表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/566

第32話【悪化】

 市民の救助活動を他の王国騎士たちと交代し、カティアは休憩をしていた。

 街の中央広場にある木製ベンチに腰掛けて大きくため息を吐く。


「カティアさん大丈夫?」


 同じく休憩に入っていたフランベール先生がカティアの顔を覗き込んできた。


「ぁ、大丈夫です。すみません」


 昨日のS級ドラゴン戦からまともに睡眠などは取れていない。

 だが、それくらいでヘタレるほどヤワな身体ではない。


「そう? 疲れてるなら休んだ方が──」


「いえ、身体は大丈夫です。ただ……」


 言い欠けて、ゼクードのことを思い出す。

 あいつは……やはり凄かった。

 私達が束になっても勝てなかった、あのS級ドラゴンを圧倒してみせたのだから。


 一人の騎士として、あまり認めたくはない事実だった。

 その場にいた私達の存在自体に、意味がなかったようで。

 

「……」


「もしかしてゼクードくんのこと?」


「え、なんで!?」


 なんでバレたのか?

 そんな感情が先に来て、思わずそんな返しをしてしまった。

 フランベール先生はやはりと言わんばかりに優しく微笑む。


「うん。カティアさんが昔から強さにこだわっていたのは知ってるの。あの圧倒的なゼクードくんの強さに相当まいってるんじゃないかなって思ってね」


 だいぶバレてる。


「それは! その……──実は、そうなんです……」


 この人に嘘をついても仕方ないと思い、素直にそう言った。


「やっぱりそうなんだ。ねぇカティアさん。わたしで良ければ吐口(はけぐち)になるよ?」


「いえ、そんなお手数は……」


「ううん、遠慮しないでカティアさん。きっと分かってあげられると思うの。わたしも昔、ゼクードくんの強さには嫉妬してたから……」


「先生が、ですか?」


 あまりに意外だったのでそのまま聞き返した。

 フランベール先生は苦笑して頷く。


「うん。わたしもS級騎士になるためにたくさん頑張ってきたつもりだったよ。でも、ゼクードくんには(かな)わなかった……」


「!」


「わたしが13年掛けて積み上げてきた世界を、あの子は一瞬で飛び越えちゃった。悔しいけど、あの子は間違いなく天才だよ」


「先生……」


「あ、ごめんね! わたしが愚痴っちゃって……」


「いえ。なんか、むしろ聞いて良かったです。私も彼の実力には嫉妬していますから……──私は女でも騎士のトップに立てるのだと証明してやりたくて、ここまで来ました。けれど、ゼクードを見ていると……」


 あまりにも次元が違い過ぎて。


「男とか女とか、そんなレベルの話じゃなくなるよね」


 フランベール先生の付け足しにカティアは頷く。


「はい。あいつに追い付けるイメージがまるで湧きません。今回の戦いだって、結局はゼクードがいればそれで良かった」


「うん。わたし達はローエさんも加えて三人掛かりだったのに歯も立たなかったものね」


「ええ、本当に。ゼクードを見ているとS級を名乗るのが恥ずかしくなってきますよ。なんのためにいるのか、わからない」


「うん……そうだね」


「すみません。弱音ばかりで……」


「ううん。言ってくれて嬉しいよ。カティアさんって確か8人の妹さんがいるお姉さんだったよね? 吐口とかそういうの、まったく無いんじゃないかなって思ってたから」


「そう、ですね。確かに……」


 妹たちに弱音など吐けるはずもない。

 またそんな発想自体がなかった。

 弱音を吐くということそのものに。


 でも今フランベール先生に聞いてもらって、共感してもらって、凄く胸の奥が軽くなった気がする。

 

 フランベール先生はただウンウンと聞いてくれているだけなのに、なんとも不思議だ。


「ローエさんにも言えばいいのに。きっと聞いてくれると思うよ?」


「冗談はやめてください。なんで私があいつに。……それにあいつが私の話なんて聞くわけないでしょう?」


「んまっ! そんなことありませんわよ?」


「なっ!?」


 突如聞こえたローエの声にカティアは振り向く。

 家の物陰から現れた彼女に、カティアは弱音を聞かれたのでは!? という不安に駆られ、嫌な汗が噴き出す。


「わたくしだって言ってくだされば聞いて上げますのに。それくらいの(うつわ)は持ってますわ」


 ニヤニヤと笑いながらローエは自慢らしい金髪を手で撫で揺らした。


「お、お前いつから居た!」


「最初からですわ」


「んなんっ!?」


 嫌な予感が的中して心臓を鷲掴みにされるような衝撃を覚えた。

 よりによってこの女に!


「ふふふ、ローエさんもカティアさんが心配だったのよね?」


「ご冗談を先生。なんでわたくしがカティアさんを」


「あらそう? 暗い顔してるカティアさんをチラチラ見てたから、てっきりローエさんも心配してるのかと思ったわ」


「チ、チラチラなんて見てませんわ!」


「カティアさんに声掛けるタイミングをず~っと見計(みはか)らってた感じだったし、てっきり」


「だ、だから! 見てませんって! 別に心配なんてしてませんわよ!」


「ずっと盗み聞きしてたのに?」


「いやそれはですね!」


 フランベール先生に攻め立てられてタジタジになるローエ。


 話を聞く限り、自分は沈んだ気分が顔に出てしまっていたらしい。

 それでフランベール先生と……ローエにも心配を掛けてしまったようだ。


「ローエ」


「な、なんですの?」


「……ありがとう。私は大丈夫だ」


「!」


 こちらの言葉に驚いた様で、ローエは目を丸くした。

 それからすぐ肩を(すく)めて。


「……そう、なら良かったですわ」


 と、どこか安堵した様にローエは言ってくれた。


「ところでお前は調合師のところへは行かなくていいのか? ゼクードが切り落としたS級ドラゴンの爪を手に入れたんだろう?」


 とりあえず間を取り繕おうとカティアは気になったことを聞く。

 すると今度はローエの顔が暗くなった。


「それなんですが、エルガンディの調合師さん達がみんな氷塊の被害に()われていて、秘薬の調合をしてくださる調合師さんがいないのですわ」


「最悪だな……ケガや死亡なのか?」


「ええ。その類ですわ。だから仕方ないんですの。ケガをした調合師さんの復帰を待つしかありませんわ」


 諦めの言葉を発したローエの後、誰かの足音が忙しなく鳴り響き始めた。

 それはこちらへと近づいており、次の瞬間にはその姿を現した。



「ローエお嬢様!」


 大袈裟に叫んだのは執事服を来た高齢の男だった。


「こちらでしたか!」


「セルディス? どうしましたの?」


 セルディスと呼ばれた執事服の男は息を上げ、なんとか整えながらハンカチで額の汗をぬぐった。


 こんなご老体がここまで身体を酷使してローエを探していた。

 それだけで、カティアとフランベールも何かよほどの事態が起きたのだと察することができた。


 セルディスは息が整って、意を決したように口を開く。


「リ、リーネお嬢様の容態が、悪化しました!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