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第137話 対決

読んでいただき、ありがとうございます。

次話投稿は、明日の12時です。


※流血あり。苦手な方はご注意ください。

あの女の言うことを信じてみたが、どうにも嘘くさく感じ、確かめに来てみた結果がこれだ。悪役令嬢はピンピンしており、馬車に轢かれる気配すらない。このまま手をこまねいていれば、彼女は国へ帰ってしまい、聖女を旗頭にディアナ教がサンフルールを乗っ取る計画が水の泡だ。今までの苦労がすべて無駄になってしまう。


「やはり貴女には私自身が手を下すしかないのですね。まあ、仕方ありませんか。」


いつもの柔和な顔立ちのまま、その男は―弩弓を構えた。鋭利な矢先がまっすぐレティシアを狙う。


「あの時は熱さに長く苦しんだでしょう?今回は一瞬で終わらせてあげます。ふふ。動かないで下さいね。」


「あの時…?熱さって…どうして?」


動揺するレティシアに、


「ええ…本当に貴女は忌々しい。金森百合も、そう。あの《イスラメイ》…私よりも早い完璧な演奏…。私の夢を阻む脅威…今度は私が欲しくてたまらない玉座を持っているのですから笑えますよ…。」


ククッと喉を鳴らし、カミーユは秀麗な顔を歪ませた。


「だから、あの時と同じように消えていただきます。ふふふ。ここは前近代的ですが素晴らしい世界です。警察に追われることも、逮捕を恐れる必要もないのですからねぇ…」


ニヤリと嗤う口元に、思い出せなかった記憶が一気に蘇った。




そうだ。あの時、駐車場で。


「金森さん?大丈夫?」


気分が悪くなって立ち竦んでいると、声をかけられた。その時の『私』には、『秋コン』に行くことしか頭になくて…。


「よかったら運転、代わってあげるよ。」


彼の提案に、何も考えずに従った。そして、しばらく走った後、あのお屋敷横の坂道で、彼は急に車を停めて。戻って来た彼は、鼻をつく臭いの液体を車の中に、外に撒いた。そして、破いたノートにライターで火をつけて投げて寄越したんだ。


「さようなら。愚かな女だ…」


ニヤリ。酷薄に嗤い、弧を描く口元がフロントガラスの向こうに遠ざかってゆく…。最後に見たのは、翻るウィンドブレーカーの、()()()()。その直後に、衝撃音と何か重い物が崩れ落ちる音。爆発音―。


そうか。彼は―。




「守谷さん…?」




**********

メモリー07


カミーユ=守谷礼人

**********



◆◆◆



「何言ってんだ…コイツ。」


険しい表情のトマが、躊躇うことなくレティシアを背に庇う。カミーユは至近距離だが剣の届かないギリギリから弩弓を構えている。下手な銃より殺傷力の高い弩弓。当たれば怪我では済まないというのに。悪役(トマ)は、対悪役令嬢(レティシア)限定だが、間違いなくイイ男だった。


「邪魔です。」


吐き捨てるのと同時に弩弓から矢が放たれ―


「トマーっ!!」


レティシアの絶叫が響いた。



◆◆◆



その頃、辺りには季節の変わり目特有のつむじ風が吹いていた。風はフランシーヌがぶん投げたキノコ―イケイケロデオタケを転がし、そして…


「ヒヒン?(およ?)」


とある馬車―ちょっと前にユノスが見てきたワロキエ伯の馬車の近くで止まった。


「ブルルッ!ブルルッ!(美味そうなキノコ見~っけ!)」


実はこのイケイケロデオタケ、馬にとって有害なくせにたいそうな美味であった。故に誤って食べる馬が後を絶たない。目の前に転がってきたご馳走に、馬は一生懸命首を伸ばすものの、あと少しのところで届かない。


「フルッフルルルッ…(も、もう少しぃ~)」


おーい!馭者の兄ちゃん、マズいもんが転がってるよー!のんきにご飯食べてないで、気づいてー!



◆◆◆



「トマっ…トマぁ!しっかりしてぇ~!」


矢を引き抜き、溢れる血を必死で押さえ。レティシアは半狂乱で悪役の名を呼びつづけていた。レティシアが咄嗟にぶつかったせいで即死攻撃は免れたものの、長く放置してよい状態ではない。


「トマぁ~なんで庇うのぉ~」


ぼろぼろ零れる雫なんか何の役にも立たないのに。怖くて何も考えられない自分は、ポンコツどころじゃない。最低だ。


「…シア…レティシア、」


己を責める気持ちだけが先立つレティシアの手を、血だらけの手を誰かがそっと握った。


「しっかり…時間を、稼ぐんだ。」


「トマ?!ダメだよ、喋っちゃ~」


血の気のひいた顔で、トマは重傷にもかかわらず笑ってみせた。


「王女が…生きている、と…教えてやれ。おまえを、殺しても…無駄だと…嗤って…ク、フッ」


声が途切れ、かぷかぷと口の端から血が溢れる。そうだ、ここで自分が殺されたら、トマも助からない…!レティシアは乱暴に涙を拭った。


(私は…悪役令嬢!気高く笑って!あんなやつ、見下して!)


