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第98話【ゼクード強化版】

 過去ではたった一体で【アークルム王国】を火の海にし壊滅させたS級ドラゴンの『リザードマン』。


 それが今や何十体と世界をうろつく。


 そしてカティアたちの目前には六体ものリザードマンが現れた。

 本来なら、勝ち目などない絶望的な状況なのだろう。


 でもそれは過去の話。


 六体中三体がすでにカティアたちの手によって瞬殺された。


 カティア・ローエ・フランベールの三人はSS級騎士。

 夫であり隊長でもあるゼクードのSSS級には及ばないものの、その実力はすでに過去のゼクードさえも凌駕している。


 妊娠による未修行期間(ブランク)さえなければ、SSS級に達していたと言われている。


「【ドラゴンスティンガー】!」


 カティアが踏み台にしているリザードマンから飛び、その技を叫んだ。


 技名こそ自分で付けたものだが、これはゼクードから教わった【(ドラゴン)突き】をさらに強化したもの。


 カティアの【バスターランサー】に代わる新たなるトリガーウェポン。

 オリハルコン製の銃槍【クリムゾングレイス】がリザードマンの喉元に突き刺さった。


 竜鱗と竜骨さえ今では簡単に貫通させるカティアの攻撃力。

 そして【クリムゾングレイス】の斬れ味。

 そしてトリガーウェポンならではの爆破トリガー。


 カチンと引き金を引くと、爆破の威力さえ強化されたそれはリザードマンを内側から爆発させ肉片を弾かせた。


 残りは二体。

 そいつらはカティアが手を下すまでもなく、ローエとフランベールがすでに攻撃に向かっていた。


「【ドラゴンインパクト】!」


 叫んだローエも、妹リーネから提供された新武器【ヴェルデリボルバー】に『気』を練り込ませて振り抜いた。

 リザードマンの顔面を見事に捉えたフルスイング。

 殴ったと同時に引き金をひき爆砕する。


「【ドラゴンストライク】!」


 フランベールの声が弾け、ほぼ同時に『気』を纏ったアイスアローが新大弓【ブルーブランド】によって放たれた。

 かなりの長距離だと言うのに放たれたアイスアローの威力は真っ直ぐと衰えない。


 フランベール自身の技量も相まってリザードマンの脳天を一発でぶち抜いた。


 開戦から数分。

 六体のリザードマンは全滅した。

 二年前は脅威的な強さを誇っていたリザードマンも、今のカティアたちの敵ではなかった。


「まったく。お昼寝の時間に来るのだけはやめてほしいよね」


 フランベールの愚痴に「夜中も勘弁ですけどね」とローエが答える。

 

 みんな育児に苦労している母親だから、その辺の事情は理解し合っていた。

 だから端で聞いていたカティアも「そうだな」と笑って同意できた。


 すると草でカモフラージュされた地下への入口がガチャリと開き、リーネが顔を出してきた。

 しかも慌てた様子で。


「みなさん大変です!」


 嫌な予感がする。

 カティアは直感的にそう思った。

 おそらくローエとフランベールも。


「赤ちゃんが泣き出しました!」


「あ~……」


 三人の母親女騎士たちは揃って顔を片手で覆った。



「たっだいまああああ! 今行くぞ子供たちぃいいいい!」


 鉱山【ヨコアナ】に無事帰還したゼクードは子供がいる部屋へいきなり向かって行く。

 足場の悪い洞窟内だと言うのに凄まじいスピードだ。


「おいゼクード! 国王さまに報告!」


「頼んだグリータ!」


「ふざけんなテメェ! 仕事しろ!」


 しかしゼクードは行ってしまった。

 どんだけ子供好きなんだあいつ。

 

「義兄さまったら、子供が産まれてから夢中だね」  


 レィナが微笑ましく言う。

 ゼクードがあの三人の女騎士を妊娠させていたのは、当時みんなを驚かせた。


 国王に戦力的な意味でお叱りを受けたゼクードだったが、それでもなんだかんだ国王や市民は彼らを祝福した。


 子供が産まれるのはめでたいことなのだから。


 これだけ人口が減った今ならとくに。


「可愛くてしょうがないんだろう」


 笑って言ったのはガイスだった。

 そう言えば彼も。


「そう言えばガイスさんも、もうすぐ産まれるんでしたっけ?」


 思い出しを口にしたグリータは、ガイスの嫁の名を思い出した。

 たしかリリーベールさん……だったかな?


