第59話【カティアの願い】★
これは弱ったぞ。
カティアさんを昂らせるにはどうする?
彼女の闘争心を煽るのは以前からやっているが、あまり手応えがない。
何度かの手合わせでカティアさんの動きは格段に良くなってきている。
俺の速度にわずかに反応できるようになってきているのだ。
【竜軍の谷】へローエさんとフランベール先生が出向いている間のわずか数回程度の手合わせで、だ。
やる気が半端ではない分、カティアさんの伸びは凄まじい。
すでに動きだけならカティアさんはローエさんやフランベール先生よりも上だろう。
だがここで【気】を引き出せなければ、攻撃力に圧倒的な差がつく。
たとえ動きが良くとも、S級ドラゴンの竜鱗を貫通できねば意味はない。
なんとかしてカティアさんにも【気】を引き出せるだけの感情の昂りを起こしてやらねば。
でもどうすればいいかな。
難しい。
「どうした隊長?」とカティアさんが顔を覗き込んできた。
あまりに綺麗なライトブルーの瞳が間近に迫り、思わずドキッとした。
しかし俺はすぐに首を振る。
「あ、いえ。とりあえずローエさんとフランベール先生はさっきのアドバイスを基にして素振りをしてください」
「素振りですの?」
ローエが聞いた。
「はい。ただ武器を振るんじゃないですよ? ちゃんと昨日のことを思い出し気分を高めながら【気】を引き出すように素振りすること。いいですね?」
「……凄く漠然としてますわね」
「【気】がそもそもぼんやりとしたものですからね。目に見えないから説明しにくいんですよ」
「わかってますわ。とりあえず念じながら素振りをすれば良いんですわね?」
「はい。弓使いのフランベール先生は向こうにある的を狙って撃ちながら【気】を引き出してください。アイスソードで素振りしてもいいですよ」
「うん。わかった」
指示を受けた二人はそれぞれの特訓を開始する。
ローエさんは壁際でマグナムハンマーを振りまくり、フランベール先生は【アイスアロー】で遠くに設置された的を狙って撃ちまくる(しかも全部真ん中。さすがである)。
一見どのレベルの騎士でもやっているような素振りと射的という基本的な特訓だが、中身は【気】を引き出すためのS級ならではの特訓内容となっている。
並の騎士がやっても引き出すことは叶わない【気】は、彼女たちレベルの騎士ならばすでに体内に洗練された【気】が生まれているはずなのだ。
明確な興奮状態になれるローエさんとフランベール先生ならば、この【気】を引き出すのにそう時間は掛からないだろう。
早ければ一週間以内には。
二人の女騎士を見やってから、俺は待ち続けているカティアさんの方へ振り向いた。
「おまたせしましたカティアさん」
「ああ」
「じゃあとりあえず手合わせしましょうか。気を高めるつもりでやりますよ」
他に方法がないか、手合わせしながら考えよう。
「待て隊長」
「はい?」
「私もローエたちと同じ事をしなくてはいけないんだろう?」
「それはそうですが、カティアさんはとりあえず持ち前の闘争心の高さを利用して【気】を引き出す形にしようかと思ってます」
「それは効果が薄い。あれでは【気】を引き出せる手応えさえ感じない」
「!」
まさか気づいていたとは。
あんな数回程度の手合わせで。
いや、俺自身が手応えのなさを感じていたのだ。
本人のカティアさんが分からない方がおかしいのか。
「……気づいていたんですね」
「当たり前だ。ちょっとこっちに来い」
「え、わっ!」
※
カティアさんに強引に引っ張られて来たのは、練兵場から出た出入口付近だった。
俺はそのまま壁にドンと押し付けられ、目の前にカティアさんが来る。
カティアさんは俺の両肩を掴んで逃げられなくし、その綺麗な顔を俺の顔に近づけてきた。
え、なにこの展開?
もしかしてこのままキスしてくれるのかな?
ついにカティアさんとも!
──なんて甘い考えは無くなるほど、カティアさんの顔は真剣だった。
「カ、カティアさん?」
「ゼクード。正直に答えろ」
「え?」
「ローエと先生にはなんてアドバイスをしたんだ?」
「あ、いや、それはだから興奮する記憶を思い出しながらって……」
「ほう? ならわざわざ耳打ちした理由はなんだ? 私に聞かれたらマズイことではないのか?」
どうしよう……完全に疑われてる。
聞かれたらマズイのは、たしかにそうなのかもしれないけど。
「ち、違うんですカティアさん。あれはローエさんや先生のプライベートなことが含まれていたんで、みんなに聴こえないようにしたんです」
「そうか。あの二人のプライベートなら、これ以上の聞き込みできんな」
あれ?
思ったよりあっさりカティアさんは俺を解放してくれた。
「えっと、すみません……」
「いや、いい。だが一つだけ聞かせてくれ」
「なんですか?」
「お前はもう……ローエと先生と、関係を持ったのか?」
「!?」
バクン! と心臓を鷲掴みにされた!
そんな衝撃が胸部に走った!
「え、な……なんで?」
「いつぞやフランベール先生はお前の前に無防備な姿で現れたな? あの時すでに確信していた」
うわ、やっぱり。
「ローエはいきなりハーレムの話なんかを持ち出してきた時に勘づいた。その時のローエは、なんというか、妙に大人っぽかったからな雰囲気が。それでもしやと思ったのさ。昨日の帰りも変な方向に帰ってたから、あの後お前と何かしていてもおかしくはない。そう思った」
ローエさんがハーレムの話?
帰る方向がおかしかったのは知ってるが、ハーレムの件は知らないな。
でも、てことは、ローエさんやっぱり結婚のこと考えてくれてるんだ。
なんだろ、凄く嬉しい。
「もうお前達がそう言った関係なら、二人のあの興奮に対するアドバイスの受け入れ具合にも納得がいく。お前がわざわざ耳打ちした理由もな」
凄いなカティアさん。
ほとんど当たってる。
鋭い洞察力だ。
「どうだゼクード? 当たらずとも遠からずだろう?」
「そう、ですね。ほとんど当たってます。でも、その、先生とローエさんとは、その、流れでそうなった、ていうか、その……」
「流れで、とかそんな言い訳くさいことを抜かすな。事に及んだのなら責任を持て。先生を幸せにすると言ったあの時のお前の眼は本物だったぞ? 私はお前のあの眼を信じている」
「カティアさん……」
「信じているからこそ聞かせてほしい。お前は本気でハーレムを築くつもりか?」
「!」
「先生だけでなく、ローエにも手を出したんだろう? それともローエは遊びか?」
「違います! ローエさんも幸せにしたい女性の一人です! ローエさんほどの素敵な女性を他の男に譲るつもりはありませんから」
心外だったから本気で返した。
ムキになって返してしまったが、当のカティアさんは何故か笑っていた。
「欲深い男だなお前は。ならばハーレムの件は本気なのだな?」
「はい。もともと俺は女性にモテたい。その中で素敵だと感じた女性みんなを手に入れたいと思ってましたから」
「正直だな。お前のそういうところは好感が持てる」
ならカティアさんも!
そう言おうとしたとき、カティアさんは踵を返していた。
おかげで告白のタイミングを逃してしまう。
「……なぁゼクード」
「?」
「お前さえ良ければ……」
言いながらカティアさんはこちらに振り向いてきた。
「お前のハーレムに、私を加えてくれないか?」
────え!?




