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第64話 チワワな騎士?

それから数日。大公邸にレティシア―百合さんを訪ねて行くものの、会わせては貰えずに帰るという日々が続いている。


帰るのは王都内の宿だ。契約書を交わして以来、王宮内の部屋にちょくちょく刺客が送りこまれてくるようになり、鬱陶しかったため場所を移ったのだ。ちなみに刺客は全員叩きのめした(主に部下が)。



「ん~、レーキドーザーを原始的に作るとなると動力は…」

設計図を引く手をふと止める。


…秘密。


彼女が言っていた言葉だ。家族にも友人にも、そして恐らく自分にも…。彼女の死のその後を知っているエリアスには、秘密がなんなのかはおおよそ見当がつくが。一抹の不安が残る。


「やっぱり…会いに行こう。」


あの時と同じなら。放っておいてはいけないのだから。



◆◆◆



本日二度目の大公邸のサロンには、先客がいた。


「あ!アンタ、メリカントの…」


エリアスを見るや先客―燃えるような赤髪の青年は、こちらをビシッと指さして言った。


「変態でストーカーで悪徳商人の第一王子?!」


「前振りが余計だよ!」


変態云々にはまったく身に覚えがない。しかし、失礼極まりない赤髪の青年は、「事実だろうが!」と吠えた。


「というか…他国の王族相手にその言葉遣い、ヤバくない?」


「るせぇ。俺が従うのは騎士道とサンフルール王家だけだ!」


騎士道…?ああ、そういえば。


「どこかで見た顔だと思ったら…夜会のぼんくら騎士!」


「誰がぼんくらだゴラァ!!」


「私服…クビになったの?」


「ちっげーよ!!」


休暇にダチの見舞いに来て何が悪い!と吠える青年に、エリアスは目をぱちくりさせた。


「……友達?」


改めて青年を上から下まで三回くらい眺めて…


「な…なんか気持ち悪ぃぞ、おまえ!」


「ん~、ちょっと信じらんない。」


「おい!失礼だろ!」


いや…だって彼女―百合さんは、人見知りする上に、こと音楽に関しては自分にも他人にも厳しい性格が災いし、音大生たちにあまり好かれていなかったから。人が集まる所でも、いつも隅の方に一人でいて、友達に囲まれているところなんて見たことがなかった。


今一度、赤髪の青年をじっと見つめる。


(直情的で、気に入らない相手には吠えつく―言うなれば躾の足りないチワワ。脳みそのちっちゃさ故に嘘や誤魔化しが下手くそで…)


「…全部聞こえてるぞ?」


ちなみに、こういうタイプは将来尻に敷かれやすいらしい。


「聞こえてんだぞゴラァ!」


「ところでさ、」


あれこれ考えながら半眼で自分を睨む青年に質問する。


「友達って君だけ?」


「だから失礼だろ!…貴族で親しいのは十人くらいだ。平民以下ならたくさんいるぞ。」


吠えつつも質問には答えてくれる。…ああ、遊んでくれる人がいなくて退屈なのか。


「だから犬じゃねぇよ!」


「平民以下…それは彼女が教会の掲げる聖女様だから?」


「それもあるけど。それだけじゃねぇよ。アイツは、上から見下ろすんじゃなくて、一人一人とちゃんと向き合うから。だから、宗教抜きで好かれてる。」


どうだスゲぇだろ、と青年は自分のことでもないのに胸を張った。


ふむ…。どうもこの世界の百合さんは、思っていたより社交的なようだ。何がどうしてそうなったのかわからないけど。


「彼女は…愛されている?」


「ったりめーだ!」


「…そっか。」


ほっとするような、寂しいような。


(間違えたのかな…僕は)


考えて見れば、前世に起こったことが今世で繰り返される確証などない。過去を忘れたままの方が、百合さんは幸せなのだ。心を壊す記憶なんてない方がいいに決まっているから。


(僕は…消えた方がいいのかな。)


忘れ難い面影がちりちりと胸を焼く。離れたくない、と心は切に願っている。けれど…もし自分の存在が辛い記憶のトリガーになるのだとしたら…。


「おい、ストーカー王子、」


考え事の最中に、デリカシーのないチワワにムッとする。


「…心外だなぁ。」


「あ?間諜つけて毎日観察しようとか、週3で影から見つめて満足しようとかほざきやがつて。どう見てもストーカーだろうが!」


「身を引いて遠くから見守る方針に妥協しようか悩んでいたのに。」


「それを身を引くとは言わない!」


うまいこと言ってんじゃねぇぞゴラァ!と、チワワは吠えた。


「けどなぁ~。ここの騎士、ぼんくらだし…心配だよ。」


前世の記憶と今世の知識を総合すると、このまま置いて行くのは不安しかない。


「テメェ…喧嘩売ってんのか?!」


「事実でしょ。プレートアーマーからして飾りモノにしちゃってるし、平和ボケのぼんくらもいいところだよ。」


何か言う度に突っかかってきたチワワが黙りこんだ。


「わかってるなら対策しなよ。こんなところで遊んでないでさ。君、デュクロ家のボンボンでしょ?」


そう言ってやると…なぜかガシリと腕を掴まれた。


嫌な予感がする。


咄嗟に飛び出そうとした部下を目顔で押し留めている間に、チワワが「おい!おまえら!」と吠えた。すると、どこから湧いたのか件のプレートアーマー数体がガチャガチャと集まってきてエリアスを取り囲んだ。


「……これはどういうつもり?」


さすがに背筋が冷えた。ぼんくらだとか散々言ったけど、軽装の護衛対飾りモノとは言えプレートアーマーじゃ、どうしてもこちらが不利になる。それにコイツら…30キロ超えの甲冑着ているくせに動きが俊敏―中身は間違いなく戦闘狂だ。下手に戦うべきではないことくらいわかる。


「テメェも付きあえ!」


「やだ。」


「「「「死にたいですか」」」」


……。


「…すごく不本意。覚えといてね。」


言っておくけど、逃げようと思えば逃げられたよ?ただ婚約者の家で流血沙汰を起こしたくなかったからやむを得ず従うんだ。渋々嫌々エリアスはソファから立ちあがった。





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