第3話 レイの魔力
「ふぅ〜、やっと終わったな。レイは筆記試験の問題解けたか?」
筆記試験を終え、レイに貸していた予備の鉛筆を返してもらいながら、ハルトはレイに尋ねる。
「ん、全然分からなかった」
「···お前、本当に試験に受かる気あるのか?」
そしてハルトが、ある意味予想していた答えが帰って来て、思わずは頭を抱える。
(そうだよな〜、筆記試験の存在を知らなかった奴が、解ける訳ないよな···)
「·····?そんなの当たり前」
「でも筆記試験の点数やばかったら、学園に通えないんだぞ?」
「···そうなの?」
「はぁ、当たり前だろ。しかもここの学校は、特に難易度高いから、相当な数の人が落ちるぞ?」
そしてレイに、そう教えて上げるハルトだが、レイの顔を見てみると、顔は無表情のままだが、雰囲気的に余りショックを受けてない様な気がした。
「ん?対してショックを受けてないんだな?」
「·····?ジンがそういう時は、大抵何とかなるって言ってた」
「精神論かよ···てかジンってのは親か何かか?」
そしてハルトは、突然レイの口から、出て来た誰の名前が気になり、レイにそう聞いてみる。
「ん、ジンは私を拾ってくれた人」
「えっ?そ、そうなのか?」
「ん」
そしてレイから、帰って来た言葉を聞いたハルトは、無意識にその言葉を意味を理解してしまい慌てる。しかし、レイはそんなハルトを見て「···どうしたの?」という風に、首をかしげていた。
そんな時だった。
「お、ハルトじゃん。そんな気まずそうな顔をして、どうかしたのか?」
突然ハルトと同い年ぐらいの男の子が、ハルトにそう声を掛ける。
そしてレイは、それを無表情でボーッと見ていたが、ハルトはその男の子を見た瞬間、今まで考えた事が一瞬で消し飛ぶ。
「ルークてめぇ!朝、俺を置いて行きやがっただろ!お前のせいで、遅れる所だっただろうが!?」
そしてハルトが、男の子にそう叫ぶが、それに対して、ルークと呼ばれた男の子は、まるで予想していたかの様に、余裕な表情を浮かべる。
「まぁ、そんなに怒るなよ。それにここに居るって事は、結局間に合ったんだろ?」
「確かにそうだけど···いや、やっぱりそれとこれとは話は別だ!一発殴らせろ!」
「おいおい、冗談きついぜ!お前のパンチなんて喰らったら、まじで死ぬからな?それに···」
そしてルークは、そう後付して、レイに目を向ける。
「それに初日から女の子と一緒に居るなんて、青春を謳歌してるじゃんか」
「っ!?レ、レイとはそういう付き合いじゃねぇよ」
「へぇ〜レイって名前なのか。···じゃあ、どういう付き合いなんだ?」
そしてそう聞いて来るルークだが、ハルトはそれを見て、からかわれていると自覚しながらも、結果的にハルトが、一方的に罪悪感を抱いていた雰囲気が、変わった事に内心ルークに感謝する。
「別にそんな大袈裟な事じゃねぇよ。レイとはただ地図を見せてもらった友達だ」
「っ!?」
そして当たり前の様に答えたハルトに、ルークは少し拍子抜けしたが、珍しい事にその言葉に強く反応したのは、レイだった。
「···ハルトが私と友達?」
「ん?そんなの当たり前だろ?」
「···何時から?」
「はぁ、あのな。友達ってのはなろうと思って、成れるもんじゃないんだよ。気付いたら友達に、なってたって感じなんだよ。分かったか?」
そしてハルトがそう言うと、レイは少し俯いて「···気付いたら、友達。ん、覚えた」と復唱すると、レイはハルトの方を向く。
「···ハルト、ありがと!」
「お礼なんて、言わなくて良いんだよ。ほら次は確かに、魔力量測定と適性属性検査だろ?俺達もそろそろ行こうぜ」
「ああ」 「ん」
そしてこの時、レイの口端が僅かに上がっている事に、気付いた者は、本人を含めて居なかった。
そして3人は次の試験上に、向かい始めたのだった。
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「次、ルーク君」
「はい」
魔力量と属性適性の測定で、ルークの名前が呼ばれ、ルークが指定の教室の中央にある、球体の結晶へと近付いて行く。
因みに測定をする順番は、どうやら学園に受付をした順番らしく、受付の時間がギリギリだったハルトは、最後から2番目で、その次の最後がレイの順番となっていた。
「良いか?さっきも言ったけど、ここでは魔力量と適性属性を測るんだ。まずあの丸い結晶に触ると、その人物の魔力量によって、明るさや色が変わるんだ。色が明るければ明るい程、魔力量が多くて、結晶の色で適性属性を調べるだ。理解出来たか?」
「···?名前を呼ばれたら、あの丸いのに触れば良いの?」
「いや、要約するとそうなんだが、随分と省略したな」
そして口では、こう言っているハルトだが、無表情で何時もボーッとしていて、何を考えているか分からないレイだが、自分が言っている事の意味が、理解出来ていた事に驚いていた。
(俺はてっきり首を傾げると、思ってたんだけどな。もしかしてレイって知識がないだけで、記憶力は良かったりするのか?)
