失わない為に
新年あけましておめでとうございます。
現在武術大会編ですがますます盛り上がって行く予定です。
今年もうちの子達共々「ヘタレの努力家」をよろしくお願いします。
「ほら着いたぞ。横になって楽にしろ」
横になれ、とデンイに促され、肩を貸してもらい布団のある場所へと移動する。
どうやらここにデンイ達が寝泊まりする場所らしい。
「……」
じっとりとした汗が頬を伝う。
暗かった。視界も、感じた物も、何もかも。
ふと、感じてしまった〝ぬたり〟とした死の気配。
突然襲いくるような死の気配では無く、自ら足を向ける、スムーズで恐ろしく、それでいて抗おうと出来ない鋭くあっさりした死の気配。
あれが──能力の──俺の闇。
デンイはこんな辛い修行を繰り返していたのか。
「気にするこたぁねぇカナタ。おいとお前は〝スタート〟がちげぇ。…クッソ、あのジジィふざけやがって……!」
「…〝スタート〟が違う?お前もああいう修行なんじゃないのか?」
ふとデンイの言葉にそう零す。
同じ、能力の限界の境い目を知る修行なんじゃないのか?
「馬鹿野郎。お前はおいと違って死ぬ前の世界でそういう〝命のやりとり〟をした経験はねぇだろうが」
デンイの言葉に確かに、と心の中で頷いた。
そりゃあそうだ。一般人の俺なんかはそんな命を脅かすような生活はしていない。
食料を得る狩りの時なんかは裂け目から出る臓物に思わず胃の中の物がおろろろしてしまったぐらいに耐性が無かった程だ。
続けてデンイは口を開く。
「あの修行は死に〝触れに行くモノ〟だ!お前みたいに過労死なんてえげつねぇ死に方なんざそのまま死んじまっても可笑しく無かったんだぞ…!」
デンイが何故こんなにも憤慨しているのか、理由が分かった。
──再び、友人が死ぬ……それを恐れているんだ。
「…なんだ。おめぇもじゃねぇか」
「あ゛?何をぶつくさと…ちっと待ってろ。おいがもっと初歩的な修行をジジィに──」
「──待ってくれデンイ」
ゴザ和尚の元に行こうとしたデンイの右腕を掴む。
もう──覚悟は決まっている。
「このまま──修行を続けるぜ、俺はよ」
「馬鹿野郎!!気は確かか!?」
「この世界に居て何が「気は確か」だ。俺も守るもんがあんだよ、お前と同じで失いたくないもんがな」
「……ちッ、妖怪やらと無縁の世界に生きてたおめぇにそれを言われるたぁな。分かったよ」
「ありがとよ………ッ」
礼の言葉を口にしたその時、デンイの視線が鋭く俺に刺さった。
じろりと俺を見たまま、デンイは口を開く。
「──だが、死ぬんじゃねぇぞ。てめぇの葬式を二度もするなんざ御免だからな。大事な事教えてやるから耳ん中かっぽじって聞きやがれ」
掴んでいた俺の手を振り払ってデンイはそう俺に言った。
──てめぇの葬式を二度もするなんざ御免だからな。
全てがこれに入っていた。静かに頷いてデンイに答えた。
その視線に俺も意思と、感謝を乗せて。
「ああ、教えてくれ」
当たり前だ。また死んでたまるか。ありがとよ、親友。
…
「あけび美味し〜」
「にゅ〜」
ベンチに腰掛け、取れたてのあけびの実を楽しむのは額に二本の小さな角が生えた少年と、真っ白な毛玉。
そこへ袈裟を着た、同じくらいの年のふわふわとした狸と狐と猿の獣人の少年、少女が両手一杯の果実を持って訪ねて来た。
「こっちのかきも美味しいよ〜」
「ぶどうもあるよ〜」
「りんごもあるぞ」
ふわふわとした体毛の腕の中にはツヤツヤの瑞みずみずしい果実達。
その果実は全て、この寺で取れたものだった。
「ふにゅ〜」
「ありあと〜。凄いや、色んな果物があるなんて!」
ルギが一つずつ果物を受け取ると、隣に座っているソウコが手に取った林檎を心地良い咀嚼音響かせた。
「うむ、ここは和尚が庭園に様々な食べ物を育てていてな。修行の良い息抜きになっているのじゃよ。修行で磨いた身体を変化させる術、〝変化の術〟を高い所にできる果実を取る為に使ったりな。ちょっとやってみせてくれんか」
「「「はい、……変化!」」」
ソウコがそう言うと、小さい修行僧が小さな爆発音と共に煙に包まれる。
晴れたその場にあったのは……
「ふにゅっ!?」
「えっ消えた?」
こわん、と心地良い音と共に現れたのは果実が入った鍋、バケツ、フライパン。
それは〝変化の術〟で化けた小さな修行僧達。
「これが〝変化の術〟じゃ。魔力量によるが姿を帰る事が出来る。……まぁまだ修行の身じゃから耳やヒゲや尻尾が見えてるがの。戻って良いぞ、ありがとう」
「「「はーい」」」
「あっ、戻った」
「ふにょー」
再び小さな爆発音も共に煙が晴れると、そこには元に戻った小さな修行僧達。
くそー出てたかー
うそ妾のヒゲ出てた?
ばかな尻尾が出ていただと…
そんな事を呟きながらそれぞれ果実を口にして身体を休めていた。
かりゅ、とソウコが再び林檎を口にして空を見上げる。そしてそれを飲み込むと、先程カナタがいた方を向いて口を開いた。
「…さて……そろそろかの。カナタが例の修行に入るのは」
…
「…ほう、再び、あの修行を受ける勇気があるか」
仮眠していた部屋から出て再びさっきの場所、ゴザ和尚の前に立つ。
俺たちの姿を前に、ゴザ和尚は感心した声でそう腕を組んだ。
「やります。俺にはそれを知らないといけないので」
「……良かろう」
「一つ聞くぜジジィ。カナタにいきなりあのレベルの修行をさせたのはなんでだ」
目を瞑り、頷くゴザ和尚に、指を差しながら食ってかかるようにデンイがそう聞いた。
どうやらあの修行には段階があるようだ。
「お前がそう怒るのも分かる。すまなかったな。だが〝ある確証〟があってそうしたまでだ。カナタはお前と同じレベルの修行を受けれる精神力がある」
「……はぁ……そうかよ。だがおいに一言ぐれぇ声かけろよな。あんたの実力は分かってるが国は同じでもおい達とは生まれも生きた時代もちげぇ。あんたらのいた時代の人間じゃあねぇんだ」
「ふふふ、分かっておるとも。お主らを見るとガイゼル様や幹部達が如何に優れていたかもな」
当然、というようにゴザ和尚はそうほくそ笑む。
あ、少しかっちーんと来たぞ。
「おーし、あったま来た。おいカナタ、とっととこの修行終わらせんぞ」
「おーけぃデンイ。俺もすこーしかっちーんと来た所だ」
「ならば始めよう。準備は良いか」
組んだ腕を解いてそう言うゴザ和尚に従い、また座禅を組む。
すると、デンイが俺に言葉をかける。
「忘れんなよカナタ。〝今〟を思い出せ」
「ッ!──ああ、過去に取り殺されてたまるか」
そして、意識がゴザ和尚の言葉によって刈り取られる。
再び、────トラウマの世界へと。
「では──行くぞ…ッ!」
…




