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MIND STRONG ADVENTURES !  作者: 瑞代 あや
第二章 エヴィンハルハの天使
22/45

一、レイソナルシティ - 3

 次の日の早朝、レイソナルシティを出たあたしたちは、昼頃には例の農村に到着していた。見た目はいたって普通の農村。だだっ広い土地に畑や牧草地があり、ポツリポツリと家がまばらに建っている。

 しかし、空気は重く淀んでおり、外で働いている人も牛馬も見受けられない。収穫時期間近だというのに放置されて雑草が伸び放題になっている畑や、荒らされた形跡のある牧場の柵が無機質にそこに存在していた。

「これはヒドイわね……。ゴブリンってこんなに被害もたらすもんなの?」

「いや……悪さをするって言っても、せいぜい悪ガキの悪戯レベルで、ゴブリンはここまで悪どい破壊をするような奴らじゃないはずなんだが……」

 はーん。金五十の秘密はこの辺に隠れてそうね。

 とにもかくにも「まずは村長に会うといい」という、支部長からのありがたいお言葉もあるので、あたしたちは近くの家で場所を聞き、村長の家に向かった。

「村長の家は、こちらです」

 わざわざ案内してくれた村人の声には覇気がない。村人はそのまま家の戸をノックして、村長にあたしたちの来訪を告げてくれた。

 内側からギィ――っと軋む音を立てながら戸を開けたのは、腰の曲がったおじいさんだった。

 眉間にシワを寄せた顔でジロジロとあたしたちを見ると、口を開く。

「あんたらが魔術学会からの?」

「ええ、そうですが」

「ふうん。まあ、解決してくれるんなら女子供でもええわい」

 それだけ言うなり中へと戻って行く。ええとこれは?

 困ったあたしたちを察してか、案内してくれた村人Aさんが「どうぞお上りください」と促してくれる。

 一応招き入れられてたの? 今の……。

 あたしたちが全員入ると、なぜか村人Aも中に入って扉を閉めた。室内では、すでに村長が木卓の上で手を組みながらこちらを見ている。険しい目つきで座れとジェスチャーで言われ、大人しく村長の向かいにそれぞれ腰を下ろした。

「半月ほど前だ」

 座るやいなや、なんの前口上もなく村長が説明を始める。えーと、こっちの素性とか特に改めなくていいんだ……? それだけ切羽詰まってるんだろうか。

 ちらりと横に座るレオンを見るが、なんだか彼も戸惑っている雰囲気だぞ。

 だが、向こうは話し始めているし、とりあえず聞くしかないだろう。

「奴ら、ゴブリンの群れが突然やってきた。こんな森に近い村だ、今までもゴブリンが悪戯をしにきたことがなかったわけではないから、儂らも、またゴブリンが遊びにきた、くらいにしか思っとらんかった」

「え――てことは、この村ゴブリンの対処法も知ってたってことですか?」

 思わず挟んだ口に、村長は「うむ」と頷く。すると、案内してくれた村人Aさんが、そのあとを引き継いだ。

「たまーに来はするんですが、すぐに去るのがいつものことでしたので、我々も来たら仕方ないな、くらいの気持ちでいたんです。でも今回は訳が違って」

 気の弱そうな彼は、もしかしたら村長の補佐で残ってくれたのかもしれない。

 村人Aさんが口を閉ざすと、再び村長が説明を再開する。

「ミルクは腐って飲めないし、売れもしない――それはいつものことだったが、せいぜい一人二人の家のことだった。それが今回は、全員の家でだ」

 レオンの話では、ゴブリンの笑い声は一種の魔法らしく、ミルクを腐らせる効果があるのだそうだ。

「おまけに畑は荒らす、畑で働かせている馬や牛にも悪さをする。荒らされた畑を直そうとすると必ずだ。おかげで今では皆畑を直そうとすらしなくなっている。毎晩のように悪夢を見せられて、寝不足になっている村人も、もう何人になるか……」

 そうして村長も村人Aさんも、重苦しい息をついた。

 時期は秋、収穫の季節だ。収穫目前でこれでは、この冬越せるかもわからないだろう。村に漂う重苦しい空気はいつ去るかもわからないゴブリン達へと、今後の生活への不安が折り重なったものが滲み出たものだったのだろう。

「ゴブリン達の行動が、今までと特に違うと感じた点とかはありますか? 具体的でなくても経験則でもなんでも構いません」

 レオンが彼らに聞いてみると、二人はお互い口に手を当て、考え始める。

 しばらくして口を開いたのは村人Aさんだった。

「そういえば……、やけにまとまりがあったような……」

「ゴブリンが?」

 レオンが眉をしかめて聞き返す。村人は「ええ」と頷きながらあたしたちの方を見る。

「そうです、今までのゴブリンは数も多くなくて、どれもバラバラに動いていた気がするのに、今回はやけに統率が取れているというか、一回追い払うのにも大変どころか、こちらが逆にやられてしまったりして! これは変ですよね⁉︎」

 話すうちに徐々に思い出してきたのか、説明する言葉の節々に熱がこもっているように感じられる。

 あたしとメルは黙ってレオンを見るが、レオンも顎に手を添えて考え込んでいるようだった。

「ゴブリンって、集団で暮らしてるんですよね?」

 レオンが考え込んですぐには口を開く気配がないので、あたしが場を繋ぐように質問をすると、不思議そうな長老と村人Aさんの目が返ってきた。

「そうですけど? それが?」

 ゴブリン退治に来てくれたのに、今更何を聞いてるんだと言わんばかりだ。

「集団で暮らしてるなら、ゴブリン同士で連携したりすることもあるじゃないかなーと思いまして」

「それはあまり考えられない。あいつらそこまで知能ないからな」

 あたしの質問にスパッと答えたのは、考え込んでいたレオンだった。驚いて彼を見ても、こっちには一瞥もくれていない。

「あ、そーなんだ」

「お前さんらに任せて、大丈夫かい?」

 半眼の老人たちの顔に出会い、あたしは後ろ頭を掻きながら適当に説明する。

「えーと、ゴブリンの生態に詳しいのは彼で、あたしとこの子は肉体労働の役割分担というか。そんな感じです」

 愛想笑いも加えて返すが、お二人の顔は訝しげに曇っている。

「――やっぱり妙だな。記憶を辿ってもそういうゴブリンの話は聞いたことがないし、他人の指示を守るような知能があるとも思えない。

 ゴブリンってのは、人間で言えば、悪ガキの集まりなんだ。ある程度統率が取れたとしても、子供なんだから、たかが知れてるだろ?」

 あ、なーるほど。そう考えればしっくりくる。村長や村人Aさんも同意して頷いているし、ゴブリンをそういうものと考えるのは問題ないのだろう。

「今回は、悪ガキの集団が軍隊にでもなってるってこと?」

「そこまでとは言いませんが……、感覚としては、盗賊に荒らされている感じでしょうか……」

 盗賊って――そんな統率取れてたかなぁ? まだ人生一回しか遭遇したことないけど。

 納得できかねるが、レオンが横で話を進める。

「そうですか。ちなみに、ゴブリンがどのあたりに生息しているかとか、出現する時間帯とかはご存知ですか?」

「それだったら――」

 村長は、ゴブリンがいつもねぐらにしているという場所を口にした。

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