四、嵐過ぎて、凶兆 - 2
気がつくと、あたしは白い空間にいた。
まるで燃え盛る炎か、秋夕空の真紅を映したかのような髪色の人が、後ろ向きで、あたしの目の前に立っていた。
背中まで届く長い髪は、下ろすがままになっている。後ろから見ても、簡易な鎧を纏っているのがわかるが、騎士? だろうか。
でもあの鎧の形、どこかで見たことがあるような……。
「あの、あなた、は?」
恐る恐る声をかけると、その人の肩がぴくりと動いた。
肩越しにこちらを見たが、声は聞こえない。
――いや、口は動いているが、ここまで声が届いていないのだ。
「あの……?」
「――を――て」
かすかに聞き取れた声は、女性のものだった。
◇ ◆ ◇
あたしが意識を取り戻したのは、ベッドの上だった。今は見慣れた、双子の家の客室だ。
今の夢は、いったいなんだったんだろうか……。
結局、女性が何を言っていたのかは聞き取れなかったし、自分の記憶にはない人物だった。
それにあたし、いつの間に二人の結界の中に移動したのだろう。白い光に視界が覆われた後は、何も覚えていない。
混乱したまま上半身だけ起き上がったが、足元がやけに重い。
視線を移動させれば、足元に伏せて寝ていたレオンが、あたしが動いたからか、目を覚ましたところだった。
あたしの顔を見るや否や、すごい剣幕で迫ってくる。
「ミナっ! 大丈夫かっ⁉︎ 体は動くか⁉︎」
「な、なによ……。レオンこそ大丈夫なの? あたし庇って怪我してたじゃない」
戻ってきてくれた後、普通に戦えていたようなので大丈夫だとは思っているが、ちゃんと確認できていたわけではない。
戸惑いながらもレオンの外見を確認するが、顔の傷すら、跡なく綺麗に治っているようだ。
「オレは平気だよ。だからこうして、お前の看病してたんだろうが」
それも、そうだ。
あの後どうなったかは後でちゃんと聞くとして、あたしはとりあえず立ち上がって――立ちくらみがし、しばらくグッと我慢する。
「大丈夫か?」
「ん〜たぶん貧血」
自分で思っている以上に、血を流していたらしい。
立ちくらみが治ってから自分の体を動かしてみるが、穴が開いていたはずの腹部は体をひねっても痛みすら感じず、問題なく動かせている。たぶん最後、肋骨も折れていた気がするのだが、そんな痕跡は感じられない。まるで最初から怪我などしていないかのような治りっぷりだ。
いくら丈夫とはいえ、こんなに早くここまで綺麗に穴が塞がるわけがないので、アンナ辺りが治癒魔法をかけてくれたんだろうか。
しかし、服の方はそうもいかない。
今は貫頭衣を被っているだけの状態だが、穴が開いたり裂けたりしている箇所は裏から布が充てられていたり、繕われたりしていてちょっとダサい。
けれど、それだけが確かに、あの戦闘が現実だった事を示している。
服の他の装飾は、ほとんどが外されて脇のテーブルに置かれている――が、腹部に巻いていた布はもう使えそうもなく無残になってしまっているし、腹部鎧も穴が開いてしまった。
薄金とはいえ、鎧を貫通する土って……。
その横に布で包まれているのは、腹部に仕舞っていたナイフだろう。あとで無事なものと、そうでないものと、選別作業をしなければ。
手袋は所々破けて血塗れ。その下の腕に巻いていたサラシも、裂けこそ免れても一部血には染まってしまっていた。
あーあ。あの腕のサラシ、あたしの省略呪文が書いてあったのに。スペアはあるのだが、どっちにしろ新しいスペアは作らなければならないだろう。
こんな有様では、服は新調しないと。
こーなると、机に立てかけてあるあたしの剣、鞘の中は無事なんだろうか……。
今後の出費にため息をつきつつ、レオンに結果報告をする。
「身体は全然問題ないわよ。どこも痛くない。魔力もちゃんと溜まってるし」
「それならよかったよ……」
安心したようにレオンは深々とため息をつき、ようやくベッドの傍らに置いてある椅子に腰を落ち着ける。
「それで、なにがどうなったの?」
区切りがついたところで、あたしは気になっていたことをようやく切り出す。
レオンが「それは居間で」というので、あたしたちは居間に移動する事にした。
「あ、その前に」
「ん?」
部屋を出ようとしたレオンが、扉を開ける手を止めて、あたしに振り返る。
「その、庇ってくれて、ありがとう」
照れ臭いが、伝えるべきことは伝えておかなければ。
レオンは、一、二度瞬きをして、応えた。
「当たり前のことをしただけだから、気にするな」
彼は、さっさと扉を開けた。





