白い閃光
夏休み……?取ったぜ!一日!←
…
「簡単だがこれで良いだろう。悪いな、俺にはこのぐらいしか出来ねぇ」
「…くー」
シラタマの上に乗る小さな白い生き物にそう呟く。
それに答えるように、その生き物は弱々しく鳴いていた。
魔物とコイツの親の争いで折れたであろう木々を加工し、簡単な墓を二つ。勝てぬと分かっていながらも、前を向いたコイツの意思の為に。
もっと早くきていれば──などと仮定の話しをするつもりは無い。
〝コイツは生き残った〟…その現実に目を向けるべきだからだ。
「お前がこれからどうするのか、決めろ。野生に帰るもよし、俺達に着いてくるもよし。その命を…どうするかを」
「にゅっ」
俺の言葉に合わせるように、シラタマがほよんと小さく跳ねた。
姿が〝似ている〟コイツはどう思っているのだろうか。俺の……この甘っちょろい行動を。
「……く!」
少しの沈黙、後にその白い生き物は強く、短く鳴く。
沈んでいたあの表情は無い、決意を定めた顔がそこにはあった。
「ふにゅ」
「…そうか。なら否定はしない」
こくんと頷いたシラタマに合わせてそう呟く。どうやら着いてくるようだ。
「……話しは纏まったかい、あんちゃん。なら早々にここから立ち去った方が良い。血の匂いに釣られて猛獣がくるぞ」
「ええ、そうします。助太刀感謝します。この大きい方の魔物は貴方の手柄です。どうぞ持っていって下さい」
無精髭の男に俺はそう返す。
改めて見ると見事な切断面だ。あの巨体の装甲が歪む事無く真っ直ぐに斬られている。
真っ二つにしたあの刀にも全く支障も無いように見える。
これなら素材としても使えるであろう倒し方だ。
「あー、いい、いい。〝銭は間に合ってる〟からあんちゃんが一緒に持ってってくれ」
だが、無精髭の男はひらひらと手を振りながらそう否定した。
それはこちらとしても有り難いが……良いのだろうか?
「…なら今度の時に酒でもご馳走させてくれ。それならどうだ?」
「くっくっく…あいよ」
くつくつと、無精髭の男はそう短く笑い、続け様にこう呟いた。
「甘いねぇ…あんちゃん。だが……嫌いじゃないぜ、そういうの」
「褒め言葉として受け取っておきます」
そう返しながら、懐に仕舞っていた〝あれ〟を取り出す。
「さて、入るかな」
俺の魔力に反応した〝護符〟がぼやけるように光ると、その魔物の亡き骸が液体のように吸い込まれていく。
五芒星の空白のうち、三つが灰色に染まった。なるほど、結構容量を食ったな。
「ぶー、オレも使いたかった」
「今度な。ほら食える肉にしてもらいにバルちゃんとこ行くぞ」
「さぁ!兄ちゃん行こう!一刻も早く!」
「にゅややや!!」
「く?く?く?」
「お ち つ け。ちっこいのが困惑しとるわ」
「はっはっは、おもしれーぼうず達じゃねぇか」
お恥ずかしい。
…
カナタ達を見送った無精髭の男が口を開く。
まるで──誰かに語りかけるように。
「さて……〝出てきなデカブツ〟」
───ォオオオオ!!!
答えるのは血の臭いに誘われた猛獣の雄叫び。
先ほどの飄々とした顔から、鋭い目線を後ろに配る男の静かな声に、背後の茂みの向こう、巨大な影が姿を表した。
「アイツら諸共背後から仕留める気だっただろうが……〝来れなかった〟だろう?」
熊の魔物、ヘビーベアー。
魔物特有の黒い靄を全身から立ち昇らせ、器用に二足歩行でそいつは現れた。
───ゥルルルル…!!!
見上げる程のデカさの猛獣、ヘビーベアーはその自分より小さな男に──〝後退り〟をした。
いや、違う。男の背後に……〝大きな角を生やした影が〟見えていたからだ。
知らず知らずのうちに下がった己の足を、ヘビーベアーは意識出来なかったのは、己の無知さか、或いは自身の自信からか。
「生憎おれの狙いは〝最初からお前〟でね……助太刀ついでに丁度良い機会だった。あの生き物には残念な出来事だろうがな」
───ォオオオオォオオオオ!!!!
ヘビーベアーは吠えた。自身を奮い立たせるように。
こんな小さな生き物に、こんな爪も牙もない柔らかそうな生き物に、と否定するように。
地を蹴る、我が身は強い。今までもそうだった。
そう──今までは。
くん──と、鍔を左の親指で押し、男は口を開く。
「切り捨て──御免」
白い閃光がその場に走った。
…
チン、と静かな鍔鳴りを一つ、男は表情を緩めた。
「さて、後はコイツを……チッ、しまったな。あのあんちゃんからそういう手段貰えば良かったか。……仕方ねぇ、面倒くさいが──引きずって行くか」
首の無い猛獣の亡き骸を見ながら、男はひとりごちた。
持った右腕にずしり、とくるデカい肉の塊。ああ、やはり重い。
だがあまり苦では無い、これで〝この大会が終わるまで〟、飲み食いに不自由はしない事は依頼の詳細で知っているからだ。
彼が持ち帰ったヘビーベアーが祭りの屋台へ並び、祭り史上最高の売り上げになるのは……また後のお話し。
…
カナタ
「……また毛玉が増えてしまったな」
シラタマ
「にゅ?」
シャク
「いやとぼけた顔したシラタマちゃん。あんたの事だよ?」
ルギ
「何やってんの早く肉…げふん!行くよ!!」