第273話【一撃必殺】
【シエルグリス】の【北西】に向かったグロリアは、レミーベールと共に広間に入った。
そこには墜落した【顔の大きなドラゴン】が猛威を振るっており、周囲を炎の海にしていた。
家を焼かれ、中から慌てて住民が逃げていく様子も伺えた。
まだ逃げ遅れた住民がたくさんいる。
おそらくいきなり空からドラゴンが降ってきた形になったせいで、こんなことになったのだろう。
当のドラゴンは逃げ戸惑う住民を襲ってはその大きな口で屠っていく。
応戦に駆け付けたシエルグリスの騎士たちもブレスで焼き払われた。
凄まじい量の炎だ。あの大きな口から出すブレスは範囲・威力と共に脅威である。
距離を取れば広範囲のブレス。
接近すれば大口の噛み付き。
厄介なドラゴンだが、ヤツの大きな翼は膜を撃ち破られており、もう風を掴んで上昇することはできないだろう。
この期を逃す手はない。
「行くわよグロリア! あいつを止める!」
「了解!」
石畳を蹴り、レミーベールとグロリアは【顔のドラゴン】に突撃した。
しかしその途中で声が。
「誰か助けて! お母さんが! お母さんが!」
子供の声が弾け、気づいたレミーベールとグロリアはそこを見た。
一般人の女性が崩れた家の下敷きになっていた。
それを助けようと小さな少年が手を引っ張っている。
「お母さんはいいから逃げなさい! 城に行くのよ!」
「やだ! お母さんも行くの!」
レミーベールとグロリアは即座に踵を返して、その少年の元へ向かった。
だが同時に【顔のドラゴン】も少年の存在に気づき、その強靭な四肢で辺りを蹴散らしながら迫りくる。
「グロリア!」
「わかってる!」
お互いの確認をした後、レミーベールは【顔のドラゴン】の目の前に割り込んだ。
敵は割り込んできたレミーベールを飲み込もうとその口を開け、噛み付いてきた。
「ふんっ!」
背中の大剣を抜刀し、その大口の噛み付きをガードした。
口の中につっかえさせるように大剣を押し込む。
敵の突進をまるまる受け止める形になったレミーベール。
踏ん張っている両足が石畳を弾けさせた。
なんとか敵の前進を食い止めるレミーベールを置いて、グロリアは少年の元へ辿り着いていた。
少年とその母親がグロリアを見て何か言おうとしたが、無視して瓦礫を掴んだ。
「おらぁああああ!」
瓦礫どころか崩れた家そのものがひっくり返った。
あまりのパワーに少年と母親がギョッとなる。
「ほら! 速く逃げて!」
「は、はい! すぐに……あくっ!」
「お母さん!?」
その母親は立てずに崩れた。
挟まれていた足に外傷はないが骨折しているようだ。
やば。
骨折してるわこの人。
こんな時ってどうするんだったっけ?
とにかくここから遠ざけないと!
思い至ったグロリアは武器を片手に持ち変え、その母親を背中に担いだ。
「うぅっ!」
「お母さん!」
骨折した部分が痛むのだろうが、今は我慢してもらうしかない。
ここに居たらいつブレスが飛んで来るか分からないから。
「あんた走れるわね? ついて来なさい!」
グロリアが少年に言うと、彼は半泣きでもしっかり頷いた。
よく見れば少年もすこし焦げた服でボロボロになっている。
いつ倒れてもおかしくないくらい身体をブルブル震わせていた。
できれば一緒に抱き抱えて走ってやりたいが、片手は武器で埋まっている。
万が一のことを考えたら迂闊には手放せなかった。
自分で走ってもらうしかない。
「レミー! すぐ戻ってくるから持ち堪え──」
「【ドラゴンインパクト】!」
いきなりだった。
敵の腹に強烈な一撃をお見舞いしたのはグロリアの母親ローエ!
【気】を纏ったマグナムハンマーの一撃は【顔のドラゴン】の腹を直撃し、衝撃がそこを貫通した。
その衝撃は近くにあった石造りの建物を木っ端微塵に破壊してしまう。
あまりの破壊力にドラゴンは白眼を剥いて唾液を吐き散らし倒れた。
突然の乱入者にグロリアとレミーベールは驚き、母親と少年も唖然とする。
何度かマグナムハンマーを回し、石突を地面につけたローエが優雅に金髪を撫でた。
「あらあら。一撃で終わりですの? 弱っちいドラゴンですこと」
「お義母さん!」
「あらレミー!? なんでここに?」
「え、いや、えっと……」
レミーベールが言葉に困っているとグロリアが割って入った。
「ちょっとお母さん! なんで戦ってんのよ! 妊婦でしょ!」
「グロリア!? ……わたくしに言わないでくださる? カティアが先に飛び出したんですわ。わたくしは彼女を連れ戻しに来ただけですわよ」
「あ、そうだったんだ」
「おかげで助かったわ」
納得するグロリアとレミーベールは、倒れたドラゴンを見た。
ピクリとも動かない。
完全に死んでる。たった一撃で。
「お義母さん……本当に強かったんだ」
「五千のS級ドラゴンを倒したのって、嘘じゃなかったのね」
「こらグロリア。速くその背中の人を運んであげなさい」
「あ、うん。行くわよ」
ポカンとローエを見ている少年にグロリアが言った。
しかし少年はボーッとローエを見つめているだけで返事がない。
「……? ちょっと? 聞いてる?」
「ゼイド?」
「ぁ、う、うん!」
ようやくグロリアと母親の声に気づいた少年は頬を赤くしていた。
どうやらローエに一目惚れでもしたようだ。
男の子はすぐ強い存在に惹かれるから分かりやすい。
悔しいけれど、確かにさっきのお母さんはカッコ良かった。
まともにやり合えば絶対に苦戦したであろうあのドラゴンを一撃で倒すなんて化け物だ。
あんなに強いのに語り継がれた伝説がお父さんだけってのは、確かに可哀想よね。