「次、ハルト君」
「はい!」
そしてそれから暫くして、遂にハルトの番になった。
「では結晶に触ってくれたまえ」
「分かりました」
そしてハルトがそう返事をして、結晶に触る。
するとその瞬間、結晶が淡く光だし、その光の色が赤になったり、無色透明に変化したりする。
「なる程、君の魔力量はそこそこで、属性は火属性と無属性だね」
「分かりました、ありがとうございます」
「気にしないでくれたまえ。···次、レイ君」
「ん」
そしてハルトが終わると、直ぐに最後のレイの番になる。
レイは余り気にしてない様だが、この測定の後は実技試験であり、受験者は魔法系と物理系に、別れて試験をする事になっている。
そしてレイの体格は誰が見ても華奢であり、接近戦を得意とする体付きには見えない。つまりレイは結果的に魔法使いという事になるのだ。この測定の結果が全てと、言っても良いくらいなのだ。
「どうやら君が最後みたいだね。さぁ、結晶に触ってくれたまえ」
「ん、分かった」
そしてレイは支持に従って、結晶に触れる。
そして次の瞬間、目を開けてられなくなる程に、強烈な光を結晶が発する。
そして数秒後、発していた光が収まると同時に、レイが触れていた50cm程の結晶が、『バキッ』と音を立てて真っ二つに割れる。
「〜〜〜っ!?」
そしてそれは見た瞬間、レイはあの強烈な光を間近で見た為か、目を抑えてふらふらとバランスを崩しそうになり、ハルトは学校の備品である結晶が壊れた事に、顔を真っ青にする。
しかし、試験を担当していた教師は、結晶が壊れた事になど、目もくれずに、直ぐにレイに目を向ける。
「レイ君、君が1番最後で良かったよ。君がもっと早く試験を受けていたら、他の受験者の測定が出来なくて、大変な事になったからね。···それで君は、魔力量は申し分ないんだが、残念ながら君の適性属性は、無属性だけの様だ」
「えっ?」
そして教師の返事を聞いて、そう声を上げたのは、レイではなくハルトだった。
しかし、ハルトが声を上げたのは、仕方ない事だった。
実は属性適性とは、どんなに才能がなかろうと無属性以外に
必ず適性があるものなのだ。
そしてハルトは、今までに無属性の適性しか持たない者を、見た事も聞いた事もなかった。
「さぁ、次は実技試験だ。君達は最後の方だから余裕はあるが、早目に行って損はないぞ」
「ん、分かった」 「···分かりました」
そして2人は、実技試験の会場に向かい始めた。
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「なぁ、レイってやっぱり魔法系の試験を受けるのか?」
「···?魔法系の試験?」
実技試験の会場に向かって居ると、ハルトとか聞き覚えのない言葉に、レイは首をかしげる。
「ああ、そういや説明してなかったな。実技試験は武器や拳を使った物理系の試験と、魔法なんかの属性を使った魔法系に、別れてやるんだ」
「···私は魔法系」
そしてレイはハルトに説明を聞くと、少しして自分が魔法系の試験を受ける事を話す。
「でもレイは属性がないんだよな?無属性の魔法に、攻撃なんて···あっ!祝福か!?」
「ん、そう。···ハルトは?」
「ん?俺は物理系だ。こう見えて俺は、闘神と戦神の祝福をもらってんだぜ」
そしてレイに、「そっちはどうなの?」と聞かれると、ハルトは自分が、神の祝福を2つ持っている事を得意気に話す。
そしてハルトが得意気に成るのにも、勿論理由があった。
世界全体で見れば、神の祝福を2つ持っている事は、対して珍しい事ではない。しかし、祝福をくれた神が、どちらとも同じか近い事を司る神ならば、話が違って来る。
精霊の祝福は、その精霊の属性を操れる様に成るのに対して、神の祝福は、その神が司る事に、プラス補正や成長補正が掛かる。
そして戦闘に司る神の祝福を2つ持つハルトは、その2つの祝福が相乗効果を発揮し、凄まじい力を発揮出来るのだ。
「お、どうやら着いた見たいだな。確かここは体育館は、魔法系だったと思うから、レイとはここで一旦お別れだな」
「···また逢える?」
「ん?そんなの当たり前だろ?何なら試験が終わったら、迎えに行くから、ここで待ってくれても良いぞ(···お前なんか迷いそうだし)」
「ん、お願い」
そしてその後、2人は別れの挨拶をすると、ハルトは物理系の実技試験の会場に、向かって行った。