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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
178/213

色男対王子




「…王子、すみません。負けてしまいました」




 バツの悪そうな表情に連動するように、長く、腰元過ぎまで伸びる、茶色いおさげの髪がしゃなりと揺れる。


 シュミィを医務室へと運び、既にステージ横に戻って来ていたイネアに膝を着いてこうべを垂れるレスティーナだが、彼はそれ制するように右の掌を向けて口を開いた。




「良い、顔を上げてくれレスティーナ。お前を過小評価してる訳では無いが……そんな気がしてはいた。彼の評判の聞こえは悪いが実力は確かだ……お前の戦意を鈍らせると思って黙っていたわたしを許してくれ」




「…!そんなッ、王子は何も悪くありませんッ!!全てはあての実力不足が招いた事!!シュミィのかたきも取れず、相手の掌で踊るような惨めな──」




「レスティーナ」




「ッ!」




 彼女の言葉を、イネアが遮った。


 少し強めの言葉で放ったその彼女の名前。


 否定を続けて俯きつつあったその表情を上げるとそこにあったのは強めの言葉とは反対の──悲しそうな…怒りと悲しみが混じったイネアの顔だった。




「それ以上…〝わたしの部下を否定する事は例えお前自身でも許さん〟。お前の本来の仕事は攻撃では無く守りだ。それを忘れるな」




「王子…」




 強く、そして優しげな声だった。


 少し熱くなる目頭を押さえる彼女から視線を外し、イネアは表情を切り替えるように鋭く目を光らせた。


 目線はもちろん…ステージの方へ。




「さて……わたしの〝大切な〟部下の仇を取らねばならんな」







「さぁ後が無くなった牙獣岩!!いよいよパーティのリーダー且つ我らが国王、ハウィ様のご子息、イネア様が大将としてステージに登場ダァアアアアアアッ!!」




──オオォオオオオオオオオ!!




「はは、皆、元気で何よりだ」




──キャアアアア!!イネア様ァアアアアアアア!!


──イネア様ぁあああ!!〝幸食亭こうしょくていで店員にちょっかいかけてたそのクソ野郎をぶっ飛ばしてくれぇええええ!!


──聞き捨てならねぇな、ちょいとその話し詳しく頼む兄弟。




 ステージに上がる灰色の長い髪を一つに結えた長身の男がその実況と共に沸き立つ歓声に優しげな笑みを浮かべては手をゆっくりと振った。


 他のパーティの仲間の黒い軍服とは反対の、白を基調とした金の装飾煌めく衣服を身にまとうその手足は長く、気品に満ちたその顔立ちは正しく王子と言えよう。


 女性はもちろんの事、男性の歓声もちゃんも聞こえているのは彼の人気が顔だけでは無い事かちゃんとうかがえていた。


 男性の歓声で別の意味で少しばかりざわめいてはいるが。




「おお…側でみるとほんとデケェな、カナタ以上か?……噂は聞いてるぜ、優しげな顔に相応しい温和で紳士的な性格をしながらも、ハウィ国王譲りの武闘派であるアンタの事はよ」




「それはどうも。体格は父譲りでね、特別扱いは苦手ではあるが……そちらの噂も聞いているよ、〝とある事情で我流の実力を磨いた変わり者〟、そして大した女好きだとね」




「…は!そこまで知ってるたぁな。…おっ、やべ、こういう話し方って不敬になったりしない?」




「構わない。気にしなくとも良いさ、ここには一人の選手として立っている。部下のかたきも含めて本気でかかって来てくれ」




 見上げる程の背丈に驚くゼーベックだが、慌てて自身の口調にハッとするものの、それはイネアから構わないと言われ息を着いた。




(…やっべ、ついつい普段の口調で話しちまったが…それもそうか、そんなの気にしてこの大会に出る訳もねぇな。しかし……〝話しやすい王子様〟だこと。こりゃこの人気っぷりも頷けらぁな)




 貴族は面倒くさくて嫌いであったゼーベックだがそのイネアの話しやすい雰囲気に舌を巻いた。


 ミーション国、国王ハウィ・ロクソドンタの実子、イネア・ロクソドンタ。


 国王とは話した事ことこそ無いゼーベックだが、イネアの様子を見て改めて「民に好かれた王族だ」と認識した。




「いけー、ゼーベックをぶっ倒しちまえー」




「頭を重点的にお願いしますー」




「股間でもいいですだー」




「お前等味方だよなぁ!?」




 イネアの雰囲気に冷や汗をくゼーベックにカナタ、ロス、ダグ等のとても同じパーティの仲間とは思えぬ声が飛ぶのに対して大声で答えた。


 それもその筈、ゼーベックは予選、本戦、そして日常で散々と言うほど女性問題を起こしている。多少仲間以外からボコられても良いという理由での言葉の羅列だった。




「…ッ、まぁいい。アンタをぶっ倒してこの女性の人気をオレのもんにしてやらぁ」




「なるほど、確かに要注意人物のようだ……審判、始めてくれ」




 仲間の声援《罵声》を歯痒そうにするものの、切り替えたようにこちらを向く彼にイネアは苦笑した。


 イネアの言葉に審判の右手が上がり、口が開く。




「副将ゼーベック対、大将イネア!──始めッ!!」




「初っ端から行かせてもらうぜ王子様よぉ!!──寒波!熱波ァ!!」




「おおっトォ?ゼーベック選手、開幕と同時にけしかけタァ!!予選で見せた熱属性の攻撃ダァー!!イネア王子──いや、イネア選手はどう迎え撃つノカーー!?」




 審判の言葉を皮切りに、既に臨戦体制であったゼーベックの両手に魔力が集まる。


 凝縮ぎょうしゅくしつつあった〝熱属性〟のエネルギーがゼーベックの両の掌から解き放たれた。




(早い、予選の溜めは嘘…なるほど確かに戦闘の腕は確か。だが──)




「ッ!?」




 迫り来るその対称的な熱の塊に対してイネアは黙ったまま、す、と右手を空にかざす。


 魔力が右手に瞬時に集中、彼の魔力の〝色〟である〝灰色〟がその白い軍服によってあらわになった。


 優しげな表情から一変して鋭くなるイネアの目が光る。二つの衝撃音が鳴り響く──




「──わたしとは〝相性〟が悪いようだな」




 イネアの前方にそびえ立つ、〝二つの石塔〟がゼーベックの熱の塊をかき消していた。




── 一方観客席のシラタマとルギくん──



ルギ



「オレもイネア様好きー。王都で迷子なった時に助けてくれたー」




ラン


「イネア様は小さい子にも人気ですからね。趣味で王都内をたまに散歩するらしいですからその時に見かけられたんでしょうね」




ノン


「おー、どうしたシラタマちゃん、眉間に皺寄せてー?人気に嫉妬かー?」




シラタマ


「にゅにゅにゅにゅにゃ…!」




※お知らせ 次週4/9の更新は休載します。次話の更新は4/16になります。

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