きっと次の矢をつがえるカミーユを睨みつけた。


「馬鹿な男ね…!私を殺したって無駄よ…!貴方は失敗したの。王女は生きているんだからー!」


弩弓の欠点は、次の矢をつがえ引き絞るのに時間がかかること。大声で叫びながら、タックルの要領でカミーユに突撃し、躱された。普通の令嬢ならまずやらない足払いもバックステップで避けられる。相手も転生者、そう簡単には勝たせてはくれない。だが、確実に矢をつがえるのを邪魔できている。


「誰かぁーー!!」


副科声楽で覚えた腹式呼吸。腹の底から声を張りあげ思いっきり叫ぶと、さすがにカミーユも眉をひそめた。その隙に奴の顔に砂を投げつけてやった。


「悪役令嬢をぉ!舐めるなぁ!」


続けて砂を投げると、さすがにまずいと思ったのか、カミーユが距離を取ろうとする。逃がすかとばかり、追いかけたのだが…


「ふきゃぅ!」


脇腹を強かに蹴られて、レティシアは地を転がった。忘れていたが、カミーユは成人男性。運動神経も悪くなく、至近距離の蹴りは貴族令嬢の動きを止めるには充分だった。レティシアが痛みと衝撃から立ち直る前に、カチリと矢をセットし終えた音を耳が拾った。



◆◆◆



その頃。馬とキノコの攻防戦(?)は続いていた。さっきまた風が吹いて、あと10センチくらいの近さまでエサが転がってきたのだ。


「フルッ…フルルーッ(あとちょっとぉー!)」


キノコに夢中な馬は、すぐ近くをカサカサカシカシと奇妙な音を立て猛スピードで走っていく異物には気づかなかった。精一杯、首を伸ばす。馬とキノコの距離、残り数センチ。………のところで、


「っぶねーな。ヘンなキノコ食うなよ。」


馭者の兄ちゃんにキノコを拾われてしまった。



◆◆◆

 

しぶとい悪役令嬢を蹴倒し、弩弓の狙いをつける。見た目の割に、ちょこまかとすばしこい女だ。狙いが悪いと仕留め損ねるかもしれない。ならば―


(頚動脈を撃ちましょうか。)


カミーユが弩弓の狙いを白い首筋に合わせようとした、まさにその時。



カサカサカサカサッ


カシカシ カシカシ…



微かに軋むような音をたて、もうもうと砂煙をあげながらカミーユ目がけて『何か』が突撃してきた。


「ッ!」


すんでのところで避けたカミーユだったが、弩弓を砂煙の中の『何か』に巻き取られてしまった。



蹴られたのが痛くて起き上がれないでいたら、何が砂煙を巻き上げながらレティシアのギリギリ後ろとカミーユの間に割り込んで停止した。モワ~ッと砂煙の中からまず見えたのは、長い爪のようなモノに引っかかってブラブラ揺れる濃茶の革靴。見覚えがある。トマのだ。よく見れば彼のものと思しき白い靴下もくっついている。


(轢かれたのぉ?!)


「ト、トマァ?!」


慌てて振り返ると、トマは地に身を横たえていた。一応遠目には、轢死体に見えないが…


「大丈夫だよぉ、百合さぁん。ギリギリで避けたから。」


「ほほほ…本体は大丈夫なのね?!」


砂煙の中、謎の乗物―例えるなら耕耘機(こううんき)のぐるぐる回転する刃の部分を取り出して操縦席をつけたモノに乗ったエリアスがニタリと笑った。


「ふふふ…大丈夫にしたんだよぉ?牽制ともいうねぇ。僕の百合さんに言い寄った時点でぇ万死に値するけどぉ、彼の勇気に免じて」


「エリくん…私のスカートも巻き込んでるよ。」


「え……?」


「あと、気づいてたなら、もっと早く助けて欲しかった…。」


「……。」


恋人の手痛い指摘に、約10秒気まずい沈黙を挟んだ後、


「……ネジを巻くのに時間がかかったんだよ。すみませんでした。」


怨霊は平謝りした。恋人に言い寄った男に男気で負け、ずぅーんと落ちこむ彼氏。おい、しっかりしろ!


が、すぐに顔をあげた。


「アハハッ!復讐ヒャッハ~!(訳:愛するレティは僕が護る!)」


これから挽回すればいいさ!決めゼリフを吐いて、ネジの巻き戻った乗物からヒラリと華麗に飛び降り、怨霊は懲りもせずせっせとネジを巻き始め、


「先にトマを助けてよ!」


すっかり強くなった恋人にどやされた。

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