1話 ギルドと金髪
フェリム=バルツ、19歳。
最年少で国家魔術師の資格を取得し、古代魔術の仕組みの解明に大きく貢献した、エリート。
ま、俺のことなんだけどね。
そして俺は今日、魔術都市レルトンでも一番の実力を誇るギルドへ入会する。
どこにも所属していないことを示すこの真っ黒なローブとも今日でおさらばだ。
胸元に付いた国家魔術師のバッジが日の光を浴びて金色に輝く。
この国で最高峰の素材、世界樹の枝でできた杖を握り、入会するギルドの前へとたどり着く。
さあ、このドアを開けば、また俺が偉業を成し遂げるための第一歩がはじまるのだ。
膨らむ期待、希望を胸に、ドアに手をかけ、ゆっくりとあける。
最初に目に飛び込んだのは、豪華なレッドカーペット……とかだと思っていたのだが。
現実は違った。
外観はレンガ造りで煌びやかな装飾が施されていたが、いざ扉をあけると大分朽ちた内装が広がっていた。
左右に伸びる廊下と、前方に広がる整理整頓の欠片もない本棚。
てか本棚ひどいな。
あちらこちらから書類が飛び出て床にも散乱しているし、なんなら棚も歪んで傾いていたりする。
間違えた。
そうに違いない。
ここは多分この国で一番しょぼいギルドだ。
そう思い踵をかえして入ってきたドアに手をかけようとした。
が、丁度ドアが開き、背の高い金の長髪を後ろで結った女性が立っていた。
「お、あんたフェリムでしょ」
呼び捨て?
この、俺を?
何様なんだこいつは、俺は最年少で国家魔術師になった男だぞ?
「どうやら場所を間違えたみたいで……失礼します」
「いや、あんたが今日から所属するギルドはここだけど」
「は?」
金髪の女は右手に持った書類を俺に見せる。
契約書だ。
ギルドの一員として様々な恩恵を得る代わりに、ギルドメンバーとして得た利益や情報を共有する、という内容のもののようだ。
だが、ここは俺の所属するギルドじゃないので、この契約書はゴミ同然だ。
「聞き取れなかったみたいなのでもう一度言いますと、なんかギルド間違えちゃったみたいなので」
「ここがこの国一番のギルド、《純白の死神》だけど」
「こんなボロくて汚いところが??」
「よく言われるわ、知らなかったの?」
oh、ジーザス。
こんな汚い場所が俺の所属するギルド?
信じられない。
でも信じるしかない。
なぜならば彼女の胸にもまた、国家魔術師だということを証明するバッジがついているのだから。
国家魔術師のバッジはランクによって、銅、銀、金、プラチナの順に素材が変わる。
プラチナは残念ながら国家魔術師としての活動年数がある程度必要なため、俺はまだ手にしていないが、彼女の胸元に光るバッジは間違いなくプラチナだった。
「ようこそ、純白の死神へ」
少し不機嫌そうにもう一度書類を俺に差し出す。
「すみませんでした……」
俺は書類を素直に受け取った。
「ま、天才だか最年少だか知らないけどこのギルドでは一番の下っ端だから、そこんとこわきまえてね」
なんてムカつく物言いをするんだ、この金髪は。
だが今は、耐える時だ。
いまに見てろ、すぐにその座を引きずり下ろし、このギルドのギルドマスターになってやるからな。
「その書類サインしたら廊下右の突き当りにある部屋のポストにいれといて」
俺なんかに見向きもせず、金髪は廊下右の突き当りにある部屋へ去っていく。
つまりは金髪の部屋に書類を直々に持ってこい、ということか?
くっっっっそムカつくな。
だが我慢だ。
我慢、我慢だ。
いまに見てろよ。
俺は書類にサインし、直々に、この俺が直々に届けてやることにした。