第1話 プロローグ
「あっ、そうだった。···お〜い、レイ。ちょっとこっちに来てくれ」
家でソファーに寝転がった男が、今思い出したと言わんばかりに、そう声を上げる。
そして男が声を上げて、暫くすると、テトテトと足音を立てて、1人の少女が姿を現す。
「···ジン、呼んだ?」
そしてレイと呼ばれた少女は、男の名前を呼び、何故呼ばれたのかと思い、首をかしげる。
その少女の容姿は、まだ15歳にも満たない年齢で、黒髪を肩まで伸ばしたミディアムふうの髪型をしており、身長は平均かそれより少し低く、童顔で整った顔をしている美少女だった。しかし、その整った綺麗な顔が勿体ないくらいに、少女の顔は無表情をしていた。
「お〜、呼んだ呼んだ」
そしてジンと呼ばれた男は、レイの言葉を適当に返すと、ジンは面倒くさそうにしながらも、直ぐに本題の話に入ろうとするが、ここで先にレイがジンに話し掛ける。
「···ジン、ご飯はまだ出来てない」
「いや、俺はそんなに食い意地張ってねーからな?」
「···?じゃあ、どうしたの?」
そしてレイは、「それ以外に何かあったかな?」という様な顔を浮かべると、直ぐにその疑問をジンにぶつける。
「はぁ、レイ。お前って確かそろそろ13歳だったよな?」
「ん、先月で13歳になった」
「あれ、そうだっけ?」
「ん、そう」
しかし、ここでジンが予想した事が少しズレている事に気付き、ジンは思わずそう声を上げるが、レイはまるで気にしていないかの様に、何時も通りの無表情のままだった。
「そうだったか。じゃあ、お前春から学園に行ってこい」
「···学園?」
そしてしっかりとジンの話を聞いていたレイだが、その主旨の抜けたジンが話している内容が、上手く理解出来ず、頭にハテナマークを浮かべる。
「あ〜、分かんなかったか?···実は俺の知り合いが、学園の学園長をしていてな。そいつにお前の話をしたんだが、なんかそいつがお前に興味持ったみたいで、勧誘して来たんだ。それにお前ももう数年したら成人だし、少しくらいは知識を身に着けた方が、良いと思ってな」
「···ジン」
「ん?なんだ?」
「···学園って何?」
「そこからかよ」
そしてジンは、レイの疑問に呆れた様な顔を浮かべるが、「まぁ、ずっと此処で生きて来たんだし、仕方ねーか」と呟くと、面倒くさそうしながらも、説明を始める。
「はぁ、良いか?学園ってのは簡単にいえば勉学、知識を身に着ける場所だ」
「···?知識を身に着けたら良い事ある?」
「あ〜、そうだな。知識はあった方が色々と便利だぞ。···つってもお前知識欲とか薄いしな〜。···あっ!学園に行けば、お前が前に言ってた友達が出来るぞ」
「···ほんと?···学園に言ったら友達出来る?」
すると、先程まで殆ど薄い反応しか見せなかったレイだが、ジンの“友達”というフレーズを聞くと、急に目を光られてそう尋ねる。(無表情のまま)
実は今レイ達が住んでいる場所は、深い山の中にある1つの建物であり、レイは13年間に一度も、この山を出た事がなく、その為、友達と言える存在が、殆ど居なかったのだ。
「ああ、本当だ。···どうだ?行く気になったか?」
「ん、私学園行きたい」
そしてレイは、ジンに誘導されたとも気付かず、学園に行く事をあっさり承諾する。
こうしてレイは、ジンの思惑通りあっさりと、学園に行く事が決まったのだった。