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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
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白い閃光

夏休み……?取ったぜ!一日!←




「簡単だがこれで良いだろう。悪いな、俺にはこのぐらいしか出来ねぇ」




「…くー」




 シラタマの上に乗る小さな白い生き物にそう呟く。


 それに答えるように、その生き物は弱々しく鳴いていた。


 魔物とコイツの親の争いで折れたであろう木々を加工し、簡単な墓を二つ。勝てぬと分かっていながらも、前を向いたコイツの意思の為に。


 もっと早くきていれば──などと仮定の話しをするつもりは無い。


〝コイツは生き残った〟…その現実に目を向けるべきだからだ。




「お前がこれからどうするのか、決めろ。野生に帰るもよし、俺達に着いてくるもよし。その命を…どうするかを」




「にゅっ」




 俺の言葉に合わせるように、シラタマがほよんと小さく跳ねた。


 姿が〝似ている〟コイツはどう思っているのだろうか。俺の……この甘っちょろい行動を。




「……く!」




 少しの沈黙、後にその白い生き物は強く、短く鳴く。


 沈んでいたあの表情は無い、決意を定めた顔がそこにはあった。




「ふにゅ」




「…そうか。なら否定はしない」




 こくんと頷いたシラタマに合わせてそう呟く。どうやら着いてくるようだ。




「……話しは纏まったかい、あんちゃん。なら早々にここから立ち去った方が良い。血の匂いに釣られて猛獣がくるぞ」




「ええ、そうします。助太刀(すけだち)感謝します。この大きい方の魔物は貴方の手柄です。どうぞ持っていって下さい」




 無精髭(ぶしょうひげ)の男に俺はそう返す。


 改めて見ると見事な切断面だ。あの巨体の装甲が歪む事無く真っ直ぐに斬られている。


 真っ二つにしたあの刀にも全く支障も無いように見える。


 これなら素材としても使えるであろう倒し方だ。




「あー、いい、いい。〝(ぜに)は間に合ってる〟からあんちゃんが一緒に持ってってくれ」




 だが、無精髭の男はひらひらと手を振りながらそう否定した。


 それはこちらとしても有り難いが……良いのだろうか?




「…なら今度の時に酒でもご馳走させてくれ。それならどうだ?」




「くっくっく…あいよ」




 くつくつと、無精髭の男はそう短く笑い、続け様にこう呟いた。




「甘いねぇ…あんちゃん。だが……嫌いじゃないぜ、そういうの」




「褒め言葉として受け取っておきます」




 そう返しながら、(ふところ)に仕舞っていた〝あれ〟を取り出す。




「さて、入るかな」




 俺の魔力に反応した〝護符〟がぼやけるように光ると、その魔物の亡き骸が液体のように吸い込まれていく。


 五芒星(ごぼうせい)の空白のうち、三つが灰色に染まった。なるほど、結構容量を食ったな。




「ぶー、オレも使いたかった」




「今度な。ほら食える肉にしてもらいにバルちゃんとこ行くぞ」




「さぁ!兄ちゃん行こう!一刻も早く!」




「にゅややや!!」




「く?く?く?」




「お ち つ け。ちっこいのが困惑しとるわ」




「はっはっは、おもしれーぼうず達じゃねぇか」




 お恥ずかしい。







 カナタ達を見送った無精髭の男が口を開く。


 まるで──誰かに語りかけるように。




「さて……〝出てきなデカブツ〟」




───ォオオオオ!!!




 答えるのは血の臭いに誘われた猛獣の雄叫び。


 先ほどの飄々(ひょうひょう)とした顔から、鋭い目線を後ろに配る男の静かな声に、背後の茂みの向こう、巨大な影が姿を表した。




「アイツら諸共背後から仕留める気だっただろうが……〝来れなかった〟だろう?」




 熊の魔物、ヘビーベアー。


 魔物特有の黒い(もや)を全身から立ち昇らせ、器用に二足歩行でそいつは現れた。




───ゥルルルル…!!!




 見上げる程のデカさの猛獣、ヘビーベアーはその自分より小さな男に──〝後退(あとずさ)り〟をした。


 いや、違う。男の背後に……〝大きな角を生やした影が〟見えていたからだ。


 知らず知らずのうちに下がった己の足を、ヘビーベアーは意識出来なかったのは、己の無知さか、(ある)いは自身の自信からか。




「生憎おれの狙いは〝最初からお前〟でね……助太刀ついでに丁度良い機会だった。あの生き物には残念な出来事だろうがな」




───ォオオオオォオオオオ!!!!




 ヘビーベアーは吠えた。自身を奮い立たせるように。


 こんな小さな生き物に、こんな爪も牙もない柔らかそうな生き物に、と否定するように。


 地を蹴る、我が身は強い。今までもそうだった。


 そう──今までは。


 くん──と、(つば)を左の親指で押し、男は口を開く。




「切り捨て──御免」




 白い閃光がその場に走った。







 チン、と静かな(つば)鳴りを一つ、男は表情を緩めた。




「さて、後はコイツを……チッ、しまったな。あのあんちゃんからそういう手段貰えば良かったか。……仕方ねぇ、面倒くさいが──引きずって行くか」




 首の無い猛獣の亡き骸を見ながら、男はひとりごちた。


 持った右腕にずしり、とくるデカい肉の塊。ああ、やはり重い。


 だがあまり苦では無い、これで〝この大会が終わるまで〟、飲み食いに不自由はしない事は依頼の詳細で知っているからだ。


 彼が持ち帰ったヘビーベアーが祭りの屋台へ並び、祭り史上最高の売り上げになるのは……また後のお話し。




カナタ


「……また毛玉が増えてしまったな」




シラタマ


「にゅ?」




シャク


「いやとぼけた顔したシラタマちゃん。あんたの事だよ?」




ルギ


「何やってんの早く肉…げふん!行くよ!!」


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