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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
2つの【出会い】
51/213

次の段階へ

お肉食べたいね。りばお。




「俺のホルモンを返しやがっ……」




 がばりと上半身を起こすと胸元に居たであろう毛玉がぽいーんと飛んでいくのを見て我に帰る。




 夢か。




「ぷぎゅっ」





 壁にぺちーんとぶつかるシラタマ。


 あぁ、よだれがつーっと壁に…待て、キサマ…やったな?




「ふにゃ〜ぅ…」




 寝ぼけ(まなこ)で欠伸をしながらシラタマが猫のように鳴いて起き上がった。


 流石軟体ふわもにぼでー。ダメージは皆無らしい。




「…夢にまで出てくるとは恐るべしバルちゃんのホルモン煮込み。あれ美味かったなぁ……」




 胸元に広がるシラタマのよだれをタオルで拭きながら【一ヶ月程】前の出来事を思い出す。


 そう。既に【一ヶ月】も経っていた。




 バルムさん改め、バルちゃんに食いっぷりを気に入られて話してみると盛り上がってしまい、お互いを「ちゃん」付けで呼び合う程に仲良くなっていた。



──




 バルムさんホルモン料理って出来たりする?


 あらカナタちゃん!貴方ホルモンイケるのね!?


 好物です。不評だったり?


 牙狼族はなかなか臭みがあるから苦手ってヴァサーゴさんとレトちゃんしか食べないのよー


 なるほどー。あ、レバ刺しとかも出来たり?


 任せて!あ、冷酒あるわよ?


 あんた最高か。




──



 とまぁそいつが絶品だったもんで今日の夢にまで出てきたと。


 いやね?モートンのホルモンは最高だったんよ。


 ぷるっぷるでしつこくない脂身の甘味にまろやかで濃厚なつゆが絡みあったホルモン煮込み。


 それが程良い弾力で【噛み切れる】ときたらヤバイでしょう。


【噛み切れる】ホルモンだぜ?そして味が素晴らしいと来た。


 シラタマと取り合いになったのは必然でしたわ。ははは。




「あーあー、ほれシラタマ来い。あーあー、こんなによだれ垂らして……」




「ふにゅー」




 シラタマのよだれもふきふき。壁についたのもささっと拭いてと。


 うむ、これでよし。




「おし、飯食って修行すんぞー」




「ふにゅー」







 飯を終わらせた外で修行開始。


 天気の良い日である……がそんなのは些細な事で、俺の神経はとても研ぎ澄まされていた。




「………」




 つぅ…と汗が頬を伝う。


 胡座(あぐら)をかきながら精神を集中させて行う木人形の操作。


 気のコントロールを得る為のこれは修行の日課でもある。


 ごりごりと精神が減る中、掌に乗る木人形は──ゆらりと幽鬼の如く気を受けて立ち上がった。


 よし、───ここからだ。




「ぜりゃああッ!!」




 目を全開に見開いて叫ぶ、木人形に渾身の気を濯ぐ。


 そして木人形は──




 ツイッ───ス─ツイッ─カシャッ─クイッ─クイッ




 カクカクとした、キレのよい踊り──そう。


 見事なアニメーションダンスを木人形は披露していた。




「あっはっはっは!!いいねぇカナタ!!随分と上手くなったじゃないか!」




 拍手と共に豪快に笑ってくれるのはもちろん姉御だ。


 いやぁ…コツコツ頑張りましたからねぇ…ヴィレットに負けてたまるかという気持ちで。




「うむ。これなら瞬動も上手く出来るだろう。良くここまで動かせる様になったものだ」




「ケッ、最初は腑抜けた声で手足しか動かせなかったのにな」




 褒めてくれるヴァサーゴさんと対極に鼻で笑うのはヴィレット。




「よし、レトあんたもやってみな」




 ほう、と悪戯な笑みを浮かべながら姉御が木人形を手渡すと、その荒々しい掌に乗せてヴィレットが叫んだ。




「我だってなぁ…ぬんりァああ!!!」




 ゆらりと立ち上がる木人形──だが。




 のったのった。かっしょん、かっしょん──かしゃん。




 悲しいかなヴィレット。


 木人形は重力をなんとか耐えて歩いたと思ったらそのまま反動で落下したのだった。




「………」




「「…クッ」」




 無言のままのヴィレットを直視するのがとても耐えれず、俺と姉御は笑いを堪えながら顔を背けた。




「失格」




「「ぶはははッッ!!」」




 ジト目をする冷淡なヴァサーゴさんの一言に俺と姉御の口角の門が笑いと言う鉄砲水によって決壊した。


 待ってそれは耐えられませんってヴァサーゴさん。




「ひーっ、ひーっ!…いかん、意図せず筋肉痛の抜けない腹筋を…!!」




「かしょんって…かしょんって…っぷぐぐぐ……!!」




 ずきずきとくる筋肉痛に腹を抑えながらうずくまる俺と地面をがりがりと削りながら笑いを堪える姉御。


 その光景にギリギリと歯を鳴らしながらヴィレットが吠えた。




「だーっ!!うるせぇ!我だって本気をだせばなぁ!!」




 そのヴィレットの声にヴァサーゴさんの目が怪しげに光るのを俺は見てこう思った。




 おいおいおいおい。アイツ死んだわ。




「ほう?今まで本気では無かったと?良かろう、これからの修行はお前の大の苦手な【人化】の修行をみっちりとやる事にしようか」




 その言葉にヴィレットのぴんと勇ましく立っていた両の耳がへしゃりと潰れ、ぶわりと大量の冷や汗がこれでもかと噴き出した。




「いや…そのだな親父。今のは言葉のあやでだな?決して今まで手を抜いてたと言う訳では……」




 両手を前にヴァサーゴさんを何とか(しず)めようと必死に言い訳をするヴィレットだったが残念ながら時既に遅し。




「なぁにそろそろ次の段階に移ろうと思ってた所だ。少し早まったにすぎんよ。ヴァネッサはカナタ殿に瞬動を教えてやっておいてくれ」




「あいよー」




「私はみっちりと此奴に人化の修行を教えてくるのでよろしくな。では行こうか息子よ」




 逃げようとする馬鹿息子(ヴィレット)の首根っこをむんずと掴んで引き摺る。


 「あれだけはァ!!離してくれ親父ぃ!!!」ともがくヴィレットだったが良い笑顔で「ふははは。元気があるようで何よりだ」と力を軽く受け流していた。


 あれだ。家に帰りたく無くて踏ん張る犬を連想したら正解だわ。




「…さてアタシ等もやろっかカナタ」




「うぃっす」




 何事も無かったように切り替える姉御好こです。


 ヴィレットは最初から居なかった。いいね?




─一方シラタマはというと──




「ふにゅああー!」




「わぁーいブーメランのお手玉だぁー!」




「凄い凄いー!!」




 大道芸のような技で子ども達と遊んでいたらしい(ヴォルグ談)

カナタ



「この毛玉はもはやベビーシッターでは?」



シラタマ


「にゅあー?」

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