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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
201/213

約束の酒




「ドリンクは何にしましょう」




「うーん、どうしようかな。誘っておいてなんだけど俺バーとか初めてなんだよね」




 こっちの世界に転生する前はアルコール弱男だったのでこういう場所は初めて。


 どれだけ弱いか?そりゃアルコール、チェイサーチェイサーチェイサーチェイサーチェイサー、アルコールぐらい。


 新陳代謝が良くて弱いからすーぐアルコール回ってぐっない…眠気が来ちゃうもの。




「かっかっか。なんだ、あんちゃんもかい。少し身構えていたのが徒労だったな」

 



「でしたらこちらがカナタ様の好みやイメージでお作り致しますが如何でしょう?」




「じゃあそれでお願いします。甘ったるいのも好きだけど、今日は香辛料とかが効いた奴が好みかな。フルーツ程度ならイケるけど」




「なるほど、承りました。ホコラ様は何かお好みの物は?」




「おれぁここでしかねぇ酒が有ればそれを頼む。無ければ名産品使った奴でも良い。折角こんな遠くまで来たんだ、この国の味を知りてぇからな」




「それはそれは…承りました。少々お待ち下さい」




 ひゅん、とタロンさんの目の前でシェイカーが回る。


 同時に見えてない筈の真後ろの棚から無造作に選んだ液体の入った瓶。


 背後で軽く投げたそれはくるくると周り、再び両手に収まる。


 左手だけで器用に開けられたそのお酒はシェイカーへと適量に入れられては再び数種の瓶が舞い、封を閉められたシェイカーがタロンさんの手元で踊った。




「ほう…、見事なものだなマスター。三つのシェイカーを同時にか」




「はは、恐縮です」




「良くそんな器用に手早く華麗に出来ますね」




「慣れですよ。それに……〝戦闘〟の激しさに比べれば容易いものです。さぁ、お二方、出来上がりました」




 俺たちの会話に答えながら、グラスへと注がれた二つの液体。


 一つは琥珀色、もう一つは下に紫、上に黄金色をした液体か注がれていた。




「こちらの琥珀色の方がカナタ様の好みとイメージをしたカクテルになります。スパイスの加わったウイスキーとこちらの特産のモカレミを少し加えました」




 美味しそうな説明を一区切りし、次は二色の方。




「こちらにも特産品のモカレミ、それともう一つの特産品のベリー達をふんだんに使った二色のカクテルです。二種の酸味、甘味は女性の他に男性、大会上位者にも愛飲されるものとなってます」




「この匂い…どっかで嗅いだ事が……あ、思い出した、牙狼族の村だ」




「ええ、その通りです。前大会決勝で活躍した牙狼族の片方はこれを好んで飲んでいました。あそこら辺は新鮮なベリーが取れる森がありますからね」




「へぇ、そりゃ興味深い…ッと、マスター、おれはあんたの強さにも興味があるな…今回はやる気は更々ねぇけどよ?」




「ふふ、それは助かります。さぁどうぞ迎えて上げて下さい」




 マスターを軽く指刺すホコラの意見も最もながら、早速作ってくれたお酒を頂くとしよう。




「それじゃ、お疲れさん」




「おう、お疲れ」




 グラスのぶつかる軽やかな音が一つ。くい、とグラスの液体を飲み干す。


 まろやかな甘い風味と、心地よい酸味が口内いっぱいに広がった。




「くぁ〜…ッ!美味い!甘味と酸味、そして喉にくぁーっとくるアルコールとスパイシーな後味が最高!タロンさんこれすげぇ美味しい!度数もちょうど良くてこれ好き!」




 ふわっと残る甘い香りと喉奥でぴりりとくるアルコールとスパイスの余韻は、次に口に含む食べ物をより上質な味にしてくれるだろう。


 ウイスキーに辛口のジンジャーエールを入れた奴に味は近いが、そこに合わさるモカレミの優しいとろりとした甘さと程よい酸味が堪らなく美味い。なぁにこれ美味すぎる。




「こりゃあ美味い。モカレミとベリーの二種類の甘みと酸味が見事な重なりをしてる。後味に残るベリーの僅かな渋みが肉料理に合いそうだ。アルコール抜けば幼い者も飲めるな」




