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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第2章 王都〜ミーション〜
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憩いの時と命懸けの手がかり

あけおめ。


今年も「ヘタレの努力家」をよろしくお願いします。




「このアトマイザーはRDAのツーポールか。ならめんどくさいからシングルにしてしまおう。二十六ゲージのワイヤーを二本ねじねじしてーっと。後は一番太いドライバーを軸に四巻き……はっはっは、成長した身体のお陰で素手でツイストワイヤーが作れるぜぇ…!」




 アトマイザーとは水蒸気を生み出す場所、RDA(RTAと合わせてRBA)とは簡単に言えば手巻きでコイルを作り、水蒸気を出せるようにセットすること、ツーポールとはまんま電極の柱が2本ある事だ。


 ちなみに既にそのコイルやらが作ってあってジュース…まぁリキッド(液体)を入れるだけのアトマイザーをカトマイザー。


 タンク状になって長く楽しめる物をタンクアトマイザー、タンクカトマイザーと言う。


 色々と細かくはあるが改造可能(いじれる)改造不用(いじれない)かの違いだ。


 ツイストワイヤーとはワイヤー二本を束ねて捻った物で普通は工具を使う。


 ワイヤーの太さ、コイルの数、大きさによるバッテリーの強さの設定などとめんどくさいRDAはもちろん手慣れた上級者向けでリキッドを入れるだけのカトマイザーは初心者向けだ。


 俺はもちろん手慣れているのでめんどくさい方の前者、めんどくさいのも美味しさのひと塩よ。




「ほう、一応〝リビルド〟用に小型ツールとワイヤー数種持って来てはいるが……さすが趣味にしてただけはあるな、見事なもんだ」




 俺の作業を見ているバルロさんが感嘆の声を挙げていた。


 いや貴方の方が凄いですよ。ちなみに〝リビルド〟とはこのセットしているコイルなどを新たに作りセットする事だ。


 一応コイルは付いていたが古いよと言われたので今に至っている。




「──よし、この空気穴(エアホール)ならこのコイルの位置だろう。後は吸水係りのコットンをきゅーっと通して反対側に流して……グリセリンか使って貰って良いリキッドあります?」




「おう、これ使って良いぞ。姉貴が作ってたモカレミ味。なんかモカレミの木がへし折れてたからーって知り合いから貰ってて──どうした?遠い目をして」




「いえ、これからは周りを見ようかなと少し思っただけです」




 こ こ で も か 。


 すいませんバルロさん、その原因俺です。公開処刑みたいで恥ずかしいから気をつけよう。うむ。







「──姉貴!ちょっとコイツの吸って見てくれよ!バカうめぇぞ!!」




「なんだい騒々しい。せっかくひと段落してまったりしてたのに──カナタにもあげたのかい?」




 広間にある椅子の無い、高めのテーブルにもたれながら飲み物を飲むリンガーナさんにバルロさんが俺の組み上げたVAPEを持って突撃した。


 出来立てを味見したバルロさんまるで犬のようにそれを姉貴にもいいかと持ってかれて今に至る。


 あの、俺まだ一吸いしかしてないんですがね?




「コイツ趣味だったらしくてよ。ツール渡したらすぐ様拵えだして…いやマジでうめぇから試してみろ!」




「あんたねぇ……普通はその人が楽しんでからそういう事をするもんじゃないのかい?……ごめんね、カナタ。ちょっとだけ借りるよ」




「ああ、どぞどぞ。美味いのはもう知ってる組み方なんで」




 何回組み上げたかなんて忘れたけども美味さはもう想像出来る分かった味だから別に構いはしない。


 あ、待て。これはいずれ間接キスになってしまうのでは──




「……スゥ………ッ!……ふぅ」




 俺のになったバルロさんから貰ったVAPEを口にしてリンガーナさんの顔色が変わった。


 色っぽい吐息をして再び口を開く。




「これは確かに美味しいねぇ。流石は趣味にしてただけはあるよ。あたしのも今度お願い出来るかい?」




 そう言ってVAPEを俺に返すリンガーナさん。


 うーん、別に構いはしないけど……あ、そうだ。




「ええ別に構いませんよ。俺としては見返りにリキッドを買わせて欲しい感じではありますが」




「ああ良いよ。むしろ何本かあげるよ。VAPEは異世界人の影響で最近始まったマイナー中のマイナーな物だからね。あたしが趣味でお香作ってるのもあって自分でリキッド作ってるけど一般にはそうそう見かけないからさ」




