第68話【悔しいなら】
「生き残りは……これだけですか」
広場に集められた【アークルム王国】の生き残りを見て、俺は声を振り絞った。
その数、わずか11名。
みな俺たちと同じ騎士である。
満身創痍でボロボロだ。
「市民が見当たりませんが……」
「生き残った市民たちなら城に避難してるみたいですわ」
「なるほど」
良かったと内心で安堵しているとズゥン! バコォン!
と建物を破砕する音が聴こえてきた。
障害となる建物群を踏み潰しながら、かの超大型ドラゴンが進行してきているみたいだ。
すでに街中へ侵入してきている。
「! 時間がありませんわ隊長!」
ローエさんの焦る声に頷きながら俺は見た。
巨大なドラゴンの城のような甲殻が建物群の隙間から見えている。
デカいなんてもんじゃない。
本当に歩く城じゃないか。
あのサイズでは通常の武器では勝ち目がない。
撤退して対策を練ろうというローエさんの考えはやはり正しいようだ。
そろそろ本当に撤退しないと奴の進行に巻き込まれる。
あの城へ向かったアークルム王国の隊長さんはまだか?
まだアークルムの国王さまに説明してるのか?
いや、長すぎる。
まさか国を放棄することを反対されて口論になってるのか?
だとしたら不味い。
この国の事に俺が口出しするべきではないと思っていたのだが、説得に参加する必要があるかもしれない。
せめてもう時間がないことだけでも説明しないと!
「みんな! まずは急いで城へ行きましょう!」
「了解!」とカティアさんたちは当然のように返事をした。
しかし生き残りの11人は俺の部下ではないので返事に困っていた。
今はとにかく従ってほしい。
「あなた方も今は俺の指揮下に入ってください! いっしょに行きましょう!」
「わ、わかった」
「ありがとう。従うよ」
隊長を失い、部隊が崩壊した以上は誰かの指揮下に入った方が動きやすいし安全だと判断したのだろう。
11人の生き残りは難なく俺の言葉に従ってくれた。
※
計16人という騎士4部隊分の人数で移動し、城へ向かった。
ドラゴンの残党はもういないらしく、城へは問題なくついた。
だが──
「こ、これは……!?」
俺は──俺達はみんな、その城の中に広がる光景に息を呑んだ。
城中に充満する血の臭い。
右も左も人間の死体だらけ。
それは間違いなく誰が見ても地獄絵図と写るだろう。
「ぅ、なんだ、これは……何が起きた!?」
隣でカティアさんが顔色悪く言った。
吐き気さえ込み上がるといった表情だ。
他のみんなも同じである。
特に生き残りの11人は青ざめた顔で、何が起きたのか分からない表情をしていた。
本当に、城内で何が起きたのだろう?
さっきの隊長さんは?
考えながら俺は背中のロングブレードの柄を握り、いつでも抜刀できる状態にしながら前進した。
後ろのフランベール先生たちも俺に倣って武器を構えながらゆっくりと進む。
この城内の状況はただごとではない。
もしかしたら、ドラゴンが何匹か侵入していた可能性がある。
いや、むしろそれしかないだろう。
市民も王族らしい人物まで殺されている。
しかも殺され方もあれだ。
食いちぎられたり、爪で引き裂かれたような外傷ばかり。
まだドラゴンの生き残りが城内にいる。
そう確信して城の奥へ進む。
外にいる超大型ドラゴンの足音が、俺たちを急かすように響き続ける。
早く逃げなければいけないが、ここへ来たはずの隊長さんの安否が気になる。
大丈夫だろうか?
「絶望的ですわ……」
城内の生き残りは、という意味で言ったのであろうローエさんの言葉。
俺も同感だった。
王族も貴族も市民もみんな殺されている。
この国は本当に終わってしまった。
「!」
城の奥へ進むと、王の間らしい広間に出て、そこで先程の隊長を見つけた。
その王の間には、その隊長が倒したのであろう数匹のドラゴンマンと、一匹のA級ドラゴンの亡骸があった。
国王らしい人間の死体も……。
やはりドラゴンどもに内部へ侵入されていたようだ。
当の隊長は、竜血まみれの剣と槍を持ちながら、うなだれていた。
絶望している。
僅かに、確かに、泣き声が聞こえる。
震える彼の背中に俺はゆっくりと近づいた。
でも、気の毒すぎる光景に掛ける言葉も見つからなかった。
『騎士で弱いと言うことは……それだけで罪なのかもしれんな……』
あの時、彼が呟いていた言葉を思い出した。
この惨状を招いたのは弱い自分のせいだと思っているのだろう。
「あの……」
「……一人にしてくれ」
アークルムの隊長は、掠れるような声でそう言った。
こんなところで一人にしては死んでしまう。
まして今まさに超大型ドラゴンが迫っているから尚更である。
「いっしょに行きましょう。ここにいては殺されます」
「……それでもいい。俺にはもう、生きる資格はない」
「なんでそんなことを!」
「見ればわかるだろう!」
彼はこちらに振り返り、怒りのままに叫んできた。
「全部俺のせいなんだ。俺が弱いから、こんなことになったんだ……俺がお前のように強ければ、こんなことには……」
また泣き崩れ、武器さえも落とした。
大の男が人前で……などと心無いことは誰も言わない。
彼の泣きたくなる気持ちは痛いほど分かるからだ。
だけど、このまま一人にして死なせるわけにはいかない。
泣いているのなら悔しいはずなんだ。
彼はもっと強くなれる。
悔しいなら生きるべきなのだ。
でも、なんて言って説得すればいいのだろう。
無理矢理にでも、縛り上げてでも連れていくしかないかもしれない。
そんな事を考えていたら、俺の隣をローエさんが横切ってきた。
彼女はそのまま隊長のもとへ歩み寄り、崩れる彼の肩に手をそっと置いた。
「わかりますわ……あなたの気持ち……」
「!?」
「わたくしも……自分が弱いせいで、大切な人を置き去りにしたことがありますわ」
「!」
フランベール先生がローエさんを見る。
「悔しかったですわ、凄く。もっと強ければ、こんなことにはならなかったのにって、思いましたわ」
「……」
アークルムの隊長は沈黙を続ける。
ローエさんは構わず続けた。
「騎士が弱いのは罪というあなたの言葉には、本当にそうだと共感します。誰も守れない騎士なんて存在意義がありませんもの」
「……」
「そう思うと、本当に悔しいですわよね。自分には騎士たる存在価値がないようで」
「……」
「あなたのその涙も、そこから来ているのではなくて?」
「……」
「悔しいなら生きましょう。生きて、強くなるのですわ。そんな涙を流せるあなたなら、もっと強くなれるはず。ここで死んでいい騎士ではありませんわ」
「──…………く」
ローエの言葉に奮い立ったのだろう。
彼はついに立ってくれた。




