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第26話【囮となる隊長】

 S級ドラゴンの遠距離攻撃【氷山】はグリータたちのいる騎士学校にも被害を及ぼしていた。


「う……つぅ!」


 グリータはいつの間にか倒れて頭を打っていた。

【一年Aクラス】の教室がいきなり激震したかと思うと、氷塊が壁をぶち破ってきたのだ。


 そこまでは覚えてる。

 一瞬の出来事で何が起きたのかまだ分かってないが。


「な、何なんだよこれ……」


 いきなり飛んできた氷の塊。

 それは冷気を発して教室の床を白い霧で覆う。

 ふらつく身体を何とか立たせて氷塊を見ていると、他のクラスメイトたちも立ち上がってきた。


「で、でけぇ氷だ……なんでこんなもんが飛んで?」

「S級ドラゴンの攻撃、なのか?」

「うそだろ!? どんな遠距離だよ! S級ドラゴンはまだ城壁の外にいるんだろ!?」


 半壊した教室内でクラスメイトたちが騒ぎ出す。

 しかし、その最中にも氷塊の雨が次から次へと降り注ぎ、街に甚大な被害をもたらしていた。


 ここからでも聴こえる街人たちの悲鳴が耳朶(じだ)を打つ。

 割れた窓から外を覗けば、氷塊によって潰れた家は数多く窺えた。

 その潰れた家の下敷きになっている人や、子供を連れて必死に逃げている女の人までいる。


 そこには王国騎士たちの姿はない。

 みんなS級ドラゴン討伐のためにゲートに出向いているのかもしれない。

 まずいなこのままじゃ。


「み、みんな! 学校を出て街へ行こう!」


 グリータが言うと、クラスメイトたちが「え?」となった。


「俺たちは戦えないけど住民の避難や救助くらい習ってるし出来るだろ。急ごう!」


「お、おう!」

「わかった!」


 クラスメイトたちがグリータに同意して動こうとしたとき、また氷塊が騎士学校に直撃したらしく大きく揺れた。


「うわああああ!」

「イッテェ!」


 グリータもクラスメイトたちも揺れに耐えられずに転倒した。

 

「おい! これ本当に大丈夫なのかよ!」

「わかんねぇよ!」

「ゼクードはなにやってんだ!?」

「知るか! てかアイツ無事なのかよ!」

「フランベール先生が心配だよ!」


 いつ死ぬか分からないこの状況に、ついに怒鳴り出すクラスメイトたち。

 かの英雄でさえ相討ちになったS級ドラゴンだ。

 人間が(かな)う相手なのだろうか?


 そんな胸の奥に湧き起こる不安を圧し殺し、グリータは念じた。


 ゼクード、フランベール先生……どうか、無事で!



「奴のブレスに備えろ!【第一城壁】のゲートを封鎖する!」


 そんな総司令の指示が聞こえた。

 俺は先にその【第一城壁】を降りて、近くのA級ドラゴンたちを斬り伏せていく。


 ゲートを封鎖する味方の邪魔はさせない。


 ローエたちや他のA級騎士たちも城壁を降りてきて俺に加勢し始めた。

 飛来する火球群を避けて、俺は大軍に斬り込んでいく。


 急がないと。

 S級ドラゴンに二発目のブレスを撃たせてはならない!


 あの氷山も危険だが、ブレスはもっとヤバい。

 あの頑丈なゲートを一撃で破壊する威力だ。

 いま総司令が【第一城壁】のゲートを閉じたから、あのブレスはもう一発は防げる。


 でも次はない。

 あんな威力のものが街に届いたら、それこそ最悪な被害がでるだろう。


「S級ドラゴンに張り付く! みんな援護してくれ!」


 火球の爆音に負けまいと大声を張り上げた俺は、ローエたちの「了解!」という言葉をしっかり聞いた。


 意を決して駆け出し、飛び掛かってくるA級ドラゴンの爪をかわした。

 そのまま剥き出しの首を両断し、さらに前進する。


 目前にいたA級ドラゴンが俺に火球を撃とうとしていた。

 そこをローエが割り込み、ハンマーによって顎を叩いて暴発させる。

 自爆して怯んだA級ドラゴンを、ローエは流れるような連撃で一気に叩き潰した。


 と、その前に出たローエを叩き潰そうと彼女の左右からA級ドラゴンが強襲。

 だがそれに備えていたらしいフランベールとカティアが武器を展開。


 左の敵をカティアが貫き、バスターランサーの起爆を喉にお見舞いして倒す。


 右の敵はフランベールが迎撃した。

 ドラゴンの頭部に一瞬で数発の『アイスアロー』を撃ち込み絶命させた。


 さすがだ。

 やはり頼りになる部下たちである。


 A級騎士たちも俺達がA級ドラゴンたちに囲まれないよう左右に部隊を展開してくれている。

 気の利いた陣形だ。助かる。


【第一城壁】からは破損してないバリスタや大砲の援護射撃が再開され、ゲートも封鎖を開始した。


 よし。

 一刻も早くS級ドラゴンに張り付く!


 俺はS級ドラゴンを守って群がるA級ドラゴンをひたすら斬り伏せていった。


 おそらく討伐速度は俺が一番速いだろう。


 その光景をS級ドラゴンに見せつける!

 見せつけて、思い知らせる!

 お前たちにとって一番危険な敵は俺だということを!


 さぁ来い!

 俺を狙え!

 そうすれば!


 俺の思惑はS級ドラゴンに届いたらしく、奴は大口開けて大咆哮を発した。

 それは鼓膜が破れそうなほどの大音量で、またそれによって生じた衝撃波も凄まじかった。


 味方たちが耳を塞ぎ、衝撃波によってぶっ飛んでいく。

 俺も耳を塞いでそのまま吹き飛ばされた。

 とんでもない咆哮の風圧だ。

 踏ん張り切れない。


 倒れながらローエやフランベールたちの状態を一瞥(いちべつ)すると、みんな耳を塞ぎ苦痛の表情を浮かべているのが確認できた。


「くそ! なんて咆哮だ!」

「うぅ、耳がキーンってしますわ!」


 ローエとカティアが言った。

 二人とも衝撃波より耳のダメージの方がキツそうだ。


「あ、ゼクードくん! 狙われてるわよ!」


 突如弾けたフランベール先生の叫びにハッとなり、前を向く。

 火球の乱れ撃ちが俺に向かって飛来していた。


「うおっ!?」


 慌ててその全てを斬り伏せるも、A級ドラゴンたちは俺に狙いを絞って火球を乱射してくる。

 どうやら先ほどのS級ドラゴンの咆哮はA級ドラゴンに対する指示だったようだ。


 やっと俺が一番厄介だと認めたようである。

 これでいい!

 A級ドラゴンを引き付けて、ローエたちをS級ドラゴンへ向かわせれば!


「ローエ・カティア・フランベール! 俺はA級ドラゴンを引き受ける! 三人はこのままS級ドラゴンに張り付け!」


「な! 正気か隊長! 何匹いると思ってるんだ!」


「一人でやるわけないだろ! A級騎士と連携する! 早く行ってくれ! S級ドラゴンにブレスを撃たせるな!」


 真剣な声音で言い、カティアは「了解!」とローエ・フランベールを連れてS級ドラゴンへ回り込む。

 俺はA級ドラゴンたちが向かってくるのを利用し、彼女たちの反対方向へ走った。


 相変わらず火球による弾幕が激しい。

 バリスタや大砲の援護を受けられる距離を保ち、A級騎士たちの支援も受ければなんとかなるはず!


 できるだけ早く全滅させ、ローエたちの加勢に向かわねば!


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