第38話 からくり市
(ど、どういうこと~??)
海賊被害に困っているのではなかったのか、小麦不足に悩んでいるのではなかったのか。ゲームの設定壊れているのか。
「~~!!」
レティシアは部屋をぐるぐると歩きまわった。
「はぁ~、痛いところ突かれましたねぇ。」
エマがため息をついた。
レジスは…心ここにあらずといった様子で視線を宙に彷徨わせている。ヴァリオの攻撃が余程堪えたらしい。
「ま、これで終わりじゃありませんよ。担当者レベルで売り込む手も残ってます。ほら、マッド執事も元気出してって。」
エマがレジスを励ますも、
「…。」
うんともすんとも言わない。
「ダメだこりゃ。レティシア様、とりあえず情報収集がてら街に行きましょう。時は金なり、ですよ?」
◆◆◆
お忍び用の変装をして、王都ピレテシュへと繰り出したレティシア達。護衛なしというわけにもいかないので、放心状態のレジスも引っ張ってきた。
「ねえエマ~、レジス大丈夫~?」
振り返ると、彼はちょうど停まっている荷馬車に激突したところだった。
「あ~。これ以上ないほどけちょんけちょんにされましたからね~。ま、ほっときましょう。」
そのうち元に戻りますよ、とエマが言った直後、
「ママ~、男の人が壁に貼りついてるよ~」
後方で小さな子供の声と、
「コラ、見ちゃいけません。」
それを窘める母親の声が聞こえた。
「…。」
「レティシア様、気にしたら負けです。」
レジス、大丈夫だよね…?一応、私たちの護衛なんだけど。
ところで。現在、レティシア達は王都の中央市場へ向かっている。なんでも今、『からくり市』が開かれているらしく、エマが見にいこうと言いだしたのだ。
「今、サンフルールのご婦人方の間でからくり付の調度品が流行ってるんですよっ!是が非にも見にいかないとっ!!」
「そっか~。メリカントは職人の国だもんね~。」
「そうそう。楽器も作ってますよ、確か。レティシア様のピアノもメイド・イン・メリカントだったかと。」
「おおっ!行く行く~!」
情報収集という当初の目的をすっかり忘れて、はしゃぐ二人であった。
◆◆◆
メリカントは職人の国であるのと同時に商人の国でもある。農業ができない分、製造業と商売で外貨を稼ぐ国なのだ。つまり、何が言いたいかというと…
「おや、商家のお嬢さんなのかい?それならこのオルゴールは売れるよぉ!」
「お嬢様は音楽にご興味がおありで?こちらの手回しオルガンはいかがでしょう。珍しい細工は全部一品物、音質も折り紙つきでして…」
『からくり市』の抜け目のない商人たちが、レティシア達を放っておくはずがない。お忍び衣装は意味をなさず、あっという間に正体を見破られ、レティシア達はよってたかってカモられていた。
「こちら百セット三百フロリン!それをさらに割り引いて二百八十フロリン!ここで買わなきゃ損だよぉ!」
「さあ人気の手回しオルガン、今買わなきゃ手に入らないよ!」
「「おおっ!!」」
しかし、商人たちに煽られたレティシア達が「買います!」と口走る前に、誰かが彼女たちの間に割り込んだ。
「それは去年の売り残し。その売値は高すぎるというものです。」
「うへっ!」
「お嬢様、楽器は必ず試してからお買い求め下さい。」
気がつくと、いつからそこにいたのか背の低い老人が丸眼鏡をくいと押しあげてレティシア達を見つめていた。
「コジモの大旦那ぁ~」
カモり損ねた商人たちを、コジモと呼ばれた老人はぎろりと睨みつけた。
「商売は信用が全てだ。外国のお嬢様相手に下手なもの売りつけちゃ、メリカント全体の信用を落としかねん。相手をよぅく見定めぃ。お貴族様の口コミは怖ぇぞ。」
決して激していないぶつぶつと呟くような口調なのに、二人の商人を瞬時に黙らせてしまった。ただ者ではない。
「お嬢様、仕入れなさるならあそこの商品、『歯車仕掛けの踊り子人形』がよろしいでしょう。共通部品はさほどのコストではございませんが、衣装を変えれば庶民向けにも貴婦人向けにも変えられましょう。」
「そ、それは確かに売れるかも!」
「そちらのお嬢様、もしお時間がおありなら、この男の工房でお選びなさい。ここに出ているのは、大量生産品でしてな。工房の品の方が響板の材質もよろしい。その分値は張るが。」
「ほえ~」
しかも、レティシアとエマそれぞれに的確なアドバイスまでしてくれた。二人で尊敬の眼差しを向けると、コジモは思い出したようにこう言った。
「ああそうだ。君らの連れの若者がふらふらして荷馬車に轢かれそうになっていたからね、近くの荷車に座らせておいたよ。失恋かねぇ?」
「れ…レジスのこと忘れてたぁ!」
「コジモ様、ありがとうございますぅ!」
おじさんまた来ますんで~、と商人たちに言い残して駆けていくレティシア達をコジモはじっと観察するように見つめていた。




