青春1%『青春ゲームの始まり』
青春なんて、学校内の都市伝説に過ぎない。
彼女なんて、テスト勉強の妨げになる。
先生なんて、ただ教科書のレールに沿って文字を解読するロボットに違いない。
大学入試やら就職やらでイライラピリピリしている学生達はきっと、自分じゃ到底分からないモンスターになっている。
世間一般は高校生になる前は、憧れの高校ライフを送れる! とか、女子からの告白来ねぇかなぁとか。とりあえずそんな事は無い。うん、まず無い。
そんなこんなで、俺は頭でこんな事を考えながら高校ライフを送っている。
────が、したいなぁ。⋯⋯てみたいなぁ。⋯⋯送ってみたいなぁ。
「⋯⋯せ、青春を送りたぁぁぁぁい!!!!」
「こらぁ!!立花、うるせぇぞ!! 廊下に立っとれぇ!!」
意識が戻った時には、耳にはみんなの笑い声が入ってきていた。
そして先生の怒鳴り声。
「⋯⋯ねぇ、また立花君ってば独り言言ってたわよね」
「この前の授業でも急に大声で叫び出すしね」
周りからは女子生徒のひそひそ声。
やってしまった。またやってしまった。癖が出ちまった。
立花は顔を赤くしながら廊下に向かっている。そりゃあ誰しも変人だと思うだろう。突然、特に教室でも目立ちはしない陰キャ男子生徒が授業中に立ち上がって、青春したぁぁぁぁい! なんて叫んだら。
そう。この男。高校一年の立花 春樹は青春したくてしたくて夜も眠れないのである。
まだこの高校に入学してから約三週間。未だに友達一人として作れておらず、教室の隅っこの席でいつも寝たフリをしているのである。
「⋯⋯はぁぁぁぁ。友達ゼロの陰キャがこんな目立ち方あるかよってんだ」
いまは春。廊下から見える景色は絶景。満開の桜の木があちこちにある。風が吹くたびに散っていく桜の花びらはまるで俺のようである。
──いつからこんなに人と話せなくなったのだろう。中学生まではクラスのほぼ全員の男子と仲良くしていていつもクラスのリーダー的存在だったのに。
「中学の頃仲良くしてたアイツ、元気してるかなぁ⋯⋯」
いつの間にか時は経ち、外が暗くなる頃に中に入れてもらった。
教室のみんなの視線がかなり刺さるけど。
「⋯⋯なぁ立花。お前、友達いねぇのか?」
「え、えぇ!?」
突如、職員室中に響き渡る立花の声。先生からの視線も刺さりまくる。
「⋯⋯おい、ここは職員室だぞ。静かにしろ」
「とは言われましても急にそんなこと言われるとは思わなかったもので⋯⋯」
「で? 質問しているんだ。お前友達いねぇんだろ?」
「い、いや、そ、それは⋯⋯」
これ以上の返答はできない。だって本当の話なのだから。
「⋯⋯はぁ。ったくよぉー。授業中に急にあんな馬鹿でかい声で青春するだの叫んでいるお前にまさか友達がいないとは思わないが」
「⋯⋯どうして俺に友達がいないって分かるんですか?」
立花はボソッとアリの会話のような小さな声で問いただす。
「そりゃあお前が廊下に立たされた後の教室の雰囲気見てりゃ分かるわ」
先生は椅子にもたれて少し口を緩めながら答えた。
「雰囲気? ⋯⋯と言いますと?」
「大体何かやらかした後っていうのは教室中が馬鹿騒ぎになるっていうルールで決まってんだよ」
「いや絶対そんなルール無いですよね!?」
すると先生は椅子から立ち上がり、立花の肩を優しく叩いた。
「立花、お前にいい話があるんだが」
「え」
────立花はその後先生に外に呼び出されたので、仕方なく校舎の裏庭に足を運んだ。
「⋯⋯一体あの先生は何を企んでいるのやら」
校舎の裏庭の巨大な一本の木の下で待ち合わせを約束した立花はその待ち合わせ場所に向かっていた。
「綺麗な木だな⋯⋯」
そこには綺麗に整備されていて、緑の葉で生い茂っている巨大な木があった。
こんな事になったのも全部俺のせいだ。友達を作れずに、うだうだして最終的にはあんなことやらかしてしまって。こんな自分が自分じゃないみたいだ。悔しい。悔しくて消えたい。
立花は拳を力一杯握る。
────その時、巨大な木の下に物陰が見えた。
ここから見るとよく分からないけど、多分人である。
「⋯⋯誰かいるのか?」
恐る恐るひっそりと木に近づいていき、立花から木まで約十メートル辺りまで来た時だった。
校舎の二階辺りから先生の声がしたのだ。
「立花ー!! そこにいる女子と今日からあることをやってもらうために呼んだんだ!!」
「あ、ある事って!? え?」
強く風が吹く。そして巨大な木も揺れる。
「今日からその子と────」
俺は目を疑った。こんなにも美しい女性を見たことがなかったからだ。こんな気持ち、生まれて初めてだった。
過去に恋をしたことすら忘れるかのような美貌に心を打たれるこの瞬間、立花の顔色は変わった。
「その木の整備を卒業までしてくれ」
美しく佇んでいる巨大な木の下に、白銀の髪をした美しい女性がもたれかかっている。