先鋒 ダグ対オルド
…
「まさか初戦だとは思わなかったな」
対戦が行われるパーティ以外が掃けたステージ横にて本音を零す。
バルロさんから告げられた初戦の組み合わせ。
あの数ある内のパーティから自分等が最初に呼ばれるとは思いもせず感嘆の声が溢れた。
「まぁ、こればっかりは運だからな。しゃーねぇよカナタ」
「それもそうか。ところでお相手の牙獣岩ってのはどんなパーティなんだ?」
名前からして強そうな雰囲気がむんむん。ちなみに対戦相手の全ては把握していない。
相手の研究はすべきだがそれは自分等のある程度の強さがあってこそ。慢心はしない為にゼーベック達との修行に時間を費やしていたからだ。
「ハッ、お前らしい質問だな?〝親衛隊〟だよ。すぐ分からぁ」
「?……おっ」
呆れたように鼻で笑うゼーベックに疑問が浮かぶが、それをかき消すように実況の声が響いた。
「さぁ初戦の組み合わせのパーティにご注目ゥ!予選にて本戦常連のガドゥーラとアイゼン・アイズを下したスタナー・テラポス!対するは我らが国王、ハウィ様のご子息!イネア・ロクソドンタ王子が率いる牙獣岩ダァアアアアアア!!」
「お、王子ぃ!?」
実況の声と共に湧く歓声とは裏腹に、俺の口からは驚きの声が出た。
お、王子がこんな物騒な大会に!?…あ!いやまて国王事ハウィさんはこの大会の優勝パーティの一人、何もおかしい事は無いのか。
こちらから見えるのはパーティの内、三人が黒い軍服に身を包んだ人物だ。
焦茶の長いおさげ髪が腰まで伸びた長身の女性に、ソフトモヒカンをした巨漢、栗色をした肩過ぎの髪を束ねて二つにした片メガネを右眼にかけた女性の三人。
その中央には椅子に腰掛けては両手を目の前で組みながらこちらを見る男性がいた。
長い灰色の髪が一つに結わえられ、左肩前にしゃらりと流れている。
恐らく…あの人が牙獣岩のリーダー、そして国王ハウィさんの実子、イネア・ロクソドンタだろう。
「さぁ今回のルール行クゼェェエエ!!──コレダァアア!!」
実況のピピさんが声高らかにスクリーンを指差す。
そこに記される今回のルール。それは──
「勝ち抜き戦──か」
「さぁパーティは戦う奴を一人選出してくれヨォ!!観客が待ってルゼェ!!!」
「誰が行く?」
「最初はオラが行くだよ」
「ダグ?……よし、頼んだぜ」
その声に俺は驚いた。同じくゼーベックも驚いたようだが、ダグの表情を見て肯定をした。
違うのだ。いつも笑顔で穏やかなあのダグでは無く、何か決意を決めた男の顔をしていたのだ。
ステージに上がる向こうのお相手はソフトモヒカンをした巨漢らしい。
審判をするのは予選と同じ、鮮やかな紫色の長髪をした男性だ。〝薬針のナード〟だったか。
「先鋒、ダグ対オルド!──初めッ!!」
ダグが符術によって収納していたバズーカを取り出し、相手目掛け引き金を引く。
対するオルドはそれを真横に避けては背中に背負っていたであろう両刃の巨剣、グレートソードど呼ばれる物を振り下ろす。
しかしそれはダグも同じ事、後ろに下がってソレを避けては引き金を引く。
まずは様子見──そんな攻防だ。
「なぁ、お相手の人ってダグとなんかあんの?」
ダグの様子が気になった俺は不意にそんな事を二人に尋ねた。
「んあー、何だっけか。ロス、何だっけ?アレだよな、昔の友人だとかなんか」
「ええ、そうらしいです。向こうのお相手のオルドはダグと幼少期に〝喧嘩別れ〟した友人だとか」
「〝喧嘩別れ〟!?あのダグが!?」
ロスの言葉に俺はまたもや驚いた。あのいつも穏やかなダグが喧嘩別れ。確かにいつもは見ない顔付きだったけど……まさかそんな事が。
「変わって無いなダグ。戦い方も、その古い魔武器を使っているのも」
発射された鉄球がステージに撃ち込まれ、破片を飛ばしては破砕音を奏でる。
避けては巨剣を繰り出すオルドはイカつい表情を変えずにそうダグに語りかける。
装填の隙を狙い、近付かれたダグにその巨剣が肉薄した。
──ッ!!
