ベッドと、机と、椅子。

 あと日当たり最悪の窓。

 それだけ。

 さーすがにこれは質素すぎやしないか?

 どんどん金髪への怒りのボルテージが上がる。


(今は我慢、今は我慢……)


 ローブを脱ぎ、ベットへ投げて掲示板を見に行くことにした。

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