第4話 実技試験
魔法系の実技試験の内容は、指定された的にただ攻撃を加えるという単純なもので、試験監督の教師は、その攻撃の威力や精度を評価するというものであり、レイはそれを先程からボーッとしながら、他の受験者の試験をずっと眺めていたが、正直退屈していた。
実は前にレイは、ジンから外の人達の魔法の実力を教えてもらった事があった。
その時にジンから「どうせ見ても失望するから、期待なんかするな」と言われたが、レイはその意味をようやく理解していた。
レイの目の前で行われている試験は、余りにも低レベルだった。
「···これが普通?」
驚きの余りついそう口に出してしまったレイだが、その言葉に反応する者は居ない。その事がとても寂しいと思った。
「···寂しい?」
しかし、レイには、どうして自分が寂しいと思ったのか、分からなかった。
自分はずっとあの家に住んでいて、こんな事を思ったことは、一度もない。それなのに話相手が居ないというだけで、どうしてこんなに寂しい気持ちになって来るのだろうか?
レイにはその事がとても気になり、それからずっとその事を考えたのだった。
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「次、レイさん」
それから時間が経ち、遂にレイの試験の番になった。
そして試験監督の教師に名前を呼ばれた事で、レイはようやく自分が呼ばれた事に気付く。
「ん、何?」
「次はあなたの試験の番です」
「ん、分かった」
そしてその教師の言葉で、今が実技試験の途中だと思い出したレイは、直ぐに的から15m程離れた場所に案内される。
「ではここからあの的を攻撃して下さい」
「攻撃はどんなのでも良いの?」
「ええ、良いわよ」
「···分かった」
そしてレイがそう返事をした瞬間、レイの周りに大きな風が吹き出す。
「これは風の魔法···いや、精霊の祝福によるものですか」
そしてレイの魔法を見ようとしていた試験監督の教師は、意外そうにそう言う。
実はレイが使おうとしている風属性は、他の属性の攻撃に比べて難易度が恐ろしく高いのだ。
何故なら風属性の攻撃は、周りの空気の流れに左右され易く、風で攻撃と言える程の威力を出すには、凄まじい魔力と魔力コントロールが必要とされているからだ。
そして次の瞬間、レイから5つの風の鎌鼬が放たれ、全ての的に攻撃が直撃し、的が真っ二つ分断させる。
「へっ?」
そしてその攻撃を見た教師が、そんな間抜けな声を上げる。しかし、教師が驚くのも無理はなかった。
実は今的として使われた物には、強力な防御魔法が掛けられていたのだ。
(防御魔法を貫通して、金属製の的を真っ二つにするなんて!それも5つ同時に!?)
「···これで良い?」
「えっ?あっ、はい。試験は終了です。今日は帰って良いですよ」
「ん、分かった」
そして帰って良いと言われたレイは、てくてくと何処かに歩いて行った。
こうしてレイの実技試験は、僅か数秒で終了したのだった。
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レイと別れた後、ハルトは物理系の実技試験の会場に向かった。
そして会場に着くと、直ぐに木製の武器と武器をぶつけ合う様な音が聴こえてくる。
「おお、流石学園だな。スゲー広さだ」
そう言って中に入ったハルトは、直ぐにルークを探し始める。
「あっ!ルーク!お前そんな所で何してんだ?」
「ん?ああ、ハルトか。実はここの実技試験、得物事に試験監督とか場所が違うんだよ。お前がやる剣の試験の場所は、ちょうど中央の場所だ」
「へぇ、それでお前はこんな所にいんのか」
「ああ、俺みたいな弓はマイナーだからな」
「まぁ、そのお前の弓は普通じゃないけどな」
「まあな」
そう、実はルークは先天的能力持ちであり、ルークは投げる前に想像した投擲の方向に、自由自在な軌道で攻撃出来るのだ。
「ルークの投擲はまじで怖いもんな。撃った弓が急に曲がって後ろから飛んで来るんだぜ?」
「いや、それを言うなら、祝福2つ持ちのハルトの身体能力の方がえげつないからな?その気になれば素手で、オーガとか倒せるんじゃねぇか?」
「いや、流石にオーガは無理じゃねぇか?剣があれば余裕だろうけど」
「いや、剣ありでもオーガを余裕で倒せるお前は、おかしいからな?」
そして如何にハルトの力の異常かを説明するルークだが、ハルトは、そんな事は何時も事なので、簡単に流す。
そして2人は、それからルークの試験が始まるまで、話し続けたのだった。
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時間になり、ルークと別れたハルトは、直ぐに会場の中央に向かう。
そして中央の剣の試験場所に着くと、剣は人気が高いせいか監督の教師が複数人いた為、中々の速度で進んでいた。
「次、ハルト君!」
「うお、やべー。もう俺の番じゃねぇか!」
そして名前を呼ばれたハルトは、慌てて前に出る。
「ん?君がハルト君だね?戦闘に司る神の祝福を2つも持ってると聞いている」
「いえ、自分なんてまだまだです。試験よろしくお願いします」
「よろしい。試験内容は私と剣の組み合いをするだけだ。これでも教師だから手加減は要らないぞ?」
「分かりました」
そして説明を聞いたハルトは、直ぐに剣を手に取る。
「行きます!」
そしてハルトはそう一言言うと、凄まじい速度で監督の教師と距離を詰める。
「はっ!」
そしてハルトはその勢いのまま思いっきり剣を振り落とし、教師はそれを受け止める。
「なる程···ハルト君、君の試験はもう終わりだよ」
「えっ?もう終わりですか?まだ一撃しか撃ってないですよ?」
そして余りの試験の短さにそう食い下がるハルトだが、教師が試験を止めるのにも、理由があった。
「君の実力は今の一撃で直ぐに分かったよ。申し訳無いが、今の私では少し部が悪い様だ」
そう、ハルトが放った攻撃は、教師の予想以上に強力なものだった。
このまま続ければ、どちらかが怪我をする可能性も低くはなかった。
「そうですか、試験ありがとうございました」
「いや、こちらこそ済まない。試験の結果は楽しみにしていてくれ」
「はい!」
そしてハルトは、教師の言葉に元気良く返事をする。
こうしてハルトの実技試験は終了したのだった。