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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
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愛らしい狂気の射手




 白く小さい手がふかふかの茶色い毛に覆われていく。


 顔も同様に変化していく、段々と変化していくそれはカナタにある動物を思い出させた。




「長い垂れた耳……あれはウサギか!?オルドと同じ、獣人が人化してたのか!!」




「おーットォ!!!オルド選手と同じく、シュミィ選手の姿が変わって行くゾォオオ!?巨大なボウガン持つ手がふかふかのぉ……おお、なんという事でしょウカ!!ウサギの獣人デス!!シュミィ選手の凶悪さとは裏腹に可愛らしい獣人だッタァ!!!」



 カナタの言葉に続くように実況の声が響く。


 人化は……そうそう易々と出来るものでは無い事を、自身の兄弟子でもあり、友である、牙狼族のヴィレットの様子で知っている。


 その人化が出来る事の最大のメリットとは──気による身体の調整、つまり身体のコントロールだ。


 人化から元の獣人の姿に戻ったと言うことは……!!




「っつー事は…ッ!やべぇ!気を付けろロス!今までの戦い方とは訳が違うぞ!!」




「…ッ!」




 ゼーベックの叫びに気を引き締めるものの、人化した状態であの大型弩砲バリスタ並みのボウガンを容易く扱う身体能力を持っていたのだ。


 先ほどの戦いのオルドも獣人だったがあれは付与系…身体系である彼女が獣人の力を開放した…真の力は未知…!!




「行くぞクソッタレがぁッッ!!!」




──ッ。




「早いッ──バカなッ!?」




 シュミィの姿がブレたと思ったその瞬間、矢が切り裂く音が聞こえた。


 己の目の前に三つ、〝横並びに迫り来る〟鋭き矢が空気を切り裂く音が迫り来る──!


 もちろんロスも黙っていた訳ではない、すかさず目に身体強化をかけ、滑り込むようにその矢を避ける。




(跳べばそれは良い的になる…ッ!考えろ…これを避けて──ッ?)




「──避け切れる本数だと思ったのか?あ゛あ゛ん!?」





 灰色の瞳をキツくさせながら、長い耳をたなびかさせたシュミィの噛み付くような声がロスの思考を止めた。


 その目の前に映るのは── 十字に迫る十本の矢の猛襲。


 全てのやじりの標準が…自身に、寸分の狂いも無く!!




(くッ!!身体強化最大で防御を──ッ!!!)




