演習(ディーヴァ)
その三時間後。
最後の演習が開始された。
「ディーヴァ、作戦、開始するっ!」
力強く叫ぶ。自らを鼓舞し、俺は戦場に立った。
「しっかし、重いよなぁ、この装備。もうすこしどうにかならんもんかねぇ?」
そう一人ごちる。
「そのようなものだ」
意外なところから返答。俺とは少し違い、装甲を強化している。
――戦闘開始――!先手を、撃つ!
「はああああぁぁぁっ!」
小刀――というよりは日本刀に近いそれを、投げる。
と同時に、ヘビーライフルを放つ。
無論躱される。だがそれでいい。
今ので間合いは掴んだ。大剣を形成し、肉薄。
両手だと思わせ、鍔迫り合いに。片手に持ち替え、空いた手で、殴る。バランスを崩したところで左手に小刀を形成、打ち込む。
――やはり、近接戦なら、こちらが有利。このままこのレンジで――
と思ったが。
「いい狙いだ――だが、目線には気を付けろよ?」
バックステップで躱され、そして、打ち込まれるアンカー。地面に縫い付けられる。バランスを崩し、倒れる。
そこを狙って動く。わかりやすい。
一瞬で読み切り、体をひねる。そしてそのままの勢いで装甲ごと足を叩き斬り、再形成。
さらに、連射。盾で弾かれるが、それでいい。
「はああああっ!」
轟、と唸るスラスター。体におもりが載せられたかのように重くなる。大剣を振るう。
ザンッ! 地面がえぐれる。躱された――だが、まだっ!
引き抜き、今度は横に振るう。力任せに振りぬき、奴の盾を奪い取る。
「そうか――確かにお前は、警戒すべき相手か――」
その一言で、雰囲気が変わる。冷静な瞳はどこへやら。燃え滾るような熱い瞳が爛々と輝く。その眼に、狂気はない。圧倒的な強者。それだけを感じさせる。
(やっぱ、強い。だからってあきらめるわけには――!)
そして、奴の姿が霞と消え。
(早いっ――目が追い付かねえ)
目の前に、現れる。大剣を振るいながらも。
「ガハッ!」
地面をゴロゴロと転がる。視界が奪われ、死角に奴が入り込む。
轟、と聞こえた。とっさにサイドステップ。だが、吹き飛ばされ、力なく地面に引きずられる。
ビシュッ、ビシュッッ!
血が噴き出す。動脈がやられる。
「dyeva system auto yellow line」
システムが一部凍結される。とっさに修復したが、血が、大量に失われる。
頭が働かない。だがそれでも、生きる希望だけは失ってはいなかった。
必死に心を奮い立たせ、目の前の強敵に向かう。ここでは、死ねない。
「よく、立った。だが、もう――手遅れだ。苦しまないようにしてやる――」
奴に、大量に圧縮されたナノマシンが、集まる、集まる。そして、圧倒的な、暴虐の光。それが視界を埋め尽くして――
「さようなら、ディーヴァ」
その、光弾は俺の体を――貫きはせず、ふわふわと、こちに来る。
――否。体感速度が、遅くなっている。
そして、わかってしまった。回避成功率、ゼロ。もうイエローゾーンに入った。ここから先の被弾は――許されない。
だけど、それでも、可能性に賭ける。奴は恐らく――
「あああああああぁぁぁっ!」
無謀な突貫。
上がる血飛沫。
体が感覚を手放す。
それでも。
それでも俺は、走ることをやめない――!
「dyeva system red line limit over awake」
装甲が限界まで切り詰められ、スラスターが増設される。そのままの勢いで奴に突っ込み、吹き飛ばす。と同時に、刃を突き立てる。両腕を破壊する。
「dyeva system personal open limit over」
さらに装甲が変わる。刀を振るう。
刃が、当たった感触。血の生暖かさを感じる。
そのまま振りぬき、さらに斬り付ける。
「なあッ――お前ッ!」
何かに奴が気付く。
俺も、既にわかっている。体に、縦横無尽に走る、赤い線。重傷のまま、激しく動いたために、完全に開いている、傷口。そして、俺が意識を――手放す、その瞬間――
――お前、死ぬなよ?お前にしか、出来ないことがあんだからよ。
親友の声が聞こえた。何とか、最後の一線で踏みとどまる。
「dyeva system auto limit over」
さらに、ギアがリミットを解除する。最後の力を振り絞り、形成する。
「これで終わりにしようぜ?」
「そのようだな――よく耐えた、ディーヴァ」
奴が、また笑う。もうすぐ、終わりが来るか――頭が、正常に機能しない。
最後の一滴まで、力を圧縮していく。
――いいか? 力をやたらめったらに使うな。体全ての速度を使え。力に、頼るな。力は、速度にはならない。だが、速度は、力となる――
あの言葉がよみがえり、あの型を作る。極限まで加速するための武術。その奥義を。
空気が張り詰める。
「はあああああああッッ!」
絶叫とともに、超加速。すべてを、この一撃に賭ける。
視界が、スローモーションになる。迫る刃。その軌跡。地面をける。最終加速。
全てを、腕に集中させる。
そして――振りぬく。
「ぐああっ……!てめえッ!」
憤怒のままに、荒れ狂う刀。その嵐から抜け、体勢を整える。とはいえもう、時間はない。今度は空中で姿勢を整え、加速する。
「これで――終わりだあっ!」
裂帛を受け、加速するギア。反応速度についてくる体。さあ――どう出る――?
「ふん――何度も同じ手――」
奴が何かに気づく。だが、遅いっ!
奴が刃を振るう瞬間。バックステップ。陽動に陽動を重ね――ナイフを投げる。それをはじくが――遅い。さらに速度を溜め――地面を穿つ。
「――ぁぁあああああああッッッ!」
一思いに、叩き斬る。右腕を跳ね飛ばす。サイドステップ。
「まだだっ!」
腕を再形成し、振りかぶる彼。だがそこに俺はいない。ここは――俺の距離だ。
再び加速。地面をえぐり、それが煙幕の代わりになる。タックルをかまし、地面に倒す。
「はあッ!」
刀で腕を地面に縫い付ける。右腕がビットにもぎ取られるが、気にせず。足に形成しておいた隠し腕で、両脚も、縫い付ける。
そして――最後の一撃を、放つ。
「これで――詰み」
一気に振り下ろし、コアを露出させる。
刃は、奴のコアを貫き――それと同時に、機能を停止させた。
「ディーヴァ、作戦終了」
俺には一つ思うことがある。戦争をやめるために、力を使える仲間であってほしいと。
そして、最終的に残ったギアは、アヴァランチ、ディーヴァ、ヴァイアランの三機。
その中の最年長のヴァイアランが部隊長を務めることになった。
ここまでがある意味序章。さあ、いよいよ本編です!