響き渡るのは刃が肉を裂く音では無く、重々しい金属音。
「そっちは大分変わっただなぁ!!だどもこの魔武器は近距離でも戦えるように改良してあるだよ!!」
バズーカの砲身の下、反動を抑える為の部分を持ち、巨剣の一撃を防いだ。
それは既にバズーカの持ち方では無い──トンファーのそれだ。
ダグは自身の魔武器に能力をかける事でそのバズーカの強度を増やしていた。
ぐるり。
防ぐだけでは無く、その反動を己に伝え、魔武器と共に回転。
己の体重とその勢いの乗った、バズーカ・トンファーとともに放たれたのは左のバックブロー。
──ッ!!!
「ぐっ!」
鈍い音と共にオルドの身体が真横に吹き飛ぶ。
だがダグはそれを黙って見ている筈も無く、素早く魔武器をオルドに構え、引き金を引く。
弾は既に回転中に装填した。着地を待たずにそれはオルドに向けて放たれる。
火薬量を増した、着弾と共に能力を放つ──重い一撃を。
「〝加重弾〟!!!」
着地点へと向けられたそれは逃れられない攻撃。
決まるか──そう思ったのも一瞬、次に聞こえた金属音に目を見開いた。
──ッ!!
ギン、と聞こえた鈍い金属音。
大きな砲弾が真っ二つに裂け、オルドの後方へと斬り飛ばされていた。
「速い…ッ!今物凄い速さで身を翻してはダグの砲弾を斬り飛ばしやがった!!」
「それだけじゃねぇ…!〝人化〟状態を解きやがったぜカナタ…!」
ゼーベックの言葉にオルドの姿を改めて見てみると……そこには鎧のような身体をした、鼻先に巨大な角を一つ、ついでその後ろに小さな角を生やした獣人が居た。
そのオルドの姿にロスの口が開く。
「…サイの獣人だったのか…ッ!人化を解いたと言う事はこれからが本番……ッッ」
「…人化を容易く扱える実力はあるって訳か……!それにまだ能力が分かってねぇ…ダグ…!油断すんなよ…!」
「……」
人化を解いたオルドの姿にダグは黙ってそのバズーカをトンファーのように持ち替えて構えた。
ずしりとした足音を立て、オルドは口を開く。
「なるほど、流石にあの頃とは違うな。その古臭い武器を未だに使っているだけはある」
「こっちもやっとその姿になったから存分に本気を出せるだよ。あの頃はスピア、今はグレートソード。今までどれだけの種類の武器に鞍替えたか分からねぇだが……付け焼き刃でオラには勝てねぇど!!」
ダグの事も最もだ。武器というのは良し悪し、人によって合う合わないがある。
一つの武器を極めるのには多大な時間が必要、ましてや複数など極々《ごくごく》僅か、一部の天才と呼ばれる人だけだ。
ダグがあの武器をどれだけ使って来たのかは一緒に修行した俺も分かっている。
──だが、違った。
「ああ、確かにわすは過去に様々な武器を使ってきた。これにしたのは──」
──ッ。
オルドの姿が消えた。そして──
「……ッ!?」
「これの方が一番敵をぶっ飛ばしやすい」
グレートソードを横なぎに、ダグの巨漢を軽々と吹き飛ばすオルドの姿がそこにあった。
──一方お店の手伝いをしているシラタマとルギくん──
ルギ
「早く早く!シラタマってば行くってのにいつまで食べてるんだからー!」
シラタマ
「にゅ〜…」
ノン
「ルギくん、キミのファンになった人達をしれっと店長が引き止めてたの忘れないようにするんだよ〜」
ラン
「売り上げが伸びた弊害ですね〜」




