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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第2章 王都〜ミーション〜
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人工精霊〝ケスルタ〟




 薄暗い、牢屋のような部屋。


 決して清潔とは言えないその部屋の中央には、ボロボロのベッドに寝かされた上裸の、薄汚れた金髪の男と、身体の様々な所に黒い刺青(タトゥー)が入った、地肌にベストを着た長めの癖が掛かった金髪の男。


 同じ金髪の二人だが、(はた)から見ても兄弟などの親族のようには見えない。


 その刺青(タトゥー)の男が(まと)う雰囲気には明らかに普通ではない、威風とでもいう物があった。




[───、───、─────]




 ガラスを硬い物で擦るような不快な、明らかに人語ではない言葉が刺青の男から放たれた。




「……ッ……!なんなんだよその言葉は…!耳が痛え……」




「ひはははッ、そう言うな。【魔界の扉を開ける呪文】は常人には耳障りだろうが我慢しな。なぁに、力が手に入るなら安いもんだろう?」




 上裸の男の不満の声にけらけらと笑いながら、刺青の男は右手をその無抵抗な五体へと順に(かざ)していく。


 怪しく灯る不気味な紫炎(しえん)の右手が翳したその上裸の男の五体の末端に浮かんでいくのは黒い九芒星(きゅうぼうせい)


 どす黒い血のような(にぶ)い輝きを放ちつつ、その五つの九芒星は上裸の男の額、掌、足の甲へと、痛み

も無く存在を確かにした。




「まぁそうだけどよ……一体何語なんだよ今の。女の悲鳴よりキンキンしやがる」




「ひははは、おめーさんには生涯関係ねぇ言語だよ。気にしてねぇで覚悟決めな、ぼーっとしてたら──死ぬぜ?」




「──ッ」




 その言葉に上裸の男は息を飲んだ。


 底冷えするような、毛穴がぎゅっと硬く締まるようなぞっとする感覚。


 似ていたからだ。ボスの雰囲気に。




「じゃあ、後は頑張りやがれ。[───、──────]」




 そう、刺青の男がまた耳障りな声を発すると、全身に得体の知れない〝モノ〟が──





「──ッ!?──がぁああああァ!!!!!!」





──侵食(しんしょく)してきた。







「このアルから受け取ったベッセルの機能はこの文字盤みたいに付いてる十二個の宝石っぽいやつ分あるんだとよ」




 目的のギルドを目指しながら、着けているベッセルを外して右側に並んで歩くルギくんへと見せる。


 ちなみに取り外しはなんか磁石っぽい感じでちゃらりと良い音を出しながら取れるが決して弱くは無い。


 磁石っぽい、というのはその黒い鉄のようなベルトは取り外す為の接続部を除いて普通の時計のベルトにはある筈の〝継ぎ目〟が無い。


 腕の太さでにょいんと伸び縮みするこの特殊な金属は魔鉄鋼(まてっこう)で間違い無いだろう。


 ヴァルカンさんから貰った両腕に着けてる腕輪にも使われている金属だ。


 色が腕輪と違うのはベルトの裏側に刻まれている無数の(しるし)のせいだろう。


 この印、腕輪にも刻まれているが鍛治師が使う計算式のような物で俺には読めず、記号を重ねた落書きのようにしか見えない。


 学者とかが普段使いで書く式みたいなもんなんだろう、外側からは見えないし何も問題はない。




「十二個も?」




「おう、そうだ十二個も機能が使える──〝ようになる〟らしい」




「〝ようになる〟?え、まだ使えないのソレ」




「ふにゅん?」




 ルギくんの言葉になぜぇ?と顔を斜めに揺らすシラタマ。


 そう、十二個も機能が使えるようになるのは〝まだ〟らしい。




「今使えるのは連絡先を交換した人との映像通信と常時アップデート…新しい情報が入れられる辞書機能と──【人工精霊】による手助けだってよ」




「【人工精霊】!!──って何?凄いの?」




 俺の言葉にクワっと目を開くルギくん……だがよく分かっていないようだ。


 ほへーんとしている。和む。




「凄いらしい。アルが新たに〝作り上げた〟【精霊】の試作品がそいつん中に入ってるだとよ。多分あれだ、ご飯一杯食べるとするだろ?そしたらそいつが残りのお金を教えてくれるとかだ」




