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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
210/213

もう一つの準決勝




 ウワァアアアアアアアアアアッ──!!




 視界が、砂漠一面に広がる新芽から、無機質な石畳の上へと切り替わった。


 鼓膜を圧迫する程の大歓声が、砂漠のステージから転移魔法でこちらに戻って来た事を実感させる。


 肩を貸してくれたダグが、相変わらずの訛りの入った、緩い声でこちらへ尋ねてくる。




「腕は…大丈夫そうだが?」




「大丈夫──ッ!と言いてぇが…マジで痛ぇ。能力で回復させちゃいるけど全然回復しねぇ…腹も減った……」




 僅かに残る魔力で、右腕の自己再生機能を高めてはいるが、全く皮膚が再生する気配がない。


 とんでもない技だった。シャクによる小手の防御を貫いて来た。


 シャクが居たからこそ、肩までの火傷で済んだんだろう。




「そんだけ酷い火傷して大丈夫だったらやべぇだよ…ロス、頼むだ」




「〝鎮痛浸透力(ちんつうしんとうりき)〟…僕も能力を使い過ぎて完全には痛みを消せないな……まぁ、その甲斐あって〝結果は出してくれた〟けどね」




 俺の腕に能力を使った後、担架で運ばれていくムクゲの近くにいる、その結果を出した男をロスは遠くから見つめる。


 何かを数回話してから、こちらに来たゼーベックの顔は澄んでいた。




「……ムクゲと何話してたんだ?」




「次回の戦いの予約をな。「次はこっちの勝ちで終わらせる」だとよ」




「…ははっ、そりゃ良いや──いって!?あ、ヤバいもうロスの切れて来た!!」




「馬鹿野郎!?足元震え所じゃなくて痙攣してんじゃねぇか!?おいダグ急ぐぞオレも肩を貸す!!」




「おわぁあカナタの瞳孔が開いてるだよー!!」




 なるほど、通りでいつもより凄く景色が明るい訳だー。







「いやぁ、死ぬかと思った。バルちゃんに感謝だな」




 グロテスクに火傷した状態から、すっかりいつもの白い肌に戻った、自身の右腕をぐるぐると回し、全快した事をアピール。


 医務室へ搬送される途中、応援に来てくれていたシラタマとルギくん連れたランさんノンさん達にバッタリと会ったボロボロの俺は、一緒に応援してくれたバルちゃんに腕や身体の治療をしてもらったのだ。


 正確には治療──では無いと本人は言っていたが。




──良いのよ。正確には治療というより〝火傷する前に戻した〟だけだどね。明日決勝なんだから寝てられないでしょう?アタシからのサービスよ──




「いやすげぇな、完全に火傷する前の俺の腕だ。違和感も全くねぇ」




「アレは〝時属性(ときぞくせい)〟の魔法だぜ旦那…ウチも数える程しか見た事が無い、希少で高難度な時属性の魔法を使えるなんてあの店長ほんと何者だ?」




「千人分の料理も一人で賄える凄腕ダンディオカマ店長。──あ、なるほど、時属性の魔法使えるから千人分作れるのか、納得納得」




 右肩辺りでふよふよ浮かぶシャクの言葉に一人で納得。


 そりゃあ料理一瞬で作れるし、仕込みに時間のかかる物も容易く出せるわけだ。すげぇぜバルちゃん。



 と、そんな事を話してる俺の裾をくいくいと引っ張る、キラキラおめめの小さな人物と毛玉。




「兄ちゃん兄ちゃん!試合始まるよ!」




「ふにゅ!」




「お、始まるか──見せてもらうぜ、デンイ、ヴィレット。おめーらの戦いをよ……!」







「さーて、やっていくとするか皆の衆、煙管幻惑(えんかんげんわく)




 ぷわり、と狸の獣人、ソウコが普段見かけない煙管から大量の煙を吐き出す。それに合わせて仲間の三人がゆらりとその場から掻き消えた。


 戦いのルールはポイント戦……なのだが、戦意バチバチのシュエン、ヴィレットの提案、「全員ぶっ倒してから旗を取ればパーティ戦となんら変わらんからそれでどうだ」という脳筋提案により、パーティ戦へと変わっていた。


 戦いのフィールドは氷山。氷の張った海面の上で、煙が、ゆっくりとヴィレット達のパーティへと流れる──




「──幻覚の類いか…!気を付けろ、死角から来るぞ!!──伏せろヴェイール!!」




「──へッ?ふぶぅ!!」




──光が(またた)いた。ヴィレットの鮮やかな紫色の剛腕に、強制的に伏せられた、靴下を履いた翡翠色と白のハチワレ模様のヴェイールの情けない声が響く。


 ヴェイールの真上にはいつの間にか接近していたソウコの掌底と、逆立ちしたヴィレットの左脚の蹴りがぶつかっていた。


 蹴りの勢いを逃すように距離を取るソウコが悔しげに、それでいて楽しげに口を開いた




「流石に牙狼族は鼻が効くのぅ…!」




「──生憎、幻覚や毒の類いは我には効かぬわ!ナギナ!術を解けィ!奴等の攻撃が来るぞ!!」




「──解呪!!」




──ッ!




