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やってきたオレ様

誤字報告いただきました。ご指摘感謝です(≧∀≦)

で~、あっという間に一年が過ぎて。

春休みもあとちょっとだな~って頃。そいつはやってきた。



インターホンが鳴って百合が出たんだけど、なかなか戻ってこなくてさ。

ああ、しつこいセールスでもきて困ってるのかなと思って、見にいったの。

そしたらあの子、インターホンの前で真っ青な顔してて。

何ごとかと思って覗き込んだら、


「おい!何をしている。さっさと開けろ!」


インターホンが怒鳴った。

画面には誰も映ってない…あ、さっきなんか動いた。

誰かいるにはいるらしい。


「いつまで待たせる気だ。金森百合、出てこい!」


…誰こいつ。

顔は見えないけど、なんか振り回してるっぽい…ヤバくね?

私は百合を振り返った。


「百合、不審者来たら管理人さんに電話!」


「なっ、何をバカなっ!俺だ、開けろ!」


狼狽えたのか一瞬の間をおいてそいつが叫んだ。負けじと怒鳴り返す。


「俺って誰よ、名前くらい言いなさいよ!」


「ふっ。神宮寺リクを知らんとは嘆かわしい奴だな。」


「はあ~?!」


…やっぱり管理人さんに電話しよう、と私が踵を返そうとしたら、


「…じんぐーじ。」


低く呟いた百合は玄関へダッシュ。すぐにチェーンを外す音が聞こえて。

え、ウソ開けちゃうの?!


「遅い!」


玄関に仁王立ちして百合を怒鳴りつけたそいつは…金属バットを構える私を見て硬直した。



◆◆◆



「『春コン』の練習すっぽかしたおまえのためにわざわざ来てやったんだ。感謝こそすれ、この応対は何だ?」


「は?玄関で騒ぐヒトが悪いんでしょ。それだって、鈍器にしか見えなかったし?」


私が指さしたのは黒いヴァイオリンケース。

玄関先でこいつが振りまわしてたやつだ。大事な大事なマイ楽器入れてるなら、振りまわすなんてありえなくね?


「どう見てもヴァイオリンケースだろうが。

俺からすれば、来客を金属バットで迎える家政婦の方がよほどあり得ないと思うが?」


「怪しい奴が来たからでしょ!って…か、家政婦!?」


「身の回りの世話をする女は家政婦だろうが。

おい金森、このアホに常識と礼儀を教えてやれ。」


「あ、アホ~?!」


…ちょっと何このオレ様。シメてもいいだろうか。



◆◆◆



数分後。私はキッチンでお茶の準備をしていた。


あのムカつくオレ様、もとい神宮寺リクは偉そうにも紅茶(え?水道水でよくね?)と茶菓子を要求してきたのだ!

まったく何様のつもり…オレ様か。


ムカついたので、茶菓子はこないだ百合と食べた一袋58円の激安クッキーの残りを出すことにした。

最っ高のおもてなしっしょ?

あ、ちなみに紅茶は三角ティーバッグの20パック入りイチキュッパーやつ。ミルクと砂糖は有料だ。


トレーにのせて、意気揚々と練習室に持って行くと、案の定オレ様は顔をしかめた。


「…貴様は紅茶を湯呑みに入れるのか?」


…。


え、そこ?


「…盆もないのか。貴様…つくづく常識がないな。」


ぶつぶつ言いながらも激安クッキーをぱくぱく食べるオレ様。偉そうなこと言ってもクッキーの正体には気づかないらしい。貧乏舌めと、私がほくそ笑んでいると、


「ん~、58円クッキーって止められないよね~」


「ぶっ」


のほほんとした言葉にオレ様が咽せた。

百合、ナイス。オレ様め、ざまあ?



◆◆◆



激安クッキーの衝撃からなんとか立ち直った神宮寺は、苦み走った表情を私に向けた。


「まともなもてなしはできんのか。おまえは、こいつの見本だろうが。」


…何言ってんの、こいつ?

首を傾げる私に神宮寺はため息をついて百合を指した。


「なんのための同居だ。家事なり客のもてなしなり教えろってことくらい、察しろ。」


言われて私は目を白黒させた。いや、聞いてないし…。


「金森、本来おまえの方が学ばなければいけないんだからな。おまえの生活能力が皆無だから、親父さんは留学に反対するんだろ。」


なんかいきなりシリアスな話題になった。面倒くさいな…。

そっと盗み見た百合は、険しい表情で唇を噛みしめていた。

痛いところを突かれたらしい。


確かに百合の実力なら留学考えても不思議じゃないのに、未だにその話出ないもんね。

おじさんがストップかけてるのか。


うん、ちょっと変だと思ったんだよ。

百合の実家から大学まで通えない距離じゃないからさ。

わざわざひとり暮らしさせて、自立させようとしたのか。


…って私を同居させたら意味なくね?

チラッと百合を見たら、縋るような目で見つめられた。


「親の教育方針が真っ二つなんだよ。

母親はピアニストになりたい娘を甘やかし放題、父親はそれはマズい地に足つけて会社員になれと言う。

まあ、才能だけのバカ娘を危ういと思うのは当然だな。」


「はあ。」


そういえば同居を頼んできたのはおばさん…か。

つーか、なんでこの男が百合ンちの事情にここまで詳しいワケ?あんたらどーゆー関係よ。

首を傾げるも、神宮寺は誤魔化すように咳払いして立ち上がった。


「帰る。もう練習すっぽかすなよ。

…ああ、『春コン』には立花…如月真夜(きさらぎまよ)も出るからな。プッチーニ練習しとけよ。」


「プッチーニ…?」


如月真夜(きさらぎまよ)!?」


如月真夜ってアイドル歌手の如月真夜?!マジで?!百合ンち云々は宇宙の彼方にすっ飛ばして、私は神宮寺につかみかかろうとして、かわされた。


「な、なんだ、いきなり。あいつの十八番(おはこ)が『誰も寝てはならぬ』なんだ。つ、伝えたからな!」

身の危険を察したのか、神宮寺は逃げるように帰っていった。



てか、如月真夜来るんだ。『春コン』スゴくね?

も、絶対見に行くし!

短い幕間でした。次の幕間までに本編を数章挟みます。

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