「おお、それはありがたい…!」




 前の世界でも居たら「おお、仲間が居た」ぐらいのマイナーな物だったけど……そうか、同じ趣味の同胞が先に居たのか。となると…俺よりかなり詳しい人だな…イチから全部、〝この世界〟で作れる程の。


 まぁ、そんなだったら一般には見かけないだろうな。リンガーナさんがリキッドを作ってたのは幸運だろう。




「なら俺のも良いか?流石にこの超携帯簡略VAPEをやってくれとは言わないけどよ」




「良いですよ。…流石にそれは無理ですねぇ」




──す、カシャッ。


 うん、流石にそのオリジナル、超小型コイン型VAPEのコイルをセット出来る自信は無い。


 どやってコイル焼き入れすれば良いのよ。怖すぎる。




「さんきゅ。…チッ、何だよ折角の憩いのひと時にシークレット通信なんて──なんだと?」




「どうしたんだい?仕事かい?」




 急な通信が入ったのか、バルロさん表情が嫌そうな顔から真顔になる。


 あまり良い通信では無さそうだ。




「ああ、仕事だ。わりぃなカナタ。気にせずぼーず達と先に休んでてくれ。姉貴、行ってくる」




「はいよ」




 そう言うなりバルロさんは足早に行ってしまった。


 まぁ総ギルドマスターだし、こういう事もあるのだろう。




「ほら、そろそろ坊や達もおねむだろ。カナタも寝ときな」




「ういーっす」




 いかん、アイツら寝てるやもしれぬ。







「……コイツぁ…ひでぇな」




 血溜まり、肉塊となった酷い惨状を見て男が呟く。


 肉塊を荒らす魔物は始末したが、こんな人工的な切り口、刺し傷は明らかに魔物ではない事を物語っていた。




「総ギルドマスター。すみません、お疲れの所を」




 先に来て居たギルド員の男が後ろで口を開く。


 バルロはそれに対して振り返らず、短く完結に答えた。




「ああ良い。死体は身元は誰だ」




「貴族のイウィキ様が一人に護衛に着いていたギルド員、ブルックとデアペスだとベッセルにて確認が取れました」




「あの四人組の二人か……見込みのある奴らだったのに」




 拳に力が入る。爪が皮膚に食い込む。


 ギリ、と軋む音がギルド員の耳へと届いた。


 総ギルドマスターのやるせない、思いが。




「……ッ……何処の奴等だ。この平和な国を荒らそうとしてんのはよ……!」




「その……彼らのベッセルに…記録が。どうやらデアペスが命懸けで情報を録音したようです」




「…!聞かせろ」







──…〝悪魔に魂を〟売っただけさ。なぁどうだよ!?ギルドを追放された男によって虫ケラのように扱われる気分は!?──




──〝悪魔〟…だと…!?──




──最初からこうなら良かったのによぉ!!力さえ手に入ればなんでも出来る!!金も!女も!!全部思いのままだ!!!あはははははは!!!!──







「調べた結果、この声の主はギルドを追放された男、ジャン・ヴァジートだと分かりました」




「〝悪魔〟……だと?……巫山戯(ふざけ)やがって……!!『精霊鑑定』は出来るか?」




「すみません……私にはまだそこまで力量が。幸いギルドに提供された証拠品があったので『魔力鑑定』の結果、例の組織だとは分かりましたが……」




「ああ、良い、気にするな。出来る方が少ねぇんだ。『魔力鑑定』が出来るだけお前は優秀だ。……クソッ、『ハライ』が療養してなけりゃあすぐ調べられるんだがな。…にしてもCクラスのコイツ等がやられる程か。仏さんは丁寧拾い上げて埋葬してやれ。貴族も、俺達の仲間もだ」




「…はい。全て、残らず」




「ギルドに通達しろ。〝仲間の命が組織に弄ばれた〟とな。俺も友人に声をかける。アイツらが命懸けで残した手がかりを無駄にするな!!!」




「はい!!!」




カナタ


「…ただい──やはり寝てやがる」




シラタマ


「にゅもぅ……zzz」




ルギ


「へへへ、もう食えない……zzz」

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