「すっげぇ!」




「にゅー!」




 ベッセルを見つめながらお目々をきらきらさせる一人と一匹。


 うむ、やはり当人が分かりやすく説明をするのは大事だな。


 なお実際にソレは〝出来る〟っぽい。


 人工知能みたいな物なんだろう。




「どれ、実際に使って見るか」



「はいどうぞ」




 物は試しとは言ったもので、実際に見てみないと分からない。


 ルギくんからベッセルを受け取って早速その【人工精霊】とやらを見てみよう。


 ベッセルを左腕にかちん。


 すぐ済むだろうから一度立ち止まっておく。




「指先で魔力をちょこっとな」




 人差し指で表面を優しくたっち。


 ベッセルの表面、画面にセットされた十二個の宝石っぽいのが光りを放ちながら時計回りに順に(きらめ)く。


 そしてその輝きは増し、直径二十センチ程に立体化──いうなれば立体映像(ホログラム)のように十二個の光りが浮かび上がった。




「うおーー!!」




「にゅーー!!」




 お目々きらきらビームを飛ばしてくる食いしん坊二人。


 そうか、俺は凄いとは思うけどそれほどでも無いのは前の世界じゃあ経験済みだからか。


 俺はそんな事より食い物以外に興味が出来てて何よりだよ。




「人工精霊、起動せよ」




───人工精霊〝ケスルタ〟プロトタイプ、起動します───




「「おおー!!(にゅおー!!)」」




 ルーインさんとこで聞こえた、抑揚(よくよう)の無い、中性的で機械的な声がその場に響く。


 十二個の光りが周り、三個ずつに別れ、回転を始め、三つの円が互いに組み合わさる知恵の輪のように動き始めた。


 これにはどういう意味なのだろうか──とは思うがあのアルの事なので気にしない事にする。


 ちなみにその声にきらきらビーム二人組は沸いた。


 ええ、そりゃもう輝かしい笑顔でおっちゃん嬉しいよ。




「ケスルタ?それがお前の名前か?」




───はい。マスターアルメスにより構築された精霊となります───




 マスターだってよあのアルが。マスターというよりマッドサイエンティストの間違いだろ。




「何が出来るんだ?」




───今現在登録されている四名との通信、魔物や造形物の説明などが出来ます。また、魔物や造形物の説明は本などのスキャンによってアップデートが可能です───




 ケスルタが言葉を発する度に知恵の輪がぽぽぽと点滅する。


 なるほど、辞書というか検索機のようなのか。


 改めて分かって良かった、というかケスルタが喋る度にぺかぺか光りながら回る知恵の輪が可愛いと思うのは俺だけかい?




───また、計算や、現在の装備品などの管理も可能です。お気軽にお申し付け下さい───




「だってよルギくん。計算とか任せて良いってよ」




「わーい」




「にゅー」




 にこっぱと笑うルギくん、だがシラタマ、お前はあんまり分かってないだろ。絶対ノリで答えたろ。


 何はともあれ事務係ゲットという事でおバカな俺は助かるざます。


 お、忘れちゃいけない、これ聞いとかねば。




「起動はしっぱなしで大丈夫なのか?」




───維持には微量の魔力が必要ですが、マップ案内、計算などだけであれば空気中の魔力のみで問題ありません。サーチ、その他機能を使うには当人の魔力が必要です───




 ほう、つまりは俺が予備バッテリーという事か。


 なんと便利なツールでございましょう。


 良いね、こういうふぁんたじっくであーてぃふぁくとでにゅーふゅーちゃーなのとても好きよ。




「おけぃ。そんならギルドに向かうべ!」




「いこー!ケスルタさん!ギルドの場所教えて!!」




───マップ情報が不明です。マップ情報を入れて下さい───




「あうー……」




 ケスルタの反応にしょんなりするルギくん。


 流石にマップは真っ白か、ギルドで見せて貰わないとな。おお、よしよし。




ルギ


「んー…」




シラタマ


「にゅー」




カナタ


「後でオヤツも仕入れておくか………」

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