 避ける事は叶わない、せめてもの抵抗にロスは両腕を前に防御の体制ををするがその黒き十字架は無常にも時を進む。




エウス・ルクソス(十字に許しを乞え)──ッ!はりつけになりなァ!!!」




「がぁああああああああああッ!!!」




 次々と身体に突き刺さって行く矢と共に身体が後ろへと流されるのをロスは感じ取った。


 凄まじい衝撃だ。このままでは壁に叩きつけてしまう。


 身体に刺さる矢は深くは無いが、壁に叩きつけられてしまえばどうなってしまうかは分かっていた。


 痛みを堪える為に、矢から守る為に、ロスは後先を考えずに全力で防御に神経を、能力を集中させる。




「ロスぅうううううう!!!!」




 黒き十字架に身を共に飛ばされた仲間の姿にカナタは思わず叫んだ。


 ぶしゅり、と何かが飛び散る音。続け様にステージ上に張られたであろう結界のようなモノにロスの身体ははりつけにされていた。


 ガラスの様に宙をひび割れさせたその結界のようなモノはすぐに消え、矢だらけになったロスの肉体と、当たらなかった分の矢ががらりがらりとステージへと落ちる。


 息はしているものの、その呼吸は弱く、身体中から血を流したままだった。




「ロス、試合を続行するか」




「ご冗談を…ッ…僕の負けですよ」




「勝者シュミィ!!医療班!!すぐに手当てを!!!」




 仰向けに倒れたロスの言葉に審判の男が右手を上げて叫んだ。


 慌ただしくなる医療班の人々の様子を他所よそに、実況のピピが高らかに勝者を称えた。


 続くように沸き上がるは観客の盛大な歓声と、両者を誉め立てる拍手の音だ。




「決まっターーーッ!!!二試合目を制したのは愛らしい凶器の射手、シュミィ選手ダァアアアアアアア!!」







「悪いな。負けちまった」




「気にすんなよロス。ありゃ相性が悪りぃ。〝戻って来たアイツ〟の代わりに今度はおめぇが休んでな」




 運ばれて行くロスにそんな皮肉を込めてゼーベックは軽率にそう口にした。


 その言葉の意味する物は治療を終えて帰って来たダグの事である。


 担架にて運ばれて行く最中にも医療班による麻酔らしき魔法がかけられており、〝急所が無事〟なのもあって意識はハッキリとしていた。




「戻って来たらロスがぶっ倒れててびっくりしただよ。大丈夫そうだったかゼーベックぅ」




「問題はねぇな。〝審判が致命傷になりそうなのは守ってくれてた〟からな。流石〝見えざる窓のレバリー〟だな…あの矢の猛襲から瞬時に、かつ正確に致命傷になりそうな箇所を守れるとはな」




 ロスの見送りを終えたゼーベックにダグは心配そうな声にそう軽く返した。


 ステージ上にいる、紫色の長髪の審判では無く、ステージ横で気怠そうに欠伸をする空色の髪をしたボサボサ頭の男を見てゼーベックは息を飲んだ。


 なるほど、これなら思う存分闘える訳だ…と。




「で、どっちが行くよゼーベック。俺が行ってやっても良いぜ?」




「は、冗談!かわいこちゃんの相手はオレに決まってんだろうが!〝相性〟もあるしなぁ…カナタ、おめぇの出番はもうねぇぞぉ?あの王子もオレがぶっ倒してやらぁ!!……そしてオレは王子の人気をも取ったモテ男に…!!」




「……そか…まぁ、頑張れ」




「…うん、それが正解だどカナタ。黙っておいた方が良いだ」




 ぐふふ、と不気味に笑いながらステージへ向かうゼーベックを尻目に、「それは逆に反感を買って女性陣に恨まれるのでは」という言葉を飲み込んでは軽いエールを送った。







「ゼーベック対シュミィ!始めッ!!」




「随分と愛らしい姿になったじゃねぇの──ッぶね!?」




 開始早々に放たれた矢をゼーベックは身体を横にずらすように避けた。


 少し会話を、とかけた言葉だがどうやらあの大きくなびく耳には届いていないらしい。


 返答の代わりとも言えないような彼女の凶悪な言葉がゼーベックに放たれた。




「ハッ!!良く避けたじゃねぇかクソ男!!さっきの男見たく矢だらけにしてやるぜ!!かわせるもんなら交わしてみな!!!!」




──ッ!




 僅かにブレたように見えたシュミィの姿から、次いでその言葉のように凶悪な矢が三本、全く別の方向から放たれた。


 獣人の身体能力と身体系の能力を使った高速移動の三連続の射撃。


 ロスのような能力はゼーベックには無い……だがゼーベックは──〝避けずに笑って〟いた。




「ッ!?…な、何ィ!?」




 するり、と矢がゼーベックを──〝避けた〟。


 ゼーベックはその場所から全く動いておらず、シュミィがミスをした訳でも無い。


 笑ったまま、ゼーベックはシュミィを見つめて口を開く。




「やっぱり──〝相性〟が良いねぇ!」




── 一方観客席のシラタマとルギくん──




ルギ


「ああ、ロス兄ちゃん…大丈夫かな……次はゼーベック兄ちゃんか、今のうちに飲み物でも…」




ラン


「ハーブティーはいかがですかルギくん。はい、シラタマちゃんのも」




シラタマ


「ふにゅー♪」




ノン


「ゼーベックさんの扱いが雑でノンお姉さんびっくり。今スコーンも出すねー」

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