第31話 収束
コンラート目線、ヨハン目線、レティシア目線織り交ぜてあります。
「それで?説明してくれるよね?」
屋敷に戻る頃には、大公令嬢の熱はすっかり高くなっていた。日中とはいえ、冷たい水に浸かり、濡れた服のままでいたのだ。風邪をひくのは当然だろう。
「…申し訳ございません。」
「謝って欲しいんじゃない。原因は何?」
厳しい表情の主を前に、コンラートはさらに頭を低くする。
「散歩の途中、目を離した自分の責任でございます。」
「ふうん?」
釈然としない声音だ。黙っていると、主の気配が近づいてきた。
「手紙を出したがっていたんだってね。どうして報告しなかったの。」
冷めた声は―すべて知っているということだ。
「それは…」
報告しなかったのはコンラートの独断だ。主の負担を軽くしたいがための。令嬢の手紙の内容は十中八九価値のない雑談、主に判断を仰ぐまでもないと、よかれと思ってそうした。
「僕はそんなに頼りない主なのかな。」
叱咤されると思ったのに、落とされた声はあまりにも淋しげで。
「めっそうもございません!」
咄嗟に顔を上げ否定したコンラートを、悲しげな菫色の瞳が見つめていた。コンラート、とかんで含めるように名を呼ばれる。
「手紙を出せないから、散歩―ここを出ようとしたんだよね?突然家族や友達から引き離されたら、僕だって不安になるよ。ねえ、コンラート。僕はどんな小さな情報でも包み隠さず教えて欲しいんだ。それが、あるべき主従だろう?」
主の声音は優しい。まだ十三歳の年若い主が失態を犯した自分を気遣っている。それがコンラートの胸を苦しくさせた。
(私は…主のためと言っておきながらとんだ間違いをしてしまったのでは…?)
「コンラートは僕のために―僕の手をわずらわせてはいけないと思って報告しなかったんだよね?」
ありがとう、と主は微笑む。腹を立てても不思議ではないのに、彼は部下の労苦をねぎらう言葉をくれた。年若いのに、なんとできた方だろうか。
嬉しく思うと同時に、二度とこのような気遣いをさせてはならないと、コンラートは強く思った。
◆◆◆
「フフッ。」
コンラートが去った書斎。堪えきれず忍び笑いを漏らしたヨハンからは、つい先ほどまでの寂しげな表情は跡形もなく消えていた。代わりに、子供らしからぬ艶やかな笑みが浮かぶ。
「君は本当に理想的な部下だね。」
厳つい顔故に表情乏しく見えるコンラートだが、彼ほど感情を隠せない男はいない。感情を隠せない、つまり嘘がつけないということだ。まさに部下の鑑ではないか。
「それはさておき、せっかくいい知らせを持ってきたのにな。」
件の司祭一派を教会のトップ、教皇が破門したという知らせ。ここまで持っていくのになかなか手こずったというのに、喜ばせたい相手が風邪で寝込んでいるとは。しかし、ヨハンは落胆などしていなかった。
(初めて俺を頼ってきたね。)
彼女を思い出して嗤う。風邪で赤い顔の彼女から手紙を託されたのは、コンラートを呼び出す少し前のことだ。
「ウィリアム様…デスタン公に、渡して下さい。」
実を言うと、コンラートが彼女の頼みを渋っていることは最初から気づいていた。わかっていて、あえて手出しをしなかったのだ。おかげで、よいモノが見れた。必死に頭を下げる女の子は悪くない。
「せっかく滞在が延びたんだし、親睦…深めてみる?」
落とされた呟きは誰の耳にも入ることなく、夜の静寂の中に消えた。
◆◆◆
レティシアが森の屋敷から王都の我が家に帰還したのは、風邪が治ってたっぷり一月も経ってからだった。
(な…なんか、疲れた~)
風邪で療養中も、ヨハンは頻繁に見舞いにやってきてはレティシアをかまい倒し、治れば治ったでかまい倒し…レティシアの精神は一月の間ゴリゴリと削られ続け、今は向こうが透けて見える鰹節のような状態だ。
(腹黒ドSって悪役令嬢にも全開なんだ…)
にこやかに誘ってくるのは変わらない。しかし、レティシアが少しでも気のない素振りを見せると、「手紙を出してあげたのに」とか「あの女の子を探してあげているのに」とかわざとらしく嘆いてみせ、レティシアが慌てて謝ると、今度は天使の微笑みで「じゃあ、コンラートを呼ぶから抱きついて」だの、「鬼の厨房長におやつをお強請り、できるよね?」だの無茶振りが返ってくるのだ。
…マジ、毎日が罰ゲームのようだった。魔王に連れ去られた方がまだマシな生活だったかもしれない。
雪のちらつく帰り道、馬車の中でぐったりしてレティシアはそう思うのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
やっと攻略対象三人目が出てきた章でした。
ウィリアム・ブリュノ・デスタン//お兄ちゃんキャラ
クロード・エース・シャルダン//オレ様キャラ
ヨハン・ジル・セザール//キラキラ腹黒王子キャラ
実は、攻略対象たちの名前にあるものを隠してあるのですが、わかりますか?気が向いたら、どこかで正解発表いたします(いい加減)。