「ああ。もうすぐらしい」


「やっぱり楽しみにですか?」


 レィナの問いにガイスは珍しく照れて頬を掻いた。


「そ、そうだな。存外、心が踊っているよ。だからゼクード隊長の気持ちも、分からなくもないんだ」


「なるほど」


 グリータは頷く。


「じゃ、ガイスさんも早くリリーベールさんとこ行ってあげなよ。国王さまへの報告はオレとレィナでやりますから」


「ありがとうグリータくん。感謝する」


「いえいえ」


 そしてガイスをも見送り、レィナと二人っきりになった。

 もう仕事らしい仕事は報告だけだから、むしろ自分だけでもいいレベルだ。


「最近なんか子供ラッシュだね」


 それとなくレィナが言ってきた。


「そうだな」とグリータは返す。


「グリータは欲しくないの?」


「なにが?」


「子供」


「……欲しいけど産んでくれる相手がいねぇだろ?」


 彼女いない歴=年齢のグリータには、そう答えるしかなく、肩をすくめた。

 すると何故かレィナの顔が一気に不機嫌なそれになる。


「鈍感」


「へ?」


「少しは義兄さまを見習ったら?」


「ゼクードを!? な、なんで?」


「知らない!」


 不機嫌な声でそう言ってレィナは別のルートを歩き出す。


「ぉ、おいおいどこ行くんだよ。報告は?」


「お願いします行ってらっしゃい。アタシはリーネのとこ行ってくるから」


「はぁ!?」


 しかし止める間もなく行ってしまった。

 まぁ、報告なんて一人でも十分だけど。


 ぽつんと一人になってしまったグリータ。

 なんか寂しい。


 なんでレィナはあの手の話になるとああも不機嫌になるんだ?


『鈍感』と必ず言われる。


 なんだろ……もしかして本当にレィナはオレのこと。

 何度かその思考に至ることはあった。

 でも。


「いや、ないな……」


 モテたことがないグリータには、そこまで自惚れられる自信はなかった。



「ただいまぁ~グロリア! いい子にしてたかぁ~?」


 フォルス一家に与えられた洞窟内の大きな空間で、ゼクードは我が子の生肌を堪能していた。


 ローエとゼクードの娘グロリア。

 母親に似てエメラルドグリーンの瞳が美しくも可愛い。

 抱っこしながらプニプニのほっぺにキスをする。


 すると普通に嫌がられた。

 ショック。


「おしおしただいまレミーベール。お父さんだぞ~」


 娘グロリアをローエに引き渡し、今度はフランベールとゼクードの娘レミーベールを抱いた。

 この子はお父さん好きなのか、すぐにゼクードに笑顔を見せてくれる。

 キスしても嫌がらない。

 そこは母親に似ているとも言えるかも。


 ゼクードはレミーベールの尊さを堪能してからフランベールに返し、ついに一番の問題児であるフォルス家の長男と対面する。


「ただいまカーティス。お父さんだぞ~?」

「……」


 無反応。

 カティアとゼクードの間に産まれたフォルス家唯一の男の子だ。


「いい子にしてたか~? ん~?」

「……」


 またも無反応。

 キスしても無反応。

 嫌がりもしなければ怒りもしない。

 笑いもしなければ泣きもしない。


「……」

「……」


 息子とじっと見つめ合う。

 ゼクードとそっくりなパープルの瞳がカッコいいのだが、なにせ愛想がない。


 ゼクードは仕方なくカティアにカーティスを返した。

 そしたらキャッキャッとカーティスは嬉しそうにカティアに笑顔を見せ出した。


 ゼクードはすぐさまカーティスを受け取り、また顔を覗き込む。


「カーティス?」

「……」


 また無表情に戻っていた。

 いつもこうである。

 こいつは母親好きらしく、かと思えばローエやフランベール。レィナやリーネにも笑顔を見せる。


 でもゼクードやグリータ。

 ガイスらなどの男には決して笑顔を見せない。


「カーティスお前……誰に似たんだ?」


「お前だろう」


 カティアが言った。


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