 青肌、黒髪に金髪混じりのウェーブした短髪の鬼人族の女性、ナギナの柏手(かしわで)一つにソウコの術が解かれる。


 だがしかし、そこに現れたのは無数の青い炎漂わせる狐の獣人トウカと──長く白い布に乗った異世界人のデンイが宙にいた。




「もちろん予想しておったわ、陰陽化怪流(いんようけがいりゅう)六尾(ろくび)(ほむら)




「援護しやすぜ姐さん。──油すまし坊主、砂かけ婆さん、火力アップだ」




──ほれ坊主もぶっかけな!


──ぶっかけるー!




──ッ!!




 大きく胸元を露出させた、妖艶なトウカの放つ六つの青い炎が、デンイの召喚した妖怪によって巨大化。


 酒樽(さかだる)程の炎は、妖怪の放つ黄金色の液体と、黒色の砂によって激しく燃え盛り、人を覆い尽くす程に強化された。


 巨大な青い炎がヴィレット達を囲むように一斉に襲い掛かる──




「ガオノ!」




「おう!──鬼人族の底力、思い知れ──大地の憤怒!!」




「──ッ!地面が!?」




 ヴィレットに呼ばれた、長い戦斧を持つ、黒髪に金髪混じりの赤肌の男は、その長髪を荒々しく振り乱し、回転によって勢いを増した武器の石付きを地面に打ち付けた。


 瞬間、ヴィレット達の足元の氷塊が突き上がり、目的を失った炎が激しく散る──そこにあったのは大地の壁。




「嘘だろ…〝海底から持ち上げやがった〟のか!?」




「デンイ!それだけではない!奴等の狙いは──空中戦じゃ!!」




 ぐんぐんと伸びる大地に乗った彼等を見たトウカは、直ぐに目的に気付いた。


 ギラリとした笑みを浮かべたヴィレットの、眼帯で塞がれていない右眼が光る──




「ぐはははッ!ヴェイール!皆に再生魔法(リジェネ)を付与しろ!!突撃だッッ!!!」




「へぇーい!」




「ぐはははッ!まずは厄介そうな貴様から仕留めさせてもらうぞデンイとやら!!」




「ッ!やはりおいを狙ってくるか…ッ!一反木綿!逃げろッ!!」




──間に合わねぇよ旦那ァ!!相手が速すぎるッ!!




 ヴェイールの両手が新芽のように輝くと、それをパーティ全員を触るように付与。薄い緑色の加護となって全身を包んだ。


 タンッ──と、勢いよく宙へ飛び出したヴィレットの拳が、空中で鈍い動きのデンイへと迫る──金属がぶつかり合うような轟音が鳴り響いた。


 ヴィレットの剛腕とぶつかるのは、黒光りした──鋼鉄の拳。




「──お主の相手の(それがし)だ!!」




「ぐはははッ!お前が相手かシュエン!不足無し、寧ろ待ち望んでいたぞ!!」




 空中にて発生する数多の打撃は衝撃波へと変わり、その場を荒々しく飾った。


 もちろん動いたのはヴィレットだけでは無い──




「そんじゃあうちの相手は──アンタだッ!!」




「いいじゃろ。それでは女子会といこうかえ?」




「お前の相手はワシが承った!!覚悟せぃ!!」




「鬼人族が相手たぁ、出し惜しみ出来ねぇなぁ…── 憑依(ひょうい)、〝餓鬼(がき)〟」




「えーと…?オイラはフリーなのかな〜…」




「ならば拙僧が相手(つかまつ)ろう。ヴィレットがパーティに入れた牙狼族の男…興味が尽きぬわ…!」




 牙狼族、戦士長ヴィレットvs陰陽化怪流(いんようけがいりゅう)、僧兵シュエン。


 鬼人族、戦士長ナギナvs陰陽化怪流(いんようけがいりゅう)、僧兵トウカ。


 鬼人族、副戦士長ガオノvs陰陽化怪流(いんようけがいりゅう)、僧兵デンイ。


 牙狼族、衛生兵ヴェイールvs陰陽化怪流(いんようけがいりゅう)、僧兵ソウコ。




 もう一つの準決勝が──始まった……!!




カナタ


「あったり前のように空中戦か〜。足場も無しにやるとほんと実力の差を思い知らされるな……あ、ランさん、ヘビーベアの串肉三十本下さい。ルギくんもシラタマも食うべ?」



ルギ


「食う〜」




シラタマ


「ふにゅ〜」




シャク


「ウチにも少し分けて〜」

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