「ありがとうございます。ご希望がございましたらもう一度お作り致しますが?」




「「じゃあこっちのを」」




「気が合うねぇ」




「そりゃそんなに美味そうにしてたらなぁ、かっかっか」




「そらお前もだ。はっはっは」




 指差す互い違い、対称的な視線。どうやらホコラも同じ思考をしていたらしい。


 注がれる酒、流れる会話、溢れる笑顔。


 たわいのない会話の間、ホコラは何処から来たかと言う話題に、ふとタロンさんがグラスを拭きながら口を開いた。




「…そう言えば、〝ヤシロ〟さんと〝フブキ〟さんは元気でいらっしゃいますか?」




かしらあねさん?なんだ、知り合いなのかマスター。双方元気だよ、かしらは相変わらず最前線で戦ってらぁ。っんく…ここに来たのはかしらの命でもあるしなぁ…」




「なんだよ命って…んあむ…んーうめ〜」




「気にすんな、おめぇは知らなくても良い事だ。…ん?」




「けっ、ぽろっと教えても…ん?」




 ふと、ドアの開く音が聞こえた。


 予約制のこの場所に来れる人物は限られている。それは人避けの為にこの時間はそういう結界が張られているからだ。


 とまぁ怪しい人が来たような雰囲気を出してるが、心配はいらない。何故ならば──




「よぉ、やってんな、カナタよ」




「おう、久しぶりだな。鬼人族の村ぶりか?」




 ホコラと同じく誘っておいた人物。


 左眼にアイパッチ、まるで山賊のような人化状態の、友人ヴィレットがそこでギラリとした笑みを浮かべていたからだ。







「どうだったよヴィレット、俺が使った空脚(お前の技)は?いずれお前を越すぜ?」




「動作が大きい、タメが長い、移動でギリギリ合格って所だろ。お前に我は本気を出した事は無かったからな」




「少しは悔しがれよテメー。お前の苦手なくすぐりを一時間シラタマ達にさせてやろうかおおん?腕力なら既に俺の方が上ぞ?おおん?」




「ホコラと言ったな?見事な剣捌きだった。まともなぶつかり合いならお前の勝ちであったろうに」




「お?そうかい?あんさんの噂はかねがね聞いてるよ。うちのかしらとも話が合いそうだしなぁ」




「あからさまに話逸らしてんじゃねーぞコラ。くっ、シラタマを置いて来てしまったから手が足りん…今頃お腹いっぱいで夢の中だからな…!」




「酒でなら勝負してやるぞカナタ?ドワーフの火酒と鬼殺しのカクテルでやるか?」




「死ぬわぼけ、おめーはアルコール効かない体質だろ、勝負にならねーよばーか」




「かっかっか。聞いてて飽きねぇなぁ。マスター、もう一杯くれ」




「はい、先程のでよろしいですね」




 気楽なやり取りを交わしては酒を口に運ぶ。コイツとこゆなやり取りをするのも久しぶりだ。ルギくんの故郷、鬼人族の村では会ったものの、ほんの少しの会話だけだったからな。


 などと考えていると、ヴィレットが俺にある事を口にした。それは大会の事だった。




「…カナタよ」




「おん?」




「ムクゲは強いぞ。見た目に騙されて足元を掬われるなよ」




「そういや戦った事があるんだったな、油断はしねぇ、能力の使い方も分かった。慢心もしねぇ、そこまで俺は強くねぇ」




「身体系のお前とは違って奴は放出系だが…お前と何処か似ている。我にはそれが分からんがな」




「注告どうも。ロスから〝どういう戦いをしたのかは〟聞いてるけど……まぁ、そっちこそ負けんなよ。準決勝はソウコさん達だろ、シュエンさんが張り切ってたぞ」




「ぐはははっ、シュエンか、前回は組み合わせが悪く戦えず終いだったからな。望む所だ、我も前回とは違う。決勝で会おうぞカナタ」




「おう、あの頃(牙狼族の村)とは違ぇ所を見せてやるよ」




「かっかっか、良い酒のつまみにさせて貰いますぜぇ。頑張って下さいなぁ…んっく」




 アルコールが、会話が、夜をすっかり老けさせた。


 明日は準決勝。この世界だとすぐにアルコールは抜ける身体になった為にこんな事が出来る。


 胸元のポケットですっかり眠っているシャクを布団に寝かせ、先に寝てるシラタマとルギくんの寝顔を見ては自身も布団に入った。


 明日の朝、改めて今日の試合の様子を皆んなで確認しないとな。


 俺達の試合の後、残りの三試合、ムクゲ、ヴィレット、ソウコさんの試合を…!!







 朝、早めに起きては皆んなで他の試合の様子を魔道具で鑑賞する。


 そこに移される映像にルギくんの表情が曇っていた。




『決着──ッッ!!圧倒的、圧倒的な実力!我が国のギルド員達がまた一人と脱落して行きマース!!!』




 そこには──ルギくんの知り合いでもある、ギルド員達の悲惨な姿が写っていたからだ。

──カナタが酒飲んでる間の出来事──




シラタマ


「ふにゅーん!」




黒スライム


「ぬーん!」




ゼーベック


「何してんだ?コイツら…交互に乗っかりあって…」




ダグ


「多分上下関係を競ってるだなぁ…あ、シラタマが